半月城通信
No.125(2007.3.26)

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    目次

  1. 安倍内閣の「慰安婦」に対する感性
  2. アメリカ人の「慰安婦」に対する感性
  3. 「安倍晋三の二枚舌」は四面楚歌
  4. 竹島=独島とEEZ
  5. 竹島=独島問題ネットニュース 6
  6. 偽ドル紙幣「スーパーノート」疑惑

  7. 安倍内閣の「慰安婦」に対する感性 2007.3.10 メーリングリスト[AML 12457]   半月城です。   アメリカに住む日系三世は、アメリカ人でありながら日本の文化や社会などの実情を よく知る人も多いだけに、両国の架け橋的な存在として顕著な働きをしているようです。 しかし、その働きは母国「政府」にとっては必ずしも歓迎されるものばかりとも限りませ ん。   アメリカ下院議員のマイケル・ホンダ氏の活躍がその一例です。今、安倍内閣にとっ て、もっとも目ざわりな存在がホンダ氏ではないでしょうか。そうした事情を朝鮮日報は こう伝えました。        --------------------  ホンダ議員は人権を守るためなら、母国に対してもためらいなく批判を行った。平和奉 仕団を経て、故郷で教師となり、1996年にカリフォルニア州議員として初めて政界に進出 した時から一貫した姿勢だ。ホンダ議員は1999年、日本政府に従軍慰安婦に対する謝罪と 賠償を要求する決議案を州議会に提出し、通過させた。  当時、現地の日本総領事館では、ホンダ議員の発議を防げなかった職員たちが、本国に 召還されたという。  ホンダ議員は2000年に連邦議会下院議員に当選し、中央政界に進出した。そしてレイ ン・エバンス議員が主導した従軍慰安婦謝罪法案の提出に賛同した。  昨年この決議案は下院の国際関係委員会を通過したものの、日本の猛烈なロビー工作に より本会議での採択はかなわなかった。ホンダ議員は今年引退したエバンス議員からこの 活動のバトンを受け取り、再度決議案を提出した。  ホンダ議員は「過去の過ちを認めるのに遅すぎるということはない」とし、日本政府の 謝罪を促している(注1)。        --------------------   ホンダ議員が提出した「慰安婦」謝罪法案は日米のみならず、韓国や中国、台湾など 世界各国で大きな反響を巻きおこしました。特に2月16日に開かれた下院外交委員会では 韓国の朴槿恵・大統領候補を始めとしてアジア各国からも大勢傍聴し、400名が「慰安 婦」の話に熱心に耳を傾けました。   その席で、かねてより「私は慰安婦ではない」と主張する韓国の李容洙さん(注2)や 金君子さん、「白馬事件」の当事者であるオランダ人のオフェルネさん(注3)が証言を行 ないましたが、それを朝鮮日報はこう伝えました。        --------------------  イ・ヨンス(79)氏は「16歳の時に台湾に連行され、1日に4人から5人の日本の軍人に 犯された。反抗すれば電気拷問やムチなどで打たれ、つい最近まで当時感染した性病の治 療を受けていた」と証言した。  また、同じ年に中国に連行されたキム・グンジャ(80)氏は「慰安所に着いたその日か ら日本の軍人に殴られ左の鼓膜が破れた。1日に20人から40人の軍人に犯された。逃げ出 して捕まると死ぬほど殴られた」と証言した。  オランダ人のジャン・ラフ・オハーン(84)氏は、「インドネシアのジャワ島に住んで いた1942年の19歳の時に日本の軍人に連行された。日本の将校に日本刀でもてあそばれ初 めて犯された。醜く見えるように髪も全部刈ったが役に立たなかった」と証言した(注4)。        --------------------   楽しかるべき青春をよりによって日本軍兵士の「衛生的なる共同便所」にされ、ある いは肌が白い「白馬」として犯されつづけた屈辱や苦しみは、とうてい筆舌につくしがた いことでしょう。   また、そのような性奴隷としての過去もさることながら、その後の人生もどんなにつ らかったことでしょうか。彼女たちは、あまりにも悲惨な生き地獄を体験したゆえに「慰 安婦」としての過去を半世紀も誰にも語れず、自分ひとりの胸にじっと秘めて、ひたすら 耐えてきました。   そうした彼女たちの証言に対し、安倍首相は5日の参院予算委員会でこう言い放ちま した。  「官憲が家に押し入って 人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった。米下 院の決議案は事実誤認がある」   安倍首相は「慰安婦」の証言を真剣に聞く耳をまったく持たないばかりか、被害者の 傷に塩を塗りこむようなことを平然と語りました。どうやら安倍首相は、公文書に「官憲 が家に押し入って 人さらいのごとく連れて行く」という記録がないから「慰安婦」の強 制連行がなかったと主張したいようです。   しかし、はたして官憲が「人さらいのごとく強制連行した」などと公文書に書くで しょうか? とうてい考えられそうにありません。しからば当事者である「慰安婦」たち の証言が第一に重んじられるべきではないでしょうか。それに耳をふさぎ、目を閉ざすよ うな人は何も語る資格がありません。そんな人の発言は非難されてしかるべきです。   あんのじょう、安倍首相にアジア各国などから非難が殺到しました。韓国政府からも、 台湾政府からも中国政府からも異議がだされました。李肇星・中国外相は、「慰安婦」問 題は「日本の軍国主義者が第二次大戦中に犯した重大な罪の一つ」「日本政府は歴史の事 実を認めるべきだ」などと批判しました(注6)。   批判はアジアばかりではありません。ロサンゼルス・タイムズ(電子版)では、国際 的な人権問題に詳しいディナ・シェルトン教授が寄稿で「膨大な歴史的記録を否定した首 相の発言によって被害者はさらなる苦しみを味わった」と批判。首相発言を「修正主義」 と指摘し、日本政府は生存者に対する補償を「道義的にも法的にも果たす義務がある」と 述べました(注7)。   また、ニューヨーク・タイムズはこの問題を記事のみか、6日付の社説でも取りあげ、 こう記しました。        --------------------  「安倍晋三首相は従軍慰安婦について何を理解できずに謝罪を拒否するのか」  従軍慰安婦についての問題は長い間多くの論争を引き起こしてきた。日本は第2次大戦 中に日本軍への性的奉仕のために韓国など植民地から動員した女性で慰安所を設置、運営 した。  彼女たちは商業的な売春女性ではなかった。明らかに強制的に連行された女性たちだっ た。売春ではなく終わりのない強姦の被害にあったのだ。日本軍がこれに介入したのは日 本側の文書でも明らかだ。また1993年には当時の河野洋平官房長官は謝罪している。にも かかわらず被害者への補償のための民間基金は今月で解散される予定だ。  安倍首相は現在この問題に終止符を打とうとしている。彼は3月1日に日本軍が慰安婦を 強制的に動員したことを裏付ける証拠はないと語った。5日には従軍慰安婦に対する公式 の謝罪を要求する米国下院の決議が通過しても日本政府が再び謝罪することはないと発言 した。しかし日本がこの問題に対して責任をとるのを願う国は米国だけではない。韓国や 中国はすでにかなり前から従軍慰安婦問題に対する日本のあいまいな態度に怒りを表明し てきた。  安倍首相は日本の国際的名声よりも多くの右翼から支持されることに関心があるようだ。 右翼勢力は慰安婦問題は民間企業が行ったものと主張している。  しかしこのように真実をわい曲する日本の態度は日本をより恥ずべき国にするだけだ。  日本は1993年の謝罪談話を見直すのではなく、より拡大しなければならない。