半月城通信
No.116(2005.11.16)

[ トップ画面 ]


    目次

  1. 麻生太郎外相の今昔
  2. 100年目の韓国保護条約、新資料発見
  3. 『隠岐国古記』による「日本の西北」の解釈
  4. 小泉首相の靖国参拝は憲法違反
  5. 混迷する小泉首相の靖国参拝
  6. 小泉首相の「無鉄砲な振る舞い」
  7. 日本の言動不一致
  8. 小泉首相の超強硬アジア路線

  9. 麻生太郎外相の今昔 2005.11.1 メーリングリスト[AML 4368]   半月城です。   今回の内閣改造では、靖国参拝派かつ強硬派の麻生太郎氏が外相に、安倍晋三氏が官 房長官という要職を占めることになりました。アジア外交はこれからどうなるのか気がか りです。   韓国では今回の内閣に対し、「外交関係に影響力を及ぼせる安倍官房長官と麻生外相 は、2人とも米国との関係を外交最優先課題とする親米者であるだけに、日本の外交関係 の比重は、アジア関係を無視したまま、より一層米国側に傾く可能性が高い(中央日報 2005.11.3)」と懸念する声が出されました。   韓国にとって、麻生太郎氏はかつて「創氏改名」発言で物議をかもしただけに特に要 注意人物です。麻生発言のてん末は下記に書いたとおりです。 <麻生太郎会長の「創氏改名」発言>   麻生発言がなされる背景には、戦前、泣く子もだまる特高すら「圧制炭坑」と決めつ けるほどの悪どい麻生鉱業の歴史があったことは特筆すべきです。国家と結託し、民族搾 取で巨万の富を築き、筑豊御三家にのし上がったのでした。それは帝国主義の悪弊の縮図 といっても過言ではありません。   そんな歴史を糊塗するためには植民地支配を美化する発言は当然ともいえます。その ような麻生家の歴史については下記をご覧下さい。 <麻生太郎「創氏改名」発言の背景> (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    100年目の韓国保護条約、新資料発見1 2005.11.11 メーリングリスト[AML 4483]   半月城です。   つい先日、韓国保護条約に関する新資料が発見されたようで注目されます。その紹介 はあとにして、まず、韓国を日本の半植民地とする100年前の第二次日韓協約はどのよう に結ばれたのか、あるエピソードから紹介します。        --------------------  (大韓帝国の)御前会議の結果、保護条約拒絶が全体の雰囲気であることを知った伊藤 博文は、長谷川軍司令官や多数の騎馬、憲兵を従えて王宮に出向き、御前会議の再開を求 めました。このとき、皇帝は病気を理由に出席を拒否したので、閣議形式の会議が開かれ ました。   当時のロンドンタイムスによれば、伊藤は「自ら会議の席に臨み、更に5時間の猶予 時間を与えたると、大臣の一人が、責任のその身に及ばんことを恐れ、中途にて退出した るに、日本全権はこれを引き止め、条約調印を承諾するまで自由を与えざりし」という挙 にでました。   この会議に、外国の使臣である伊藤や林が武官とともに出席すること自体不法きわま りないことですが、そのうえさらに、伊藤は大臣たちを監禁状態にして交渉を進めました。   ロンドンタイムスの記事に出てくる、会議途中で退室した大臣とは、もっとも強硬に 反対した参政の韓圭ソルでした。この時のようすは#4453にも書きましたが、彼が皇 帝に面会するために、涕泣しながら退室しようとしたとき、伊藤は「余り駄々を捏ねる様 だったら殺ってしまえ、と大きな声で囁いた」とされています(西四辻公堯『韓国外交秘 話』)。   その後、韓参政はなかなか会議室にもどって来ませんでした。それについて、伊藤の 随員であった上記の西四辻大佐は次のようなエピソードを伝えています。  「参政大臣は依然として姿を見せない。そこで誰かがこれを訝ると、伊藤侯は呟く様に 『殺っただろう』と澄ましている。列席の閣僚中には日本語を解する者が二、三人居て、 これを聞くとたちまち其隣へ其隣へとささやき伝えて、調印は難なくバタバタと終ってし まった」(坂元茂樹「日韓保護条約の効力」『関西大学法学論集』第44巻4・5合併号、 1995)。        --------------------   このように脅迫的に結ばれた保護条約ですが、当時の状況をさらに知ることのできる 報告書が発見されたようです。それを朝日新聞はこう伝えました。        --------------------   報告書は1905年11月20日付でエドウィン・モーガン(駐韓)公使からルート国務長官 あて。米外交官と本国がやりとりした公式文書を集めた米国の研究書「コリアン アメリ カン リレーションズ」の第3巻の中で荒井信一(駿河台)名誉教授が見つけた。   報告書によると、交渉が最終段階に入った11月17日、日本の特派大使・伊藤博文が韓 国駐留軍の長谷川好道司令官とともに、米公使館から低い壁を挟んで20メートルの位置に ある交渉会場に入った。   内部の様子は正確には分からないが、日本の憲兵らが会議室のベランダや一つしかな い裏口への通路を固めているのが見えたと記した。   韓国では条約への反対論が強かった。文書は「憲兵らは表向き伊藤らの警護のために 配置されたが、韓国皇帝に日本の要求を拒むことは不適当だと思わせるためにも使われ た」と記した。   ソウル市内で日本軍が繰り広げた示威行動にも触れ「物理的な暴力が行使されたとは 考えにくいが、閣僚らが条約調印を承認する際、まったく自由に行動できたとも思えな い」とも書いている。   荒井名誉教授は12日午前9時から東京都千代田区神田駿河台の中央大駿河台記念館 で報告書について発表する。問い合わせは朝鮮人強制連行真相調査団(03-3262-7111)へ (注2)。        --------------------   明日、名古屋YWCAで講演する戸塚悦郎氏はこの資料に対し、次のコメントを朝日新聞 へよせました。        --------------------   排日政策をとった閔妃を日本人らが殺害した1895年の事件を韓国の閣僚らが忘れるは ずがなく、日本軍の行動は10年後も恐怖を呼んだと考えるのが自然だ。歴史の文脈の中で 考えれば、モーガンの報告書は閣僚たちへの強制があったことを示す第一級の資料だ。   日本による韓国の保護国化を黙認していた米国の政策に沿わない内容だからこそ信用 性が高い(注2)。        --------------------   当時、保護条約を強要するために駐韓日本軍が「銃刀森列すること鉄桶の如く」慶雲 宮内に押し寄せたのですが(注1)、その時の司令官である長谷川好道の役割は特に大き かったようです。   長谷川は保護条約を強要する目的で司令部を王宮のすぐ近くの大観亭に移し、軍事威 圧をかけ続けたのですが、当日のかれの行動を韓国の金泰鎮教授は中央日報でこう語りま した。        --------------------   運命の17日、日本の2人の首脳部が大観亭で林権助公使の言伝が来るのを今か今か と待つ。1人は長谷川司令官。彼の横には日本本国から特別に派遣された伊藤博文特使が 立っていた。その日午後6時30分ごろ林公使の言伝が到着した。 「待ちに待った乙巳条約締結文書は来ませんでした。言伝は『韓国側の反対をくつがえ すことができない』と言う内容でした。それで長谷川司令官と伊藤特使が直接足を運んだ ということです。 2人は憲兵たちを連れて高宗皇帝がいる漱玉軒に馬車で行ったんです。そして条約締結 を強要しました。遠く離れた竜山ではなく、すぐ目の前で武力デモしてもこと足りず、直 接、皇室まで出向いたわけです」 長谷川司令官は自ら「韓国併合の一等功臣」と自慢していたという。荒井信一日本駿河 台大教授が書いた論文「韓国保護過程の軍事と外交」に記載されている。しかし日本政府 は長谷川司令官の功労を認めることができなかった。日本が強制したことを自認すること になるからだ。 「日本政府は小公路一帯を長谷川町と名付けることで長谷川司令官の功労と名誉を残し てやりました。乙巳条約100年を迎え、その日1日の日程だけ簡単に再構成して見ても、 日本が武力で圧力をかけ条約を締結したことが理解できませんか」(注3)        --------------------   このような脅迫があっても、保護条約は当時の国際法で合法かどうかをめぐって学者 間で意見が分かれるようです。ただし、当時の国際法は侵略戦争すら合法であるとしてい る「狼どもの国際法」なので、百歩譲ってたとえ形式的に合法だとしても不当極まりない ものであることはいうまでもありません(注4)。 (注1)半月城通信<韓国保護条約(3),国際法> (注2)朝日新聞(2005.11.10)<第二次日韓協約、交渉中日本軍が韓国側の行動制約>   <米公使が可能性を指摘、本国あての報告書で> (注3)韓国、中央日報(2005.11.11)   <「日本首脳部、高宗に乙巳条約強要した」ソウル大教授> (注4)半月城通信<国際慣習法、韓国保護条約(13)> 100年目の韓国保護条約、新資料発見2 2005.11.12 メーリングリスト[AML 4494]   半月城です。   今日開かれた日韓協約シンポジウムを伝える新聞記事によれば、荒井信一名誉教授が 発見したのはモーガン米公使の報告書だけでなく、日本軍の関連資料も発掘したようです。 朝日新聞はこう伝えました。        -------------------- 「日韓協約交渉、日本側が武力で圧力 シンポで発表」  ・・・  日本軍幹部の記録が明らかになるのは珍しい。  荒井名誉教授によると、報告は陸軍省の「明治三十七八年戦役陸軍政史」に収録されて いる。  報告によると、長谷川司令官は条約に反対する韓国の閣僚らの動きを封じるため、憲兵 に動静を厳しく監視させた。韓国の軍部大臣を呼び、「最後の手段が何か、あえて詳しく 言わないが」と告げると、大臣は恐れおののいて立ち去ったという。ソウルに歩兵部隊や 砲兵大隊などを配置した目的に、治安維持のほか、閣僚の逃走防止や示威を挙げている。  過去の研究によれば、交渉会場にも憲兵らが配置されていた。荒井名誉教授は「事実上 の監禁。拳銃を突きつけたのと同じだ」と同協約の無効性を指摘した。        --------------------   韓国保護条約締結の際、一番の功労者が軍の司令官であったということから、おのず と日本の植民地獲得の帝国主義的手法がわかろうというものです。長谷川司令官のみなら ず、帝国主義の権化ともいうべき伊藤博文が「ダダをこねるようなら殺ってしまえ」と恫 喝したら、さぞかし韓国の大臣もおびえたことでしょう。それは言葉だけの脅しではな かったことでしょう。何しろ王妃すら日本の公使に殺害されるような情勢でしたから。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    『隠岐国古記』による「日本の西北」の解釈 2005.11.12 Yahoo!会議室「竹島」#12290   半月城です。   まだ『隠州視聴合記』にある「日本之乾 以此州為限矣」の解釈をめぐって未練がま しく議論がつづいているようです。   te2222000さん、No.12275 >「蛸木浦の節の『此州』は隠州ではなく松島を指す可能性もゼロではない。そして、  それと同程度の可能性で『以此州為限矣』の『此州』が竹島を指すこともあり得る」   古来、松島(竹島=独島)が日本の領土であったとする権威ある史料がほとんどない だけに、藩命を受けて編纂した『隠州視聴合記』(注6)に書かれた「日本の乾(西北)の 限界」が隠州か、あるいは松島・竹島かという論点はきわめて重要です。   これは、ややもすると日本の竹島「固有領土」説の死活問題にかかわるだけに、「可 能性もゼロではない」などと譲歩したくなる気持ちだけはお察しします。   史料は、下條正男氏のように恣意的に読めばいかなる解釈も可能ですが、それは我田 引水的な自慰行為にすぎません(注1)。もっともそうした曲解が日本ではもてはやされ、 田中邦貴氏のホームページなどに引用されたりするようです。   問題の「此州」について『大日本史』(注7)が松島・竹島とは解釈していないことは すでに紹介したとおりです(注2)。それに加えて、池内敏氏が『隠州視聴合記』の徹底 分析をとおして「此州」は隠州であり、松島・竹島とは解釈できないこともすでに紹介し たとおりです(注3)。それでもte2222000さんにはまだ粟つぶほどの疑問が残るのでしょ うか?   古く「此州」を隠州と読んだのは『大日本史』だけではありません。『隠岐国古記』 を編纂した大西教保も同様です。『隠岐国古記』は1823年『隠州視聴合記』を底本にして、 さらに増補された史料なので、それは『隠州視聴合記』の最良の注釈書ともいえます。   この本もいくつか写本があるようで内容の細部は少しずつ違いますが、問題の個所は 私の知るかぎり、「この国」すなわち隠岐国になっています。したがって大西教保は「此 州」を「此島」あるいは松島・竹島と読まなかったことになります。   具体的にその内容を紹介します。内閣文庫所蔵の『隠岐国古記』は冒頭にこう記しま した。ただし、以下で万葉仮名は平仮名に変換しました。 『隠岐国古記』内閣文庫 隠岐古記集 嶋後  「隠州の所在は歴代史を考るに日本の乾地 此國を以て限りとする也(注4)」   一方、隠岐郷土研究会編『隠岐島史料』近世編下では冒頭にこう書かれました。 『隠岐古記集(上)』隠岐郷土研究会編 隠岐古記集 島後之部  「隠州の所在は歴代史を考ふるに日本の乾地 此国を以て限りとするなり(注5)」   上の両書は、字句はわずかちがっても『隠州視聴合記』の「此州」を「此國」や「此 国」に置きかえています。「此州」を文字どおり「この州」すなわち「隠州」と解釈した ことが明白です。   