半月城通信
No.115(2005.10.10)

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    目次

  1. 首相の靖国参拝を注視する世界の眼
  2. 首相の靖国参拝を注視するアメリカの眼
  3. USA TODAY記事「靖国神社」
  4. 首相の靖国参拝は憲法違反
  5. 靖国神社の本質、韓国「中央日報」記事
  6. 扶桑社の歴史教科書と俵義文氏
  7. 「新しい歴史教科書をつくる会」賛同者
  8. 「松島渡海免許」と竹島=独島
  9. 日本の「竹島ゴール」変更、裁判から調停へ

  10. 首相の靖国参拝を注視する世界の眼 2005.9.9 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   入江一史さんは、小泉首相の靖国神社参拝を批判しているのは「周辺諸国ではなく 中韓朝では?」と思いこんでいるようですが、すこし視野が狭いのではないでしょうか。 それとも中国や韓国、北朝鮮以外の批判をすべて矮小化するつもりでしょうか?  すでに、この掲示板で私はシンガポールの見方を下記のように紹介済みです。        --------------------   シンガポールのリー首相は靖国参拝について「悪い記憶を思い起こさせる。シンガ ポール人を含む多くの人にとって、靖国参拝は日本が戦時中に悪い事をしたという責任を 受け入れていないことの表明、と受け取れる(注1)」と語ったくらいでした。        --------------------   こうした記事ひとつからアジア各国の多彩な靖国批判を悟るべきですが、靖国批判を 矮小化しようとする人たちにそれを求めても、しょせんは無いものねだりかも知れません。   シンガポールは、以前から靖国問題に敏感でした。靖国神社にA級戦犯が祀られたと き、まっ先に批判の声をあげたのも他ならぬシンガポールでした。それを赤澤氏はこう記 しました。        --------------------   A級戦犯の合祀が世間に知られるようになったのは、合祀から半年を経た1979年4月 19日の『朝日新聞』の記事によってである。   その直後の4月23日、シンガポールの華人紙『黒洲日報』の社説は、このA級戦犯合 祀と大平首相の靖国神社参拝を批判して、これは「侵略の「戦争責任」を完全に否定す る」考え方に立脚した行為であり、かつて侵略を受けた「アジアの各国民」から見ると、 「現在の日本人が侵略的意図を放棄した」か否かが疑われる事態だと述べ、「外国人の目 からすれば、靖国神社は「戦犯の神社」に変わってしまった(注2)」と述べた(注3)。        --------------------   シンガポールも、侵略の戦争責任を否定するがごとき日本の言動はとうてい見逃すこ とができないようで、機会あるごとに靖国神社批判が噴出するようです。   2001年、リー・シェンロン副首相が自民党の山崎拓 幹事長と会談したときにも日本 の戦争責任問題や靖国批判が持ちだされました。それを共同通信はこう伝えました。        --------------------   シンガポール外務省のスポークスマンによると、副首相は「日本が戦争責任の問題を 片付けていない」ことと、戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社の性格から、小泉首 相が過去の侵略を反省した談話を十三日に発表したにもかかわらず近隣国の反発が起きた、 と指摘した。   自民党の山崎拓 幹事長は会談後、記者団に「副首相は首相談話を評価した。ただ首 相参拝に近隣国が反発しているのは事実で、今後はそのような状況を招かないよう考えて ほしいと言われた。過去の歴史に早く幕を閉じ、東アジア全体の発展を図ろうと話してい た」と語った(注4)。        --------------------   こうした批判は、マレーシアでも同様です。2001年、オン・カティン住宅・地方自治 省はもっと強い口調で「私は、この歴史教科書と首相の靖国神社参拝への抗議の意思を表 明する先頭に立ちたい」「侵略戦争を正しい戦争と教えることは、次の世代を誤って導く ことになる」と厳しく批判しました(注5)。   これに同調して、マレーシアの「星州日報」はこう伝えました。        --------------------   小泉首相が靖国神社参拝を強行したのは政治信念が背景にある。小泉首相は大局を見 ることを忘れ、個人の政治的利益のために大きな代価を払った。日本がもし近隣諸国との 関係を改善しなければ、外交や経済にとってもマイナスとなる(注6)。        --------------------   さらに隣のタイでも「京華中原報」は「小泉首相が首相として靖国神社を参拝したこ との影響は非常に大きい(注6)」と批判しました。   