また日本 の議会は従軍慰安婦問題に対して率直に謝罪し、生存する被害者に十分な公式の賠償をす るべきだ。安倍首相をはじめとする日本の政治家が過去の恥ずべき行いを認めるのが そ の過ちを克服する第一歩であることを悟るべき時だ(注8)。        --------------------   このような批判の一方で日本政府を擁護する意見も時折聞かれます。日本政府との友 好関係に配慮するアメリカ国務省は「元慰安婦らに対して遺憾の意を示しつつも、日本政 府は以前から慰安婦問題の解決に向け取り組んできた(注9)」とコメントしました。   また、議会内で右派と位置づけられているローラバッカー議員(共和党)は「日本は 決議案が要求している謝罪などの条件をすでに満たしている。前の世代の過ちにより日本 の今の世代が処罰されてはならない」と日本側を擁護し、ホンダ議員と舌戦を展開しまし た(注10)   しかし、意外というか当然というか、このローラバッカー議員すら安倍首相の「米下 院の決議案は事実誤認がある」などとする一連の発言にはキレてしまったようです。中央 日報はこう伝えました。        --------------------  日本が謝罪談話を発表したという理由で 日本政府の責任認定と公開的謝罪を要求する 内容の慰安婦決議案に反対してきたダナ・ローラバッカー連邦下院議員(共和・カリフォ ルニア)が、安倍首相の発言直後に賛成に転じた。 ローラバッカー議員は6日、公報秘書室を通じて「安倍首相の発言は93年当時の河野 洋平官房長官の謝罪談話を全面否認するもので、日本が慰安婦問題に対する歴史的責任を 認めることを拒否しただけに、下院に提出された慰安婦決議案に反対する名分がなくなっ た」と明らかにした(注11)。        --------------------   安倍発言にキレてしまったのはローラバッカー議員だけではないようです。朝日新聞 もこう伝えました。        --------------------   05年末までホワイトハウスでアジア問題を扱っていたグリーン前国家安全保障会議 上級アジア部長は、「先週、何人かの下院議員に働きかけ決議案反対の合意を取り付けた が、(安倍発言の後)今週になったら全員が賛成に回ってしまった」と語る。米国務省も 今週に入り、議員に対し日本の取り組みを説明するのをやめたという(注12)。        --------------------   安倍首相の発言はアメリカでこうも深刻に受けとめられていたのでした。まさに火に 油を注いだ感があります。こうした声に対して安倍首相は「私の発言自体がねじ曲げられ て海外で報道され、それがさらに誤解を拡散させていく極めて非生産的な状況になってい る」として報道陣を非難しましたが、安倍首相は問題の本質をわかっていないようです。   先ほどのグリーン氏は「強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もその点に 関心はない。問題は慰安婦たちが悲惨な目に遭ったということであり、永田町の政治家た ちは、この基本的な事実を忘れている(注12)」と語りましたが、要は国家による強制がど うのこうの言う前に、人として、性地獄をさまよった「慰安婦」を思いやる心があるのか どうかなのです。   グリーン氏が指摘するように「日本から被害者に対する思いやりを込めた言葉が全く 聞かれない」ありさまでは、安倍批判が拡大していくのは当然の成りゆきではないでしょ うか。   安倍首相に好意的な産経新聞は、<首相の本心は「河野談話を見直す気持ちに変わり はない。彼はそうした問題に取り組むために首相になった」(政府筋)とされる(注5)> と解説しましたが、安倍首相が「強制連行」の語句に執着するあまり「慰安婦」に対する 思いやりの心を置き去りにしたのでは、外国の日本批判は永久に止まらないようです。   今からでも安倍内閣は「慰安婦」問題の一里塚である河野談話を建前だけでなく心の 底から素直に認め、そこに書かれたように「このような歴史の真実を回避することなく、 むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい」という河野談話の決意表明をその文言 どおり実行すべきだと思います。おわりに、金科玉条とすべき河野談話を掲げます。        -------------------- 慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話  1993年8月4日  いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来た が、今般その結果がまとまったので発表することとした。  今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの 慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたも のであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間 接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに 当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例 が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。 また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。  なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島 が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、 管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。  いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く 傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわ ゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべ ての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我 が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今 後とも真剣に検討すべきものと考える。  われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓と して直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永 く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。  なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも 関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払っ て参りたい。        -------------------- (注1)朝鮮日報「【萬物相】米下院議員マイク・ホンダ」2007.2.12 (注2)半月城通信「台湾の慰安所」 (注3)半月城通信「白馬事件」 半月城通信「白馬事件(2)」 (注4)朝鮮日報【社説】2007.2.17  「日本はわれわれが死ぬのを待っているが わたしは死なない」 (注5)産経新聞<首相「党に資料提供」 慰安婦問題>2007.3.9 (注6)朝日新聞「従軍慰安婦巡る首相発言」2007.3.7 (注7)毎日新聞「従軍慰安婦問題:安倍発言に批判社説 NYタイムズなど」2007.3.7 (注8)朝鮮日報「慰安婦:過ち認めるのが克服の第一歩=NYタイムズ」2007.3.7 (注9)朝鮮日報「慰安婦:米下院で初の公聴会」2007.2.17 (注10)朝鮮日報「慰安婦:米下院公聴会、一部の傍聴者は涙」2007.2.17 (注11)中央日報「安倍首相の慰安婦発言、米議会で逆風受ける」2007.3.7 (注12)朝日新聞「安倍首相の慰安婦問題発言 米国で止まらぬ波紋」2007.3.9 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    アメリカ人の「慰安婦」に対する感性 2007.3.18 メーリングリスト[AML 12681]   半月城です。   今回、アメリカ下院外交委員会の動きをみて、アメリカ人の感性には意外な思いがし ました。それというのも、「慰安婦」問題で安倍首相の「狭義の強制連行はなかった」と いう発言をきっかけに、それまでは日本政府の主張を擁護していた議員たちがこぞって 「慰安婦」謝罪法案に賛成する側に転じたという報道に接したからでした。   その意外感を解きあかす記事がありました。マサチューセッツ工科大学のサミュエル ズ氏はこう記しました。        --------------------  安倍は3月1日、慰安婦集めには「狭義」の強制性はなかったと発言。受け取りように よっては、旧日本軍の関与を認め謝罪を表明した93年の「河野談話」を一部否定するもの とも解釈できる。さらに5日、首相は米下院で決議案が採択されても、それによって「謝 罪するということはない」と語った。 ●ついに安倍の本音が出たか  自国の過ちに目をつぶる向きはアメリカにもある。それにしても、今回の安倍の対応は アメリカ人には不可解に映る。河野談話が誤った歴史認識に基づいているというのなら、 なぜ公式に撤回しないのか。安倍の姿勢は矛盾しているようだ。  発言の一部だけが伝えられたため、真意がゆがめられた可能性もあるが、アメリカの世 論はそこまで気にしない。強制に「広義」と「狭義」があるという日本政府の言い分は、 理解せよというほうが無理である。強制は強制ではないのか。なぜ日本政府は過ちを認め て、過去を清算できないのか(注1)。        --------------------   サミュエルズ氏が語るように、「強制に「広義」と「狭義」があるという日本政府の 言い分は、理解せよというほうが無理である」という見方にはまったく同感です。   安倍首相は「人さらいのごとく連れて行くという強制」を狭義の強制としているよう ですが、それで何を言いたいのでしょうか? そのような狭義の強制は許されないが、そ れ以外の日本軍による強制は問題ないとでも言いたいのでしょうか? 広義であれ、狭義 であれ、多くの「慰安婦」は日本軍の性奴隷にされて生き地獄を味わったのでした。その 事実こそが重要なのです。   今回、安倍首相がわざわざ「慰安婦」問題を引っぱりだして、ことさら「狭義の強 制」について述べるのは、過去の日本軍の過ちを矮小化することにより、「けがれなき美 しい日本」を強調したいためでしょうか? 先のサミュエルズ氏はこう分析しました。        --------------------  安倍が歴史問題という古傷を開いた訳も、アメリカ人には理解できない。7月の参議院 選に向けてナショナリズムをあおろうとしたのか。もしそうなら、レイプと残虐行為の歴 史で自国に誇りをもつ有権者とはどういう連中なのか。  支持率低迷に苦しむ安倍が、現実主義の仮面を捨て、秘めた信念を前面に出したのかも しれない。だとすれば、少なくともこれで安倍の本音がわかったと、アメリカ人は考える。  ・・・・・  就任当初は確かな足取りだった安倍が、これだけおおっぴらにつまづくとはどうしたこ とか。修復の兆しの見えた韓国や中国との関係も、今回の発言で再びこじれかねない。阿 倍の政治的判断力がなぜ曇ったのか、米政府は首をかしげている。  ニューヨークタイムズの論説員をはじめ大半のアメリカ人は、その理由は明白だと考え ている。安倍政権は国内に台頭する保守派とかかわっているため、賢明な行動が取れなく なっているのだ、と(注1)。        --------------------   このような批判も何のその、安倍首相はしぶしぶ内外の世論におされて河野談話を継 承するとはしたものの、再び「狭義の強制」はなかったとして、わざわざ閣議でこう決定 しました。        --------------------  政府は16日、従軍慰安婦問題で「おわびと反省」を表明した93年の河野官房長官談 話について「(談話と)同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や 官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする答弁書を 閣議決定した。辻元清美衆院議員(社民党)の質問主意書に答えた。安倍首相は国会で 「狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかった」と答弁しており、政府として改めて確 認したものだ(朝日新聞、2007.3.16)。        --------------------   政府は、資料の中に「見当たらなかった」ということを口実に、そのような強制連行 がなかったと強調したいのでしょうが、そのような資料はなくて当然です。公文書に「官 憲が家に押し入って 人さらいのごとく連れて行く」などと書かれる筈はありません。   また、たとえそれに類する記述があったとしても、日本政府は終戦時に公文書を組織 的に焼却したので、そのような記録が残るのは奇跡に近いといえます。そのわずかに残る 資料だけからも強制性は充分に推測されます。その一例が「白馬事件」です。日本軍によ る「狭義の強制連行」がオランダ裁判所の記録に残りました(注2)。   しかし、強制連行があったかどうかが重要なのではありません。日本軍が「慰安所」 の設置を計画し「衛生的なる公衆便所」になるように軍医に性病検査をさせるなど、奴隷 「慰安所」の全般的な運営を管理したり、日本軍が全面的に関与したことが重要なのです。   日本政府はそうした事実を直視しているのかどうか、それが閣議決定からはほとんど 伝わってこないだけに政府の姿勢に批判が集中するのも当然です。韓国の外交通商省は 17日、「歴史的真実をごまかそうとするもので強く遺憾に思う」と日本政府を批判しまし た。一方、中国は温家宝首相の訪日をひかえて表だった批判はしないようですが、修復し かかった中韓との関係もあやういものがあります。   安倍首相の「曇った」政治的判断力に対し、駐日アメリカ大使館のシーファー大使は こう懸念を表明しました。        -------------------- 駐日米大使:従軍慰安婦は「強制的な売春」  米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、シーファー駐日米大使は16日、一 部記者団に対し、太平洋戦争中の従軍慰安婦について「強制的に売春をさせられたのだと 思う。つまり、旧日本軍に強姦(ごうかん)されたということだ」と語った。  大使は、2月に米下院外交委員会の公聴会で証言した元慰安婦を「信じる」と述べ、慰 安婦が強制的に売春させられたのは「自明の理だ」と語った。  また、従軍慰安婦問題への旧日本軍の関与を認め謝罪した93年の「河野洋平官房長官 談話」を日本政府が見直すことのないよう期待を示した。  