このように『隠州視聴合記』の江戸時代の研究家である大西教保も「此州」を「隠 州」と読んでいたのですが、さまざまな状況からすれば、下條正男氏が主張するように、 『此州』は隠州ではなく松島・竹島を指す可能性は、人が隕石に当って死ぬ可能性よりも 低いのではないでしょうか。 (注1)半月城通信<下條正男批判> (注2)半月城通信<竹島=独島と『隠州視聴合記』『大日本史』> (注3)池内敏「前近代竹島の歴史学的研究序説」『青丘学術論集』2005 (注4)『隠岐国古記』内閣文庫 (注5)『隠岐古記集(上)』隠岐郷土研究会編 (注6)『隠州視聴合記』群書類従版    『隠州視聴合記』内閣文庫版 (注7)『大日本史』巻308,志3、「隠岐國四郡」 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    小泉首相の靖国参拝は憲法違反 2005.10.16 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   atroposさん wrote,        -------------------- 政教分離についての違憲判断は、次のSTEPを経てなされていると分かる。 STEP1. 公的か、私的か 私的: 合憲 公的: (次のステップ) ↓ STEP2. 関与した対象は世俗的か、宗教的か 世俗的: 合憲 宗教的: (次のステップ) ↓ STEP3. 関わり合いの態様 の判断 東京高裁判決では、首相の参拝を私的参拝と判じ憲法判断に踏み込まなかったと報道 されたが、このSTEPを踏んで判断されると解釈すればそれが何故なのか良く理解でき る。次のSTEPに進む必要が無いのだ。        --------------------   atroposさんは早とちりしていませんか? STEP(1),(2) で「合憲」と書いてい るところは、正しくは「賠償請求棄却」とすべきではないでしょうか? atroposさ んのネタ元と思われる朝日新聞(05.10.6)にはそう書いてありますが、その記事を歪 曲したのでしょうか?   それに東京高裁の判決(05.9.29)は、たしかにステップ(1)で首相の靖国参拝を私 的と判断して訴訟を却下したのですが、合憲とは述べていません。逆に、場合によっ ては憲法違反であると言及したくらいでした。   それを先の朝日新聞(05.10.6)は、こう記しました。        --------------------   東京高裁が「職務行為として行われたとすれば、憲法違反の可能性もある」と付 言するように、(STEP)(1)から(2)に進み、憲法判断を避けないという立場をとれ ば、最高裁判例の基準に沿って「違憲」という判断が導かれることは不思議ではな い-という見方が法曹関係者の間では一般的だ。        --------------------   東京高裁が判決文にわざわざ「職務行為として行われたとすれば、憲法違反の可 能性もある」とつけ加えたのは、それなりに理由があるようです。その背景を朝日新 聞はこう記しました。        --------------------  「主文の判断を導くうえで必要がなければ憲法判断は回避する」というのが、日本 では常識的な「作法」とされてきた。  「裁判所の役目は請求権があるかないかを確定させること。政治的行動への賛否を 明らかにする意味だけしかないのなら、憲法判断への言及を避けるのはむしろ当然」 との考えも裁判官の間には根強い。   井上薫・横浜地裁判事のように、そうした場合の憲法判断を「蛇足」と呼ぶ法曹 関係者もいる。   これに対し、あるベテラン民事裁判官は「必要のない憲法判断はしないのが基本 だが、事案の性質や、原告がどれだけ憲法判断を求めているかなどを考えて踏み込む ことはありうる。判決の論理の流れの中で憲法について触れるのは、決して蛇足では ない」と話す。   憲法学界では「事件の重大性や違憲状態の程度などから十分に理由がある場合」 や「国民の重要な基本的人権にかかわり、似たような問題が多発するおそれがあっ て、憲法上の争点が明確な場合」には憲法判断に踏み込むことができる-といった 考えが通説だ。        --------------------   今後、高裁や最高裁が靖国訴訟で憲法判断をするかどうかは、憲法学界の「通 説」によれば、下記の場合になるようです。 1.事件の重大性 2.違憲状態の程度   今回の裁判は、名目は損害賠償請求でも、真の目的は首相の参拝が憲法の政教分 離原則に反するかどうかの判断を求めるところにあるだけに、特に違憲審査権をもつ 最高裁では重大性が認定され、憲法判断がなされる可能性は十分あります。さらにア ジア諸国から強い異議が寄せられているだけに、重大性は一層強まります。   さらに、首相の参拝が公的と認定されれば、大阪高裁のように一本道で違憲判断 に進む可能性があります。結局、焦点は首相の参拝が公的か、私的かという点に集約 されるようです。   atroposさん wrote, >一国の宰相たる重要人物が、 例え私的行為としても公用車を使用し秘書官等を連  れるのは、任じられた公務の重大さ並びに首相自身の身の安全の為にも必要なことで  あり、それを根拠に公的行為とは必ずしも断定出来ない。自家用車を自ら運転し、誰  も引き連れず一人で行けというのは非常識であろう。   かつて、三木首相は靖国の私的参拝に際し「自家用車を自ら運転」したかどうか は知りませんが、atroposさん流にいえば「誰も引き連れ」なかったので、三木首相 は「非常識」ということになりそうです。   しかし、東京高裁すら首相が公用車を使って秘書官を同行したことに対し、「神 社への往復に限れば職務に関連した行為といえる(朝日,05.09.30)」と指摘したくら いでした。少なくとも、これだけは「常識的」な判断ではないでしょうか。   三木首相を間接的に「非常識」よばわりする人であれば、首相が靖国神社で記帳 の際に「内閣総理大臣」と「公務員の官職名」を書いたのを「職業を記しただけ」と する珍解釈も可能なのでしょう。   明日から靖国神社では秋の例大祭が催されるようですが、今や政敵をねじ伏せて 絶大な権力を手にした小泉首相が、日中・日韓友好関係をさらに悪化させてまで、し かも参拝を違憲と述べる確定判決はあっても合憲判決がない状態で参拝を強行するの かどうか、私もじっと見守ることにします。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    混迷する小泉首相の靖国参拝 2005.11.23 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   今回の小泉首相の靖国神社参拝は、やはり国の内外に相当な論議を巻きおこしました。 外にあってはアジア諸国との友好関係、内にあっては違憲判決との関連など論争のタネは つきないようです。   