安倍晋三首相は4月下旬に訪米予定。ロイター通信によると、同大使は、従軍慰安婦問 題で首相訪米が「台無しにならないよう望んでいる」と述べ、影響を懸念した(毎日新聞、 2007.3.17)。        --------------------   あやういのは日韓、日中関係だけでなく、日米関係も懸念されるようです。サミュエ ルズ氏は「安倍の言い訳は意味不明」と語りましたが、まさにそのとおりです(注1)。 日本軍による奴隷的な慰安所運営という、道徳的に善悪が自明な日本軍の行為に対し、安 倍首相が何か語れば語るほどそれは「意味不明な言い訳」としかアメリカ人は受けとらな いようです。   それにとどまらず、安倍氏の「言い訳」はダブルスタンダードではないかとの疑念を もたれているようです。朝鮮日報はこう伝えました。        --------------------  6カ国協議の共同文書発表後、北東アジア外交再編で日本は孤立の様相を呈している。 北朝鮮による日本人拉致問題にこだわる一方で、かつて日本が「拉致」した日本軍による 従軍慰安婦問題を否定していることから、「日本は外交的・道徳的基盤とも失いつつあ る」と非難の声が出ている。  日本は6カ国協議共同文書の発表直後に宣言した「拉致問題での進展がなければ北朝鮮 支援はない」という姿勢をまったく変えていない。だが「日本政府は(北朝鮮に)拉致問 題解決を要求しながら、日本軍による従軍慰安婦問題の責任については疑問を投げかけて いる」という米タイム誌最近号の批判は、拉致者・従軍慰安婦問題に対する日本の「ダブ ルスタンダード」的態度への国際社会の見方を反映している(注3)。        --------------------   このように安倍首相はダブルスタンダードという疑念をもたれたのでは、国際情勢の 複雑な北朝鮮問題で成果をあげるのは困難なことでしょう。同紙はアメリカの雰囲気をこ う伝えました。        --------------------  AFP通信も日朝作業部会の決裂直後、米国務省当局者の話として「この作業部会が決裂 しても米朝作業部会には影響ないだろう」と報じている。その上、米国務省の一部からも 「日本はひどすぎる」というムードが流れているという。「米国は日本を、とりわけ拉致 問題を見捨てた」というジョン・ボルトン前国連 米大使による8日の発言(読売新聞 インタビュー)はこうしたムードに対する日米タカ派の焦燥感を反映している(注3)。        --------------------   二重基準で北朝鮮の拉致問題を追求したのでは、北朝鮮に反撃されるだけでなく、各 国の日本に対する信頼が徐々に失われていくのではないでしょうか。 (注1)サミュエルズ「安倍の言い訳は意味不明」『ニューズウィーク』2007.3.21、P18 (注2)半月城通信<白馬事件> 半月城通信「白馬事件(2)」 (注3)「拉致問題に固執、慰安婦は否定…自ら孤立招く日本(上)」朝鮮日報3月12日 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    「安倍晋三の二枚舌」は四面楚歌 2007.3.25 メーリングリスト[AML 12846]   半月城です。   つい先日、日本外国人特派員協会で「慰安婦」問題をつつかれた中曽根・元首相は、 かつて風見鶏と評されました。その時々の風向きに合わせて行動する処世術を皮肉ったも のでした。   それでも中曽根・風見鶏は、いつもどこを向いているのか大体あきらかだったのです が、それにひきかえ、安倍・風見鶏は一体どこを向いているのか判然としないようです。 それは、彼の本心が内外の世論からかなりかけ離れているので、かれ自身みずからの方向 を見定められないためのようです。   安倍首相は、国際的な世論に押されて「慰安婦」問題で日本軍の全面的な関与を認め た河野談話を継承するといえば「保守支持層の不満がたまっている」とされるし(注1)、 本心のままに河野談話に疑問を呈すると同盟国のアメリカからすら懸念の声が噴出するし、 河野談話の件では進退窮まっているように見受けられます。   元来、安倍首相自身は河野談話にどのような認識をもっていたのでしょうか。それは かれの経歴が如実に物語っているようです。   安倍首相はかつて「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の事務局長をつと めました。この会は、中学校の歴史教科書に「慰安婦」の記述が載ることに危機感をいだ いた戦後世代の議員たちが97年に立ち上げた会でした。代表には、数年前NHKの「慰 安婦」番組に圧力をかけて改変させた、あの中川昭一氏が就任しました。   会は教科書や「慰安婦」問題に関する研究会を開き、吉見義明教授なども呼びました が、講師として呼んだのはほとんど右翼的な、あるいはタカ派の面々でした。その研究会 の成果として安倍氏は河野談話について、こう記しました。        --------------------   平成5年8月4日の河野官房長官談話は、当時の作られた日韓両国の雰囲気の中で、事 実より外交上の問題を優先し、また、証言者16人の聞き取り調査を、何の裏付けも取って いないのにもかかわらず、軍の関与、官憲党の直接の加担があったと認め、発表されたも のであることも判明しました。  ・・・・・   以前より、いわゆる「従軍慰安婦問題」が、今年から中学校のすべての教科書に登場 することに危機感を持っていたのですが、それを強引に推し進めてきた勢力が、ついに (櫻井よしこ氏への)言論弾圧を堂々と始めた事に、政治家として危機感をいだきました (注2)。        --------------------   この文章から、安倍氏の本心は河野談話を認めていないことが歴然としています。そ れにもかかわらず、最近の安倍首相は世界の声に押されて河野談話を継承すると発言せざ るを得ないものですから、前回書いたように、安倍発言は「意味不明」にならざるを得ま せん。   そうなると、安倍首相の発言は単なる「言葉遊び」に過ぎません。韓国の宋旻淳外相 は「(旧日本軍による)強制性が、広義にはあったが狭義にはなかったというが、そのよ うな言葉遊びはしてはならない(注3)」ときびしく批判しました。   安倍首相の「狭義の強制連行」に対する疑念はシンガポールやカナダなどからも次の ようにだされました。        -------------------- <シンガポール首相、慰安婦問題に「当惑を感じる」>    朝日新聞、2007.3.20  シンガポールのリー・シェンロン首相は19日、東京都内で太田公明党代表と会談し、 旧日本軍の慰安婦問題について「最近の日本国内での議論には当惑を感じる」と述べ、 「狭義の強制性」を否定した安倍首相の発言などに懸念を表明した。  ・・・・・・  また同日夜には、カナダのマッケイ外相が麻生外相と6者協議などについて電話で話し 合った際、慰安婦問題にも言及した。日本外務省によると、マッケイ氏は日本政府が強制 性を否定しているとのカナダや米国での報道を念頭に、「種々の報道があるが改めて日本 の立場を聞きたい」と質問。麻生氏は「首相が元慰安婦の方々への心からの同情とおわび の気持ちを表し、国会でもそう述べている。河野談話を継承する立場にも何ら変わりはな い」と伝えた。        --------------------   安倍氏に対するアジアからの批判はこれだけにとどまりません。オーストラリアのハ ワード首相は「つまらない言い訳はしてはいけない」として、安倍首相をこうたしなめま した。        -------------------- <豪首相、日慰安婦発言に「弁解するな」警告>    中央日報、2007.3.13 日本を訪問中のジョン・ハワードオーストラリア首相が第2次大戦期間、慰安婦強制動 員がなかったという日本の主張について「つまらない言い訳はしてはいけない」と強く警 告したとオーストラリアの新聞が13日、報道した。 オーストラリア日刊エイジは、ハワード首相が安倍晋三日本首相と首脳会談の前日であ る12日、少なくとも慰安婦問題に対してだけは安倍首相と正面から対立するという態度 を確かにしたと明らかにした。 新聞はハワード首相が首脳会談で慰安婦問題を申し立てるものと予想されているとし、 日本が歴史を無視しようとする試みは決して受け入れることができないというのがハワー ド首相の立場だと伝えた。 安倍首相は、米国下院が慰安婦問題に対して日本が歴史的な責任を負わなければならな いと促したのに対して日本政府や軍部が慰安婦を強制動員した証拠がないという発言をし て被害当事者と関連国たちの憤りを買った。安倍首相はその同じ論理の延長線上で、慰安 婦の女性たちに対して公式的な謝罪もできないとして拒否している。 ハワード首相は「過去の出来事に対してつまらない言い訳はしてはならないこと」とし 「強制動員がなかったという主張は、私としては絶対に受け入れることができないことで あり、他の同盟国たちも絶対に受け入れることができない主張」と強調した(注4)。        --------------------   まだまだあります。日本の戦争による被害国である台湾は、日本に公式な謝罪と賠償 を次のように要求しました。        -------------------- 「慰安婦:台湾政府、日本に謝罪と賠償求める」    朝鮮日報、2007.3.23  台湾政府が旧日本軍の「従軍慰安婦」の問題に関し、日本側に公式な謝罪と賠償を改め て求めたと、台湾紙・東森新聞報が23日付で報じた。  同紙によると、台湾外務省の楊子葆政務次官は22日、日本と台湾の橋渡し役を担う「交 流協会」台北事務所の伊藤康一総務部長を呼び、台湾政府のこうした方針を伝えた。  楊政務次官は「日本政府が歴史的な事実を直視し、元従軍慰安婦に対する正式な謝罪と 国家賠償を行ってほしい」と強く求めた。  これに対し伊藤総務部長は、安倍晋三首相の国会での答弁について触れ、従軍慰安婦問 題に関して日本政府は、1993年のいわゆる「河野談話」で示した謝罪と反省の気持ちを持 ち続けているとして、理解を求めた。  台湾外務省はまた、従軍慰安婦問題について、「過去の日本の侵略戦争が残した未解決 の問題」だとし、「被害者らが受けた心の傷はいまだ癒えていない。日本政府は人道・人 権擁護の観点から、相応の責任を取り解決していかねばならない」と強調した(注5)。        --------------------   安倍首相は北朝鮮の拉致問題に熱心なのと同じくらいの情熱をそそいで、戦時中に強 制連行され、悲惨な屈辱を強いられてきた「慰安婦」問題の抜本的な解決に当るべきです。 「慰安婦」問題を置き去りにして拉致問題だけを云々する姿勢はダブルスタンダードであ り、世界から信頼されるはずがありません。ワシントンポストは、ついに「安倍首相の二 枚舌」とまで言いきりました。        -------------------- 「安倍晋三の二枚舌」 「安倍は北朝鮮による日本人犠牲者問題には熱心だが、日本自身の戦争犯罪には目を閉ざ している」   ワシントンポスト社説、2007.3.24   (前略)  (拉致問題)一本槍の政策は、国内で落ち込む支持の回復のため、13才の少女などの拉 致被害者を利用する安倍首相によって、高い道義性を持つ問題として描かれている  安倍首相は、拉致問題に関するピョンヤンの引き延ばし作戦に対し、たしかに不満をい う権利がある。その一方で、第二次世界大戦に数十万人の女性を拉致し、強姦し、性の奴 隷にした責任を軽くしようとする彼の思惑は奇妙で不愉快である。  アメリカ下院で「慰安婦」への公式謝罪を求める決議案に対し、彼は今月に入って二度 も声明をだし、日本軍が女性の拉致に関与したことを証明する記録はなかったと述べた。 先週末に閣議決定された声明書は、1993年にいわゆる「慰安婦」に対する日本の野蛮な扱 いを認めた政府発表から後退したものであった。  拉致問題の歴史的な記録は、北朝鮮が日本人を誘拐し、教師や翻訳家などに仕立てたこ とを立証している。その一方、歴史家は20万人が朝鮮や中国、フィリッピン、あるいは 他のアジア諸国から日本軍の関与により拉致され、性奴隷にされたと述べている。  そうした体系下で生き残った多くの人は自分の悲惨な体験を語っている。最近、そのう ちの3人はそれを下院で証言した。  日本政府は犠牲者に補償をわずかしか支払わず、責任を充分はたさず、安倍首相が先の 声明から後退するようでは、民主主義大国のリーダーとしては不名誉なことである。  安倍氏は、日本政府が強制連行に直接かかわったことを否定することで北朝鮮に回答を 要求する際に道徳的権威を高められると考えているのかも知れない。しかし、それは逆で ある。もし、安倍首相は、拉致された日本人の消息を知るのに国際的な支持を得ようとす るなら、安倍首相は日本自身の犯罪に関する責任を率直に受け入れ、かれが誹謗した犠牲 者に謝罪しなければならない(注6)。        --------------------   安倍首相の「狭義の強制連行」発言が導火線になり、「慰安婦」問題に関するかぎり、 日本は四面楚歌になってしまったようです。これから脱するためにも、日本は河野談話を 忠実に実行すべきです。 (注1)朝日新聞記事「安倍政権研究」2007.3.24 (注2)日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会『歴史教科書への疑問』展転社,P448,1997 (注3)朝日新聞記事「言葉遊びだめ」2007.3.24 (注4)http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=85420&servcode=200§code=200 (注5)http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/23/20070323000009.html (注6)http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/23/AR2007032301640.html (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    竹島=独島とEEZ 2007/ 2/18 Yahoo!掲示板「竹島」 No.15415   半月城です。   こんばんは。Re;15380 >まず「獨島」の法的地位について、国連海洋法条約に則り、両国共に「島嶼」ではなく 「岩」とすることを提唱したい。   かつての韓国はそのような趣旨にそってか、竹島=独島を排他的経済水域(EEZ) の基点にしていませんでした。しかし、日本は少しでも日本のEEZを広げるためか、竹 島=独島はもちろん、サンゴ礁からなり、人がとうてい住めない南海の「沖ノ鳥島」まで も「島」であると強弁し、その周囲にEEZを設定しました。   昨年だったか、中国嫌いで有名な石原慎太郎・都知事が沖ノ鳥島を訪れ、「これは島 だ、文句あるか」とか言い放ちました。沖ノ鳥島を国連海洋法条約の島として認めない中 国に対する捨てゼリフだったようです。   南海はともかく、竹島=独島周辺に日本はEEZを設定したのに、なぜ韓国はそうし なかったのか、これまで韓国では政府に対する非難が渦巻いていました。その筆頭が愼鏞 廈教授で、こう記しました。        --------------------   UN新海洋法は1994年に発効するようになったが、その特徴はこの新海洋法を採択す る国は200カイリの「排他的経済専管水域(EEZ)」をもつことができるという点であ る。   日本は1995年にこのUN新海洋法を採択する意思を公表したが、その年の総選挙では ひとつの群小政党をのぞき、執権党をはじめ大きな保守政党はすべて「竹島奪還」を選挙 公約にたてた。自民党と自由党もそのような政党であり、総選挙で勝利して連合政府を構 成した。   1996年1月、日本政府はUN新海洋法を採択することを決定し、東海側は「独島(竹 島)」を日本のEEZにして国会に提出した。   これを実践するため、日本政府は1996年2月にも内外信の記者を集め、日本の外相が 「独島(竹島)は歴史的にも国際法上も日本領であるので、大韓民国は独島から撤収し、 付属施設を即刻撤収せよ」と説明し、駐日韓国大使を外務省に招いて強硬に要求した。   1996年5月、日本の国会は最終的にUN新海洋法を採択し、200カイリ経済専管水域 (EEZ)を設定することに決定し、東海側の日本EEZ基点を「独島」(竹島)とする ことを決定した。日本は韓国領である「独島」を自国領と主張し、日本のEEZ基点にし たのであった。   また、日本政府は1997年「十大外交指針」のひとつに「独島奪還」を設定し、猛烈な 攻撃的外交とロビー活動を展開した。   その影響を受けたのか、あるいは他の理由があったのか、大韓民国外務部は日本側が 韓国領「独島」を日本EEZの基点とした時から 1年2か月後である1997年7月末に「独 島」基点を採用せず、韓国のEEZ基点を「鬱陵島」にすると発表して国民を驚かせた。  ・・・・・   こうして新韓日漁業協定にて鬱陵島は韓国EEZ内に含まれたが、鬱陵島の付属島嶼 である「独島」は鬱陵島の水域(韓国EEZ)から離れた別の水域である「中間水域」 (韓日共同管理水域)に「独島」の表示なしに含まれたのであった(注1)。        --------------------   韓国の「寛大」な決定に、もし日本も同じ措置をとったなら、98年の日韓漁業交渉は もっとスムーズに行なわれたのでしょうが、そうは問屋が卸しませんでした。EEZを少 しでも広くとるという日本の政策は変更されませんでした。   その結果、事態は Am_I_AHO_1stさんの希望とは逆の方向に進みました。昨年、日韓 間で鋭く意見が対立した海洋調査問題を機に、韓国もとうとう竹島=独島を基点にするE EZを主張し始めました。さらに、韓国政府は竹島=独島に民間人が実際に居住すること を認めるなど、日本に対抗して積極的な竹島=独島政策に方針転換を行ないました。   その背景には愛国団体などの批判も少しはきいたのかも知れません。韓国の国民銀行 から支援を受けている「独島本部」は、2005年「竹島の日」制定を機に危機感を強めたの か、活発に独島学術討論会などを催し、その成果をシリーズ本にまとめて出版しました。 その第1巻の巻頭言にはこう書かれました。        --------------------   その間、独島本部は新韓日漁業協定を初めとした独島の危機に対し、何度かの学術行 事をとおして重要な国際法的成果を達成した。   昨年(2005)から始まった学術討論会議の成果が蓄積される間、韓国政府は独島を島に 認定する重要な政策転換を宣言した。それにもかかわらず、新韓日漁業協定体制は強固で あり、独島の危機は以前として続いている。いや、かえってさらに深まっている(注2)。        --------------------   独島本部は、韓国政府が竹島=独島周辺にEEZを設定する方針に転換しても、それ だけでは満足せず、同海域を日韓の「中間水域」とする新韓日漁業協定を破棄するよう求 める運動を繰りひろげています(注3)。条約や協定は相手との交渉で決まるので、ある 程度の妥協はやむを得ないところですが、独島本部はいかなる妥協にも反対の姿勢を貫い ているようです。   その理論的支柱には、金栄球・大韓国際法学会会長など、そうそうたるメンバーがい るようですが、新韓日漁業協定に対する韓国の研究者の意見は二分されるようで、意見の 統一はむずかしいようです(注4)。 (注1)愼鏞廈教授の独島百問百答<Q97(韓日漁業協定の破棄)>『新東亜』2000.5 (注2)独島本部『島である独島を岩礁にしようとする韓国政府の腹づもり』(韓国語)2006 (注3)独島本部ホームページ(韓国語) (注4)「盧大統領、韓日漁業協定破棄には否定的」朝鮮日報、2006.4.29 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    竹島=独島問題ネットニュース6  2007.3.14 1.新刊書『竹島=独島論争』新幹社,2007.3 2.新刊書『領土ナショナリズムの誕生』ミネルヴァ書房,2006.11 3.「「古地図」報道裏付ける韓国史料発見」 4.「韓日EEZ交渉、境界基点めぐる隔たり埋まらず」 5.「江原道が鳥取県に遺憾を表明、独島問題で」 6.「松江で「竹島の日」記念行事」 7.「竹島の日:「両国の主張、強い根拠なし」池内教授、民団県地方本部で講演/鳥取」 8.「慶尚北道知事、「竹島の日」に独島訪問」 9.「独島:韓国側の主張覆す古地図発見=共同通信」 10.「大邱韓医大学、「安龍福将軍研究所」開設」 11.「島根県と慶尚北道の交流、13事業「中止」「不参加」」 12.「韓国、竹島問題棚上げか 研究機関凍結提案 外相も事実上追認」 13.「日外務省、ホームページ独島関連内容改編」 14.「慶尚北道、独島DVDを5カ国語で制作」 15.「鳥取県立博物館で31日から竹島資料展示」 16.「久間防衛相に聞く「独島で武力衝突が起こる可能性は?」」 17.「鳥取県議会が竹島条例陳情を研究留保」  <各記事の概略> 1.新刊書『竹島=独島論争』新幹社,2007.3 (内藤正中+朴炳渉)\2,625 ISBN978-4-88400-068-4、四六版 / 342P  日韓友好の「のどに刺さったトゲ」、竹島=独島論争。両国の歴史資料を丹念に読み込 み、竹島=独島の歴史を明らかにすることにより、日韓間の無用な摩擦を少なくし、論争 解決への糸口を提示する。 2.新刊書『領土ナショナリズムの誕生』ミネルヴァ書房,2006.11 (玄大松)税込価格 : \6,090 ISBN:4-623-04675-3、A5判 / 316,23p 「独島・竹島問題」の起源と経緯、それを伝えるマス・メディア、そして韓国人の領土 ナショナリズムの精神構造を解明することを通じて、戦後日韓関係の構造とその特徴を考 察する。 3.「「古地図」報道裏付ける韓国史料発見」  山陰中央新報、2007.3.13  史料は、竹島から92キロ離れた韓国・鬱陵島の調査に朝鮮王朝から派遣された使者が、 調査の概要を記した1694年作成の「蔚陵島事蹟」。「東方約五里に小さな島があるが、 高大ではなく海長竹が一面に生えている」と記されていた。 【コメント】蔚陵島事蹟についての解説は、すでに2年前に下記に書かれました。  半月城通信<「竹島一件」と竹島=独島再確認>  同書の「東方約五里に小さな島」は韓国名の竹島です。また、同書に書かれた、東南東 方向120kmにある島は竹島=独島であることが明瞭です。杉原隆氏は、なぜか後者の島に ついては言及しなかったようです。 4.「韓日EEZ交渉、境界基点めぐる隔たり埋まらず」  聯合ニュース、2007/03/05  この日の交渉は、昨年9月以来半年ぶりとなったが、韓国が独島と隠岐諸島の中間を EEZ境界線と主張するのに対し、日本は鬱陵島と独島の中間だとし、双方の溝は埋まら なかった。 5.「江原道が鳥取県に遺憾を表明、独島問題で」  聯合ニュース、2007.3.2  江原道の金振ソン(キム・ジンソン)知事は2日、姉妹締結を結んでいる鳥取県が独島 は日本の領土だと主張していることに対する遺憾を表明した。  金知事は同日の実局長幹部会議で、「領土問題は両国政府が国レベルで取り上げるべき 課題であるにもかかわらず鳥取県が直接介入することは、両地域間の友好協力の観点から も実に遺憾だ」と述べた。その上で、関係正常化に向け適切かつ必要な措置を取ることを 望むとのメッセージを鳥取県に伝えるよう指示した。 6.「松江で「竹島の日」記念行事」  山陰中央新報、2007.2.25  フォーラムでは、防衛大学校の佐瀬昌盛名誉教授が北方領土の返還要求運動を例に領土 問題について、産経新聞の黒田勝弘ソウル支局長が竹島問題を取り巻く韓国の現状につい て講演。県が設けた竹島問題研究会の下條正男座長(拓殖大教授)らが、2年間の研究成 果を報告した。 7.「竹島の日:「両国の主張、強い根拠なし」池内教授、民団県地方本部で講演/鳥取」  毎日新聞、2007.2.25  島根県が定めた「竹島の日」(22日)を受け、在日本大韓民国民団・県地方本部(薛 幸夫団長)は24日、日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島(ドクト))の関 係史に詳しい池内敏・名古屋大大学院文学研究科教授を招き、講演会を開いた。池内教授 は「両国の主張にはさほど強い根拠はない」と述べ、歴史的な調査の再検討を求めた。 8.「慶尚北道知事、「竹島の日」に独島訪問」  朝鮮日報、2007.2.23  金寛容知事はこの日午後、慶尚北道議会の李相千(イ・サンチョン)議長や独島を管轄 する鬱陵郡の鄭胤烈(チョン・ユンヨル)郡守など15人とともに消防ヘリに乗り、独島の 東島に到着、独島警備隊を慰問した。 9.「独島:韓国側の主張覆す古地図発見=共同通信」  朝鮮日報、2007.2.23  このうち年代不詳の地図では、鬱陵島の東側に描かれた小島に「所謂(いわゆる)于山 島」と記され、その下に「海長竹田」と書かれている。ビーバーズ氏は、「海長」とは竹 の種類を指すとみられ、「于山島」は竹が生えない不毛の岩の塊である独島ではないと指 摘した。 【コメント】この地図「鬱陵島圖形」は朴昌錫作。    ソウル大学奎章閣所蔵、請求記号は奎12166  于山島を描いた地図は数百枚くらいはあるでしょうか。そのうちの数枚の地図から于山 島を独島ではないと結論づけるのは針小棒大の感があります。 10.「大邱韓医大学、「安龍福将軍研究所」開設」  朝鮮日報、2007.2.22  大邱韓医大学は21日午後2時、卞廷煥(ピョン・ジョンファン)総長や金寬容(キム・ グァンヨン)慶尚北道知事など、100人余りが出席した中、研究所開所式を行った。開所 式では「安龍福記念館設立のためのフォーラム」を開き、記念館設立の必要性や南北共同 制作での安龍福将軍の映画化などについて協議した。 11.「島根県と慶尚北道の交流、13事業「中止」「不参加」」  山陰中央新報、2007.2.21  島根県が条例を制定してから2度目の「竹島の日」が22日、訪れる。条例制定を機に 同県と姉妹提携していた韓国・慶尚北道が断交を宣言するなど、日韓関係の悪化を招いた。 同県によると県の関係機関と同道との交流事業20件のうち、13事業で「中止」「不参 加」という状況が続く。交流の完全復活には、なお時間を要しそうだ。 12.「韓国、竹島問題棚上げか 研究機関凍結提案 外相も事実上追認」  北海道新聞、2007.2.22  【ソウル21日近藤浩】日韓間の領土問題である竹島(韓国名・独島)問題で、韓国政 府系研究機関のトップが「解決は後世の知恵に任せてはどうか」などと竹島問題の凍結を 提案する発言をして話題になっている。宋旻淳(ソンミンスン)外交通商相もこれを事実 上追認した。島根県が一昨年制定した「竹島の日」(二月二十二日)から二年。韓国政府 が竹島問題の棚上げに動きだしたとの観測も出ている。 13.「日外務省、ホームページ独島関連内容改編」  中央日報、2007.2.13 改編されたホームページは韓国と日本の独島認識を比べ、独島の位置、現況などを地図 と絵で分かりやすく表現している。また「サンフランシスコ平和条約で独島」「李承晩ラ インの設定」などを紹介し、自国民に「日本人の韓国経由での竹島入島は韓国管轄権を認 めることになるので、このような方法で竹島に入らないでほしい」と要請した。 14.「慶尚北道、独島DVDを5カ国語で制作」  朝鮮日報、2007.2.9  このDVDは、「平和の島・独島」という題名で、上映時間は約20分。韓国語と英語、フ ランス語、スペイン語、日本語の5カ国語で制作されている。内容は、独島がかつて島根 県に編入されたという日本側の主張に反論するため、日露戦争時に独島が強制侵奪された 過程の史料や国内外の学者らのインタビューなどを盛り込んでいる。 15.「鳥取県立博物館で31日から竹島資料展示」  山陰中央新報、2007.1.26  展示する資料は、一七二四(享保九)年に鳥取藩が幕府へ提出するために作製した竹島 などの位置関係が分かる「竹嶋之絵図」の写し、鳥取藩の鬱陵島渡航への関与を伝える一 六六八(寛文八)年の「江戸御定」、一六九三(元禄六)年に鬱陵島で朝鮮人漁民と遭遇 した米子の商人が、安龍福ら漁民二人を米子に連行したことを記す鳥取藩の「控帳」の三 点。一般初公開という。 16.「久間防衛相に聞く「独島で武力衝突が起こる可能性は?」」  朝鮮日報2007.1.24  「自衛隊が発足した時、既に韓国が実効支配していた。これを武力で取り戻すというこ とは、日本にとって憲法を改正しても不可能なことだ。従って外交努力によって解決方法 を探らねばならない。現在の国際司法裁判所が国内での裁判のように決定する権限を持っ ているわけでもないし、国連にも解決する力はないのではないか」 17.「鳥取県議会が竹島条例陳情を研究留保」  山陰中央新報、2007.2.16  鳥取県で2月22日を「竹島の日」とする条例の制定を求めた住民団体の陳情に関し、 同県議会企画土木常任委員会(生田秀正委員長、9人)は15日、現段階で制定できる状 況にないとして、継続審議に相当する研究留保とすることを全会一致で決めた。


    偽ドル紙幣「スーパーノート」疑惑 2007.3.20 メーリングリスト[AML 12714]   半月城です。   マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮関連口座の全面凍結がいよ いよ解除されるようです。この凍結問題の出発点は、北朝鮮が偽ドル紙幣「スーパーノー ト」を偽造したとの疑惑からでした。   そのスーパーノートがもしアメリカ製だとしたら? 評論家の田原総一朗氏はそのよ うな可能性もあるとみているようです。        -------------------- 「六カ国協議で日本が孤立する可能性も」  事実関係は未確認ではあるが、1月8日(速報は7日付)、ドイツのフランクフルトで最 大の部数を誇るフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)紙に、著名な クラウス・W・ベンダー記者の「『スーパー・ノート』偽造ドル紙幣の秘密」と題する記 事が掲載された。今話題の北朝鮮のスーパー・ノートという偽ドル札が、実はアメリカ製 であるという記事だ。偽造紙幣問題に詳しい経済専門のベンダー記者が、「こんな精密な 偽札をつくる技術は北朝鮮にはない」と書いている。  僕も読んだが、これは相当のリアリティがある。もしかすると、このことがわかってア メリカは北朝鮮に対してどんどん妥協しているのではないか。