atroposさん wrote, >他の人々も書いていますが、「判決」と「判断」はその性格も重要度も全く異なります。  参拝を違憲とした「判決」は存在していません。   atroposさんも他の人と同様に、憲法判断にふれていない判決主文は受け入れても、 靖国参拝を違憲とした判決理由文は無視したいのでしょうか?   前にも書きましたが、先日なくなられた後藤田正晴氏は東京裁判に関するそうした言 い訳を「負け惜しみの理屈」と批判しました。的確な批判です。   ここの掲示板に書き込んでいる多くの人は、福岡や大阪の裁判所がいくら靖国参拝を 「違憲」だとわめこうが、それは判決主文ではないので何の拘束力もない、いわば絵に描 いた餅にすぎないとして自らを慰めているのでしょうか。   そうした人たちは、次には首相の靖国参拝を批判する内外の声を、すべて一部にすぎ ない少数意見であるとして過小評価するのでしょうか。 そうだとしたら、そうした人たちにとっては「馬の耳」に念仏かもしれませんが、毎日 新聞が小泉首相の靖国神社「参拝を容認することができない」と強い口調で非難していま したので、その注目すべき記事の一部を紹介します。              ---------------------- 「靖国参拝 中韓の反発が国益なのか」 毎日新聞社説 2005.10.18  小泉純一郎首相が17日、靖国神社を参拝した。首相として通算5回目の参拝だ。 ・ ・・・  戦没者の冥福を祈る祭典の日の参拝で「慰霊」の趣を濃くし、一般客と同じように行動 し、ことさら「私的参拝」らしさを強調してみせたのだ。  靖国参拝を首相の職務行為としたうえで違憲判断を下した先の大阪高裁判決に配慮した のだろう。  ・・・・  私たちは、首相の靖国参拝が外交上の国益を損ない、信教の自由を保障した憲法20条 との関係でも疑義があるとして反対してきた。首相が参拝のスタイルを工夫し、入念に時 期を選んだとしても、参拝を容認することはできない。  今回、記帳をやめて私的参拝にしたというなら、首相はこれまでの参拝のどこに問題が あったのかを国民に説明すべきだ。  今年は戦後60年、日韓条約締結40年の節目の年である。さまざまな交流を通じて隣 国との友好を深める機会にすべきだった。  ところが中国、韓国では「反日」の火が燃え盛り、両国は日本の国連安保理常任理事国 入りに強く反対した。4年前から繰り返される首相の靖国参拝が両国民の間に「反日」を 増幅させたのは否定できない。   「反日」の高まりを抑えようと小泉首相は4月のアジア・アフリカ会議(バンドン会 議)の演説で植民地支配と侵略の歴史について「痛切な反省と心からのおわび」を表明し た。8月15日には談話を発表し、この中で「ともに手を携えてこの地域の平和を維持し 発展を目指す」と誓った。  にもかかわらず、今年もまた参拝である。中韓両国にとっては首相が「二枚舌」を使っ ているように見えるかもしれない。  中国などは靖国神社にA級戦犯が合祀(ごうし)されているから首相の参拝に反発する。 首相はA級戦犯が「戦争犯罪人だと指定されている」と国会で答弁しながらも、突っ込ん だ議論をしようとしない。  日中間では4年間、首脳の相互訪問が途絶えている。その混迷に輪をかけるように、首 相の靖国参拝を受けて、23日に予定されていた日中外相会談が取りやめとなる恐れが出 てきた。韓国側は12月の日韓首脳会談を延期する方向で検討を始めたという。  首相の靖国参拝のたびに隣国から大きな反発を浴び、外交当局が右往左往する。首相 は停滞したアジア外交を立て直す責任をどう果たすのか。            ----------------------   小泉首相は、これまでA級戦犯問題や、停滞したアジア外交のありようなどについて はほとんど説明しようとせず、靖国参拝をひたすら「個人の心の問題」に押しこめ、靖国 参拝を繰りかえし、悶着をおこしている感があります。       そんな行為を、アメリカの代表的な新聞であるニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は 「的はずれな挑戦」と一刀両断にしました。かつてNYTは、靖国神社を「戦争の神社」 と規定していることは前に紹介したとおりですが、今回は社説の形で小泉首相をきびしく 批判しました。   この記事はもちろん韓国などでも注目されました。その画期的な記事の一部をブログ から下記に紹介します。            ―――――――――――――――――― 「靖国参拝は無意味な挑発」 ニューヨーク・タイムズ 10月18日 社説  みずからを当世風の改革者として大々的に売り出した選挙を終えたばかりの小泉首相は、 このほどさっそく、日本の軍国主義がのこした最悪の伝統を公然と奉ずる挙に出た。昨日、 全国ネットでテレビ中継されるなか、首相は東京の中心にある追悼施設、靖国神社に参拝 した。 しかし、靖国神社はただ単に250万人におよぶ日本の戦没者を追悼するだけの神社ではな い。靖国神社とその付属博物館は日本のひどい暴虐、つまり、20世紀はじめの数十年間の 朝鮮全土と中国および東南アジアの広い地域に傷あとを残した野蛮で暴力的な侵略につい て、「日本は謝罪すべきできない」というひとつの見解を打ち出し、それを広める役割を 果たしている。今週始まる毎年恒例の祭事において、追悼され奉られる靖国の神々のなか には、裁判で死刑判決が下され処刑された14人のA級戦犯が含まれている。  今回の靖国神社参拝は、日本の戦争犯罪で犠牲になった人々の子孫に対する恣意的で公 然たる侮辱であると、中国や台湾、韓国、シンガポールの国家元首たちはあいついではっ きりと抗議した。小泉首相も、自分がなにをやっているかはっきりと承知している。これ でこの4年間、首相は毎年、靖国神社を参拝したことになる。アジア諸国の外交官たちの 度重なる抗議を振り払い続け、今回は日本の裁判所の判断に逆らってまで、参拝を強行し た。  ・・・・            ――――――――――――――――――   小泉首相の靖国参拝の目的が、みずからいうように単に「戦没者に感謝の気持ちを伝 える」あるいは「二度と戦争を起こさない誓い」などとするのなら、天皇のように全国戦 没者追悼式典に参加する、あるいは千鳥ヶ淵へ戦没者慰霊に行くだけで十分にその目的は はたされることでしょう。   植民地支配と侵略の歴史について「痛切な反省と心からのおわび」を口にした小泉首 相が、よりによって、過去の侵略戦争を美化、あるいは正当化し、侵略戦争の責を負うA 級戦犯を祀っている靖国神社に参拝するのは、小泉首相は二枚舌を使い分けているのでは ないだろうかという疑念をもたれて当然です。   そうした疑問にほとんど答えようとしない首相の姿勢が、靖国参拝は是か非かで国論 を二分する事態を招き、混乱に拍車をかけているのではないでしょうか。   あえて国論を二分し、違憲判決を背にして、隣国の憤激を増幅させ、外交上の抗議を 買ってまで、何もわざわざ「戦争の神社」「戦犯の神社」に参拝する必要は一体どこにあ るでしょうか?    NYTの社説は日本の進むべき道を次のように記して結びましたが、そのアドバイス は値千金ではないでしょうか。  「日本が名誉ある国として21世紀に進んでいくためには、まず、20世紀の歴史を直視し て、認めたくない事実を認めることだ。日本はまさに今、そうしなければならない時期に 来ている」   この指摘がドイツのように誠実に実行された後に、日本は国連安保理の常任理事国と して立候補すべきだと思います。


    小泉首相の「無鉄砲な振る舞い」 2005.10.30 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   前回、ニューヨーク・タイムズ紙の社説を紹介しましたが、これを日本では朝日新聞 (10/19)が次のように取りあげていたことがわかりました。        --------------------  「無意味な挑発」NYタイムズ社説で批判   米紙ニューヨーク・タイムズは18日付の社説で「東京の無意味な挑発」と題し、小泉 首相が靖国神社参拝によって「日本の軍国主義の最悪の伝統を容認した」と厳しく批判し た。   同紙はこの社説で、参拝は「日本の戦争犯罪によって犠牲になった人々の子孫に対す る計算ずくの侮辱だ」と述べた。  「日本が帝国主義的な征服の道に向うとは誰も懸念していない」としつつも、「現在は 隣国での悪夢を呼び覚ますのには最悪の時期だ」と分析。「日本は誉れある21世紀を迎え られるよう、20世紀の歴史に向き合うべきだ」と結論づけた。  ・・・        --------------------   鈴木隆さん wrote >ちなみに、引用されたNYtimesの社説を書いたのはノリミツ・オオニシ=大西哲光とい  う記者です。  連投になるかもしれませんが、彼の書いた他の社説を投稿してみます。  彼の主張にどれほどの信憑性があるのか、ご自身の目で確かめてください。   鈴木さんが紹介したかった大西氏の社説は掲載されなかったようなので、どのような ものなのかわかりませんが、それで鈴木さんは何を言いたいのでしょうか?   大西氏の主張は「信憑性」にとぼしく、そんな彼の主張を社説にのせるような NY times 社の記事は信頼できないとでも言いたいのでしょうか?   朝日新聞によると NY times紙の「社説」は信憑性にとぼしいどころか、下記のよう に「米国内の見方を代弁したものと言える」とまで評価されました。        --------------------   米国の知日派はもちろん、ブッシュ政権内でも小泉首相の靖国神社参拝を評価する意 見は皆無といっていい。   何の戦略もなしに日中、日韓関係をいたずらに悪化させることは東アジアを不安定に し、6者協議などに悪影響を与えかねず、米国の国益をも損なうからだ。   国務省も「対話を通じた解決を」(マコーマック報道官)と日本を含めた関係国に呼 びかけている。ニューヨーク・タイムズ紙は日本の歴史認識問題に厳しい態度をとってき たが、この日の社説はこうした米国内の見方を代弁したものと言える。        --------------------   ブッシュ政権は、アメリカに忠実な日本に対する批判を抑制している感がありますが、 その政権すら小泉首相の靖国参拝を評価する人はいないようです。政権だけでなく、アメ リカの議会も批判的なようです。下院の国際関係委員長は靖国参拝を批判する書簡を小泉 首相に送ったようです。        --------------------  「小泉首相の神社参拝に対する米国の警告」            韓国「中央日報」社説 2005.10.24 米下院国際関係委員会のハイド委員長が、小泉首相の靖国神社参拝を批判する書簡を 米国の日本大使あてに送った。シーファー駐日米大使も「中国・韓国などアジア諸国が神 社参拝について懸念している」と話した。これまで同問題について「中立的態度」を示し てきた米国が「日本に話すべきことは話したい」との立場に転じ、注目される。        --------------------   ま、アメリカは靖国問題を憂慮している段階にとどまり、日米二国間の外交関係には ほとんど影響がないようですが、他の国ではどうでしょうか。日本は「外交不在」といえ る状態ではないでしょうか。そうした影響をシンガポールのストレーツ・タイムズ紙がこ う心配していました。        --------------------   就任以来、首相は毎年、靖国神社に参拝している。一途な献身だが、米国以外の国と の外交関係への損害はどれほどになるだろう。首相に続き自民党から約100人の国会議員 が参拝した。   日本の公的立場にある人々の間で靖国神社の影響力がこれほど強いため、日本が過去 と決別したと隣国は納得出来ないでいる。 (「小泉首相の無鉄砲な振る舞い」朝日新聞 2005.10.23)        --------------------   なお、ストレーツ・タイムズ紙は小泉首相の「戦没者に哀悼の意を表したい」という 気持ちだけは理解していることをつけ加えておきたいと思います。そのうえで同記事は 「無鉄砲な振る舞い」をこう批判しました。        --------------------   だが、靖国神社は無辜の戦没者と消え去った日々の記念碑というだけではない。戦争 犯罪人とされた軍国主義者らの魂も祭られている以上、そこで哀悼の意を表することは、 無辜の戦没者をも冒涜する行為となる。   軍国主義者たちは太平洋戦争中の中国や朝鮮、東南アジアでの憎むべき行為に責任を 負っているのだから、参拝に心から反対する国々に、もっともらしい言い訳をするのは侮 辱的だ。だから首相の度重なる参拝は無鉄砲な振る舞いなのだ。        --------------------   首相の「無鉄砲な振る舞い」の結果、どんなことが招来されるでしょうか。朝日新聞 (10/18)の社説はこう述べました。        --------------------   首相のたび重なる参拝の結果として、靖国神社の展示施設である遊就館に代表される 歴史観は、海外にも紹介されるようになった。あの戦争を「自存自衛のための戦い」とし、 今もそうした過去を正当化している。   そんな歴史観を持ち、A級戦犯の分祀を拒んでいる神社に、首相が反対をものともせ ず、公然と参拝する。その映像はただちに世界に伝えられ、「歴史を反省しない国」とい うイメージが再生産されていく。   首相は国を代表する存在だ。その行動が政治的な意味を持つ時、いくら私的と釈明し たところで通用しないだろう。   まして国内では、司法の判断や世論が分かれている。戦没者をどう弔うかという、国 家にとって重要な課題で対立があるなら、一方の立場をとるのではなく、より多くの人が 納得できるあり方を模索するのが政治指導者の役割ではないか。        --------------------   国内問題もさることながら、いまや「歴史を反省しない国」「過去と決別しない国」 という日本のイメージはアメーバーのように世界にひろがりつつあるようです。   小泉首相が外交も戦略も放り投げてか、靖国参拝は個人的な「心の問題」と意固地に なればなるほど、日本国内でも靖国参拝はマスコミの間で四面楚歌になっているようです。   3年前までは小泉首相の靖国参拝を評価していた読売新聞までが見方を変えたようで 目をひきます。読売新聞の転向(?)を朝日新聞(10/19)はこう伝えました。        --------------------   読売社説は、首相が4月に参拝した3年前、「8月に参拝すれば無用な混乱を招きか ねず、首相がこの時期を選んで参拝したのは適切な判断だった」と評していた。   だが、首相が国会でA級戦犯を「戦争犯罪人」と認めた後の、今年6月の社説は違っ た。「"犯罪人"と認識しているのであれば、『A級戦犯』が合祀されている靖国神社に、 参拝すべきではない」と主張した。   渡辺恒雄主筆がそのころ「参拝反対」を明言したのとあわせ、「読売が社論を変え た」との見方が広がった。   ・・・  (小泉参拝の)翌18日付の読売社説は、首相に「もっと丁寧に内外に説明を」と求めた ものの、参拝に賛成なのか、反対なのかは読み取れない内容だった。   その真意は定かでない。ただ、確かなことが一つある。読売、毎日、日経、産経、東 京、朝日の在京6紙でいま、はっきりと首相の靖国参拝を評価しているのは産経だけとい う事実である。        --------------------   在京6紙のなかで、ひとり産経新聞だけが首相の靖国参拝を評価しているとのことで すが、これは「新しい歴史教科書」をひたすら支援する同紙ならではの猪突猛進ぶりとい えます。   産経新聞はその名に反して、経済誌というアイデンティティをとっくに捨て去ってし まったのかもしれません。経済界では靖国参拝問題の影響を心配する声がありこそすれ、 首相の靖国参拝を積極的に評価する声は少ないようです。   それを如実に示す動きがありました。日本経団連の奥田碩会長(トヨタ自動車会長) ら財界首脳が9月30日に北京を訪問し、中国の胡錦濤国家主席と会談しており注目され るところです。   関係筋によると、経団連副会長である三村明夫・新日本製鉄社長や宮原賢次・住友商 事会長らも同行し、日中経済や「靖国参拝問題」が両国経済に与える影響について意見交 換したとされます。財界もこと「靖国参拝問題」には敏感なようです。   それも当然と思われます。今年春、中国各地で反日デモがありましたが、これまで築 きあげてきた両国の経済共栄路線も政治情勢次第では危ういものになります。その点、小 泉首相の靖国参拝という「無鉄砲な振る舞い」は危険因子ではないでしょうか。


    日本の言動不一致 2005.11.6 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   鈴木隆さんは、首相の靖国参拝問題をすこし単純に見過ぎているのではないでしょうか。 鈴木さん wrote >この問題は 中韓が国民感情を守るために他国の首相の私的行為の自由を拘束すること  が正当化されるか という命題に収斂されます。   何度も書いたように、首相の靖国参拝に異議をとなえてているのは中国と韓国だけで はありません。問題が国際的に広がった現在、シンガポールやインドネシアなどからも異 議の声があがるようになりました。ジャカルタ・ポスト編集局長のバユニ氏はこう述べま した。        --------------------   小泉首相の靖国参拝は、次の2点で受け入れがたい。一つは、首相である以上、私人 との区別はありえない。両親や祖父母が戦争でなくなり、その追悼のための参拝であれば、 例外的に私人と言えるだろう。その場合、メディアを避け、ひっそりと参拝すべきだ。   もう一つは、その行動に首相としての無神経さがよく表れているからだ。過去の例か ら、参拝が中国や韓国を怒らせることは分かっている。そして日本と中国・韓国の緊張関 係がどのように広がっていくのかだれも予測できない怖さがある(朝日新聞 11/3)。        --------------------   入江一史さんも「政府の首班ともなれば、ほぼ常時公人である事が求められる」と書 いてましたが、首相が私人として行動するのなら特に細心の配慮が必要です。しかるに小 泉首相は、イッシューを追うマスコミが待ちかまえている靖国神社へ公用車で乗りつけま した。それは小泉劇場の政治ショーそのものではないかと思います。   首相の近隣諸国を怒らせるような「無鉄砲な振る舞い」は、第3国の目からも中国や 韓国に対する「挑発行為」とみられて当然ではないでしょうか。   首相の「無神経さ」を指摘したバユニ氏は、ある面では日本を肯定的に評価している 方ですが、それでも中国の声に「納得できることも多い」として、こう語りました。        --------------------   戦後、日本は東南アジアに対し、十分経済的に償ってきた。大半のインドネシア人は 日本の過去について、すでに忘れているし、許してもいる。だからといって日本の3年半 の統治が残酷なものだったという事実は変わらない。   オランダの3世紀半の植民地統治よりもひどかったという人もいる。中国の声に耳を 傾ければ、納得できることも多い(朝日新聞 11/3)。        --------------------   中国や韓国の声とは、いうまでもなくA級戦犯を祀る靖国神社を公式参拝することは かつての侵略戦争を肯定する行為であり、それは日本の侵略戦争に対するこれまでの謝罪 が口先だけにすぎないことを示すものだという点にあります。   日本は何回も謝罪しているにもかかわらず、それがアジアで誠意あるものとして受け 入れられていない原因は、謝罪するそばから、それを打ち消すような言動が相次いでいる ことにあります。もちろん、小泉首相の靖国参拝もそのひとつです。   シンガポール上級相のゴー・チョクトン氏も、小泉首相の靖国参拝はアジアの多くの 人に「A級戦犯も含めた戦死者への表敬」と受けとめられるとして次のように語りました。        --------------------   アジアの多くの人々は、第2次世界大戦の荒廃を記憶している。その一部は日本に よってもたらされた。どのように理論づけようと、小泉首相の靖国神社参拝はA級戦犯も 含めた戦死者への表敬と受けとめられる。多くの国が敏感に反応せざるを得ない。  ・・・   小泉首相は4月、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)50周年の首脳会議で過去の 行為を謝罪した。しかし、中国には 一方で謝罪し一方で参拝を続けているようにみえる だろう(朝日新聞 11/3)。        --------------------   小泉首相は靖国参拝の目的を「戦没者への追悼」「不戦の誓い」とオウム返しに繰り かえすのみで、靖国神社にA級戦犯も祀られているという批判には口をつぐんでいるよう です。それでは内外の多くの人が納得しないのも当然です。   A級戦犯が「顕彰」されているところで「不戦の誓い」を祈るのは、ドイツ・ヒット ラーの墓前で「不戦の誓い」を祈るようなものではないでしょうか。これでは口先で言って ることと、実際にやっていることが余りにもチグハグすぎます。   そうした日本の高官の言動不一致については多くの人が指摘しているとおりです。ア メリカの元駐韓大使・グレッグ氏はこう語りました。        --------------------   日本の人たちは「歴史問題でもう何回も謝罪してきた」という。それは事実だ。だが、 それに続く行動がない。   近隣諸国の人々は日本の首相から繰り返し謝罪の言葉を聞いた。だが、すぐにそれを 打ち消すような別の発言が続いて「謝罪は表向きだけだ」と失望させられてきた。言葉だ けでは十分ではない(朝日新聞 11/2)。        --------------------   日本は、謝罪、打ち消し発言、また謝罪といった輪廻をくり返してきましたが、それ を絶つためにはどうすればいいのでしょうか。ゴー・チョクトン氏はこう述べました。        --------------------   各国の指導者が言うように、過去に幕を下ろすにはドイツの例に倣うしかない。ドイ ツはヒットラーの非を率直に認め、必要な行動を取り、「過去の浄化」を済ませた。言動 が一致しているのだ。   国連安保理拡大問題で日本にはアジア各国の広範な支持がなかった。過去の出来事を 日本が直視しないかぎり、侵略を受けた多くの国が日本を支持するのは難しい。過去に幕 引きができないまま、どうして日本を支持できるだろうか(朝日新聞 11/3)。        --------------------   たしか、防衛庁には戦史研究室があり、過去の戦闘を分析しているようですが、もっ と大局的な立場にたち、過去の侵略戦争を総括するような公的機関は日本のどこにもない ようです。ましてやA級戦犯の戦争責任を追求する公的組織など影すら見当たらないよう です。   これでは「過去の出来事を日本は直視しない」という批判は今後もずーっと続くこと でしょう。ま、日本は過去の歴史を直視したくないのなら、せめて近隣諸国に侵略戦争に よる傷を思い起こさせるような無神経な振る舞いくらいは控えるべきではないでしょうか。   そうした声が日本の政権与党の中でもますます大きくなっているのが注目されます。 公明党の動きがこう伝えられました。        -------------------- 公明党:官房長官、外相にも「靖国参拝」自粛要請                          毎日新聞(11.5)  公明党は5日、党本部で全国代表者会議を開き、神崎武法代表が近隣諸国の反発を招い ている小泉純一郎首相の靖国神社参拝に関連し「政権の中枢にある首相、外相、官房長官 は参拝を自粛すべきだ」と述べ、麻生太郎外相と安倍晋三官房長官にも自粛を要請する考 えを明らかにした。両氏は参拝に積極姿勢を見せており、中国や韓国が警戒を強めている のを踏まえた発言とみられる。  神崎氏は首相の靖国参拝について「戦争責任者をまつる靖国神社への最高指導者の参拝 は、近隣諸国に過去の戦争を肯定する行為と受けとめられる」と強く批判、「中韓との関 係修復に全力を挙げるべきだ」と改めて注文した。同党が主張している無宗教の国立追悼 施設建設についても、来年度予算への調査費計上を引き続き求めていく考えを強調した。  ・・・        --------------------   さらに、かつて小泉首相の盟友で、かつライバルだった加藤紘一氏も同様な考えのよ うです。韓国の新聞はこう伝えました。        -------------------- 「日本の外交、小泉の靖国参拝で不可能に」と加藤紘一氏が懸念                     韓国、東亜日報,2005.11.5   加藤紘一(65)元自民党幹事長は、「首相の靖国神社参拝は、周辺国の痛みを思い 起こさせる行為だ」とし、日本が、韓国と日本の友好とアジアを重視する外交政策を選択 すべきだと力説した。   そして、「日本が、第2次世界大戦で周辺国に被害を与えたことを強く反省し、その 反省が表れるように、外交政策を展開しなければならない」とし、最近の状況について非 常に憂慮していると述べた。   氏は、自民党幹事長、外相、防衛庁長官など、日本の政界の重要ポストを歴任し、小 泉純一郎首相より有力な首相候補に挙げられた人物。最近は、首相の靖国神社参拝、自衛 隊の派兵、平和憲法の改憲に反対してきた自民党穏健派の陰の実力者だ。   一時、山崎拓元自民党副総裁、小泉首相とともに自民党改革を主唱する「YKK」と 称される政治盟友だったが、最近は小泉首相の外交路線に反対し、関係が遠ざかった。  「韓国や中国が、過去に日本が示してきた歴史についての反省と謝罪以上のものを要求 しているとは思いません。日本は、その謝罪と矛盾する行動をしないように注意すべきで す。韓国と中国が、過去よりも未来志向的に考えているのに、日本側で過去を想起させる きっかけをつくってはいけません」   氏は最近、山崎元自民党副総裁とともに、靖国神社に代わる「国立追悼施設を考える 会」の結成を準備中だ。8日に創立総会を行う予定だが、まだ参加する議員が何人になる かわからないという。  ・・・(注1)        --------------------   加藤氏が韓国を未来志向的に考えていると受けとった背景のひとつには、昨年の日韓 首脳会談における盧大統領の次の発言があるようです。  「私は、日韓間の未来志向的な協力をより強化していく中、歴史問題が両国国民間の友 好親善を阻害しないよう互いに努力する必要があることを強調した。小泉総理も、これに 対し共感を示し、両国政府当局が協力していくことを希望された(注2)」   盧大統領はこの立場から「歴史問題」が両国の友好を阻害しないかぎり、歴史問題に はふれないと語りました。しかし、その期待も日本のアジア外交不在のゆえに裏切られて しまいました。今後、麻生外相がアジア外交をどう立て直すのか注視したいと思います。 (注1)韓国、東亜日報,2005.11.5 (注2)<日韓首脳会談後の共同記者会見(2004.7.21)における盧武鉉大統領発言>   (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    小泉首相の超強硬アジア路線 2005.11.13 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   小泉首相の靖国参拝が「無鉄砲」かどうか、そもそも一般的に無鉄砲な振る舞いをす る人はそう自覚していないから、そのようなことをしでかすものです。   