北朝鮮の偽ドルが大問題と いうことでアメリカも金融を凍結したわけだから、偽ドルがもしアメリカ製だったという ことになると、これは大変なことだ。  この新事実にブッシュ大統領が実は気づいていて北朝鮮に対してどんどん妥協し始めて いる、という説も出ている。        --------------------   アメリカはイラクに大量破壊兵器があるとの偽りの情報を流してイラク侵攻を開始し たのですが、スーパーノートもアメリカの情報操作なのかどうか、その疑惑は当分消えな いようです。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/ (追記)フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)紙の記事 「偽造ドル紙幣の秘密:CIAは偽造ドル紙幣を、秘密印刷所で製造しているのか」  すでに約20年、完璧に偽造されたドル紙幣が流通し続けている。その流出元はまだ明ら かになっていない。米国政府はこれを北朝鮮の仕業と主張しているが、容疑は、いま、米 国自身に向かっている。  (途中省略)  2005年3月、国際刑事警察機構(インターポール)から各加盟国に対し、この危機的状 況への注意を喚起する通称「オレンジ警報」が発信された。さらに2006年7月末に当局は、 各国中央銀行、捜査機関、そして最重要機密に関わる印刷産業に対して「スーパーノート に関する危機管理会議」の招集を呼びかけた。  同会議において米国側は、すでに犯人が明らかであると信じていた。すなわち、それは、 共産主義独裁政権国家にして、米国の不倶戴天の敵、北朝鮮である。しかし1日だけの日 程で行われた同会議において、すでにこの見解に対する疑念は支配的となり、むしろそれ は、米国にとって悪い方向へと向かった。「米国は、偽造紙幣の陰になにかを隠してい る」との噂が広がっていた。 「北朝鮮が犯人」説に確証なし  1989年、最初の100ドル偽造紙幣がフィリピン・マニラのある銀行で発見されたときの 衝撃は大きかった。造幣の専門家による視覚および触覚鑑定をもってしても(一般市民に とっても最も重要な見分け方だが)、この偽造紙幣を本物の紙幣と見分けることは不可能 だったのである。このため捜査官は、この驚くべき偽造紙幣に対し「尊敬」を込めて 「スーパーノート」の名称を献上した。  以後、多くの国に嫌疑がかけられた。イランのMullahs、シリア、レバノンのヒズボラ、 そして旧東ドイツの名前も挙がった。しかし、米国政府はもはや、それらの嫌疑について は触れたがらない。「犯人は北朝鮮でなければならない」との確信を持っているからであ る。その証拠として、外交官旅券を所有している北朝鮮外交官やビジネスマンが近年、旅 行カバンにスーパーノートの札束を入れた状態で逮捕されるという事態が起きている。北 朝鮮からの亡命者の証言として、国家事業としての紙幣偽造工作が行われているとの報道 もあるが、これらの証言の信憑性については確認のしようがないと言わざるを得ない。  これらの中で重要証言といえるのは、かつての駐モスクワ北朝鮮大使館勤務の経済担当 官によるものだろう。この人物は1998年にロシア・ウラジオストックで、3万ドル相当の スーパーノートを所持していたところを取り押さえられている。彼は2003年に西側へ移送 され、自分がかつて独裁者キム・ジョンイルの、個人的な金を管理する係であったこと、 またスーパーノートの製造にも個人的に関与していたことを語った。  以来、キム・ジョンイルが偽造紙幣を生産しているのは、自分のためのフランス製コ ニャックやロケットや原子力兵器開発のためだけではなく、疲弊しきった北朝鮮経済を崩 壊から救うためである、という事実を米国政府が知っている、ということになっている。 年間2億5000万ドル相当のスーパーノートが北朝鮮によって刷られ流通している、という 筋書きを、米国人は信じて疑わず、そこに疑念を差し挟む余地はない。この多大な危険を はらむテーマに対して米国メディアは一斉に自ら口をつぐんでしまった。 「超高級印刷機はドイツ社製、特殊インクはスイス製」  紙幣の印刷は、高度に複雑な技術を要する作業である。「スーパーノート」の品質に求 められる専門知識を素人が理解することは不可能であると言わざるを得ない。「スーパー ノート」に用いられている紙は、いわゆるFourdrinier製紙機械によって製造されている。 詳しくは、75%の木綿と25%の麻の混紡によるもので、これは米国紙幣においてのみ使わ れている。  ポリエステルの安全糸で書かれた「USA 100」のマイクロ文字も、濃淡の入ったすかし も本物と同様。紙幣偽造者は少なくともこのために1台の抄紙機が必要だ。紙の専門家に よる、化学的物理学的見地からの分析によると、使用されている木綿はアメリカ南部原産 のもので、これは市場でごくふつうに入手できるものであるという。  第二次世界大戦中に行われた、ナチス・ドイツによる英国ポンド紙幣偽造の件を除けば、 長い歴史の中で凹版印刷機によって紙幣の偽造が行われた例はこれまでにない。しかし、 「スーパーノート」の製造には、高性能のインタリオ凹版(彫刻凸版)印刷が用いられて おり、これにはインタリオ凹版印刷機が必要となる。同機は、ドイツ・ヴュルツブルクの KBAギオリ(旧DLRギオリ)社のみで製造されており、長年、米国造幣局(BEP)がこれに よりドル紙幣印刷を行ってきた。  この特殊な印刷機は、一般の市場では自由に入手することができない。中古品の転売に 際しても、インターポールへの届け出がされる。北朝鮮は、1970年代にKBAのスタンダー ド印刷機をヴュルツブルクから1台購入している。専門家の指摘によると、後付け機能な しに「スーパーノート」を印刷するには、この機械は不適切であるという。しかも交換部 品の不足から、現在同機は稼働しておらず、北朝鮮紙幣の印刷は中国で行われていると憶 測されている。  北朝鮮が90年代に密かに、KBA社から最新の印刷機を購入したとの説は風評である。北 朝鮮政府は当時確かに、ヨーロッパで新たな機械を購入しようとしていたが、それは実現 しなかった。まだ、以前に購入したスタンダード印刷機への支払いが完了していなかった からである。  犯罪技術研究所の分析によると「スーパーノート」に用いられているセキュリティ・イ ンクは、本物のドル紙幣のものと一致するという。しかもこれは、光の加減によって外観 が変わり、ドル紙幣の場合はブロンズ・グリーンから黒へと変化して見える、高価な変色 インクであるという。機密性の高いこの変色インクは、スイスのローザンヌにあるSicpa (シクパ)社でしか製造されていない。このインクはBEPの最高秘密工場で、米国内のラ イセンス保持者によって、極秘に調合されている。他のドル紙幣のセキュリティ・インク に関しても、同様の方法が用いられている。  しかし、もちろん、厳重な監視のもとにおかれているこの特別インクが少量、製造過程 で横領されるという可能性は排除できない。それでも、興味深い疑問は残る。大量生産に 必要な量のインクが、どのようにすれば不法に持ち出されることが可能だろうか? しか も、厳重な警戒態勢がしかれている国境をかいくぐって。北朝鮮はかつて、シクパの顧客 だったことがある。  「スーパーノート」がシクパ社のオリジナル・インクによるものかどうかを解明するの は、同社にとってたやすいことだ。タグ付き(tagging)という秘密表示が施されている ので、セキュリティ・インクの追跡調査が詳細まで可能なのだ。しかし、米国を最大顧客 にもつシクパ社は、同件に関するコメントを拒否している。



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