atroposさん wrote, >無鉄砲などではありません。ワシントンポストのインタビューで首相自ら明かしたよう  に、小泉首相はある確信をもって臨んでいます。(靖国批判「理解に苦しむ」 小泉首  相、米紙会見で 産経新聞)  「無鉄砲」という用語が気に入らないのなら「超強硬姿勢」と言いかえてもいいでしょ う。特に小泉首相が「ある確信」をもっていたのなら、靖国参拝は周辺諸国の心を踏みに じるサディスティックな行為ではないでしょうか。   そうした行為の結果、たとえ周辺諸国との友好関係が悪化しても、それで日本の国益 にかなうというのなら、それはそれで三分の理があると思います。もしそうなら無用の誤 解を防ぐためにも、その理屈を首相としてきちんと説明する必要があるのではないでしょ うか。   小泉首相はそうした理性的な思考回路が欠如しているから、参拝理由を「個人の心の 問題」などとしか説明しないのではないか、と書いたら言い過ぎでしょうか。   ひるがえって、ドイツの作家・イルグク氏はもう少しやさしく小泉首相を見守ってい るようです。その意見を朝日新聞から引用します。   ここで朝日新聞というと、atroposさんばかりか、この掲示板でやたらと鉄砲を打ち まくる御仁には相当に嫌われているようですが、朝日新聞は多少の問題はあっても、日本 を代表する新聞であるといっても過言ではないと思います。   これは、少なくともアメリカのブッシュ大統領はそう見ているようです。大統領は東 アジアの報道機関3社との合同記者会見(11/8)において、日本代表に朝日新聞を指名しま した。妥当ではないでしょうか。毎日新聞や読売新聞では少し役不足に思えます。まして や atroposさんの愛読紙?である産経新聞は問題外でしょう。   朝日新聞は、イルグク氏の意見をこう紹介しました。        --------------------   小泉首相の靖国参拝は我が国でも報じられ、話題を呼んだ。首相は参拝理由を「心の 問題」などと言い、残念ながら首相としての判断基準は明確ではなかった。強行(ママ) 姿勢が際立ち、「理性的」だったとは言い難い。   国際社会の厳しい視線を承知で参拝した以上、小泉首相には「国益」上の思惑があっ たはずだ。  ・・・   日本が戦後、「加害者」として誠実に歴史と向き合ってきたとは言えないと思う。た だ日本には広島、長崎への原爆投下という悲劇がある。加害の一方で多くの被害もあった。 二つの側面とありのままに誠実に向き合い、招来の平和に役立てることを国際社会は望ん でいる。   歴史の無知と不誠実な態度はグローバル化にそぐわない。今回の靖国参拝は、歴史と 向き合う大きなきっかけを、日本人ひとりひとりに与えたといえる。        --------------------   小泉首相は「国際社会の厳しい視線」のなかで、参拝理由を「心の問題」「戦没者へ の追悼」「不戦の誓い」とだけしか語らないのでは、たとえそんな説明を何十回くり返し たところで周辺諸国をとうてい納得させることはできないでしょう。   また、靖国神社はA級戦犯を顕彰し、かつ侵略戦争を自存自衛の戦争と美化している のに、そこへ参拝することから生じる政治問題を中国などが批判しているのに対して、首 相が「A級戦犯のために参拝しているのではない」などと言ってすり抜けるようでは、相 手を愚弄する結果にもなりかねません。   これではいつまで経っても周辺諸国との和解は無理でしょう。ブッシュ大統領はこん な手詰まり状態を見るに見かねたのか、先の記者会見でこう提言しました。        --------------------   日中、日韓関係の悪化については「私にできることは、日中両国の首脳に対話を促し、 将来を見据えながら、過去を過去のものとして前進するよう働きかけていくことだ。韓国 の首脳にも同じことが言える」と述べ、3か国の対話促進を働きかけていく考えを示した (朝日新聞 2005.11.9)。        --------------------   ブッシュ大統領がいくらアドバイスしても、先方の批判を何とかすり抜けることに腐 心しているようでは、対話そのものが成立しません。日本は周辺諸国と真剣な対話を求め るのなら、相手の批判に真っ向から立ち向かう必要があることはいうまでもありません。 そうして初めて将来の展望が開けるものです。それをブッシュ大統領はこう語りました。        --------------------  「過去に起きたことの結果として、大きな緊張があることは理解している。しかし、不 倶戴天の敵同士だった日本はいまでは友人だ。過去を忘れるのは難しいが可能だ。私が役 に立てるとすれば、各国が過去の相違を克服して将来に目を向ければ、未来にいかに希望 を持てるか、という点について語ることだ」と、日本と中国、韓国が未来志向の関係を築 くことへの期待を表した(同上)。        --------------------   ここでちょっとお断りしますが、私はブッシュ大統領の信奉者ではありません。特に イラク政策で、ありもしない大量破壊兵器を口実にイラクに侵攻したことは許しがたい暴 挙だと考えています。   それはそれとしても、ブッシュ大統領の東アジア世界における未来志向の提言には率 直に耳を傾けたいと思います。   アメリカが、不倶戴天の敵だった日本の非道な過去を忘れるという困難を克服できた のは、日本がアメリカの神経を逆なでするようなことをしないばかりか、むしろアメリカ を民主主義の師であるとして多くの日本人が受け入れたことが大きな要因であったと思い ます。   しかるに日本は中国や韓国に対してはどうでしょうか? 戦前派はいうに及ばず、戦 後派すら中国や韓国の神経をことさら逆なでするような言動をとっているのが現実ではな いでしょうか。そのほんの一例が麻生太郎外相です。   麻生太郎氏はかつて「創氏改名」発言で物議をかもしました。自民党の政調会長だっ た時、日本が植民地の朝鮮でおこなった創氏改名を「満州で仕事がしにくかったから、名 字をくれと言ったのが、そもそもの始まりだ」と語り、韓国から猛反発を受けました。   これについては、トピずれになるのでレスがないかぎり書かないことにします。かわ りにインターネットのリンクを下記に記します。 <麻生太郎会長の「創氏改名」発言> <麻生太郎「創氏改名」発言の背景>   韓国の神経を逆なでする「創氏改名」発言を平気でするような麻生太郎氏が外相に なって、アメリカとの対話はツーカーの仲になるのかも知れませんが、それに反比例して 韓国や中国との対話は頓挫するのではないかと懸念されます。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/



    半月城へメール送信

    [トップ画面]