一方、台湾では靖国神社を参拝する「親日派」がたまにいるようですが、これには辛 辣な批判が浴びせられました。今年春、「台湾団結聯盟」の蘇進強主席らが靖国神社を参 拝した時、下記のようにゴウゴウたる批判がよせられました。        --------------------  「台湾団結聯盟」の靖国参拝、台湾各界が相次ぎ非難 (前略) 親民党の宋楚瑜主席は5日、「『台湾団結聯盟』による靖国神社参拝は台湾の尊厳を傷 つけただけでなく、民族としての立場をなくしたものであり、全人民の非難を受けるべき だ」と述べた。 台湾の先住民出身の「立法委員」である高金素梅氏は5日、蘇進強氏が台湾に戻った時、 先住民数十人を率いて蘇主席に直接抗議した。高金氏は、「台湾団結聯盟」がことあるご とに「愛台湾(台湾を愛する)」と主張する一方、無数の先住民や台湾の人々を殺戮(さ つりく)した日本軍国主義の象徴たる靖国神社を参拝したことを指摘。「もしユダヤ人が ナチスの統治者を拝めば、どういう光景か」と述べた。 新党の郁慕明主席は、「『台湾団結聯盟』は、当時の台湾の軍人2万8千人が一体誰のた めに戦ったかをまったく理解していない」と指摘し、「当時日本が台湾の人々を強制徴用し て他国を侵略し、どこが『国のために身を捧げた』と言えるのか」と問いかけた。 台湾各大手メディアは5日、この問題について社説や評論を相次ぎ発表した。 ▼「中時晩報」 社会は、軍国思想と距離を置くべきであり、侵略行為が人類にもたらした大きな災厄を 忘れてはならない。日本が起こした太平洋戦争の被害者の立場にある台湾に、靖国神社を 参拝するどんな理由があるのか。被害者の同胞のために奔走し尽力したことのない政治屋 たちに、歴史を忘れるよう人々に求める資格があるのか。 ▼「中国時報」 アジア各国の国民の心の中では、靖国神社の位牌もまた、当時無実の人々や捕虜に占 領・統治・苦難・虐待・虐殺を行った戦争の道具だ。「台湾団結聯盟」が靖国神社を参拝 したのは、台湾人にとって悲しむべきではないか。日本が台湾を統治した50年の中で、自 由と自尊のために日本政府と戦い、犠牲になった台湾の人々を、蘇進強氏は一体どのよう に記念すべきだろうか(注7)。        --------------------   このように小泉首相の靖国神社参拝問題では、アジア各国で批判の声は枚挙にいとま がありません。中国や韓国、北朝鮮はいうにおよばないのですが、批判の声はアジアばか りか遠く欧米でもあがっています。それらを調査した三上氏はこう記しました。        --------------------   反応が予想できるアジア諸国以外、主に欧米ではどのように報道されただろうか? 小泉首相の靖国参拝を取り上げた欧米のマスコミは、7カ国16社以上にのぼった。  ・・・   興味深いものを拾ってみる。首相の靖国参拝を、ドイツ首相がヒトラーが祭られた神 殿を参拝するのと同じだと紹介したのが、カナダ『グローブアンドメール』。   歴史教科書問題や憲法改悪の意図と参拝が、連動していると1ページの特集を組んだ のは、イタリア『レプブリカ』(01,8,13)。   スイスのクオリティーペーパー『ノイエチューリッヒ』では、小泉首相が「YASUKUNI」 という爆弾を抱えて出撃する「kamikaze-Koizumi」という一コマ漫画を掲載した。   全体的に欧州では靖国参拝を批判する論調だが、中でも最も強く批判していたのはド イツだ。『シュピーゲル』は、小泉首相について、改革者としてポップスターのような人 気を誇る一方で、政治手法は愛国心と米国との同盟関係を強調する超保守的政治家だと報 じ、歴史教科書問題も紹介した。   地球温暖化防止のための京都議定書をめぐる問題で、日本が米国寄りの姿勢を示し、 欧州から大幅な譲歩を引き出したことも取り上げ、首相は「ブッシュ米大統領を唯一の友 人と見ている」と加えている(01, 8, 13)。   『南ドイツ新聞』は、「戦争礼賛に励む小泉―日本の首相、靖国参拝でかび臭い国家 主義を明らかにする―」と題して、靖国神社を「日本のradicalな極右達の聖地」、「天 皇礼賛の残滓物の中枢」であり、「戦争をいましめる警告施設とは全く別のものだ」と強 く批判した。   首相が特攻隊に涙したことを「神風特攻隊…の礼賛」と取り上げた上で、首相の個人 的な歴史認識が濁っており、「軍事浪漫主義」的で「国家保守主義者」だと報じた。「ア ジア…との和解は彼にとって…重要でない」ともいっている。   また、首相が原爆記念日に広島・長崎に行くのも、靖国神社で戦犯を追悼するのも、 日本人にとっては同じことで、自らを犠牲者とみなし、加害者だとはみなさない「集団的 で日本的な歴史の盲目性」、「間違った国家認識」を象徴しているとも伝えた(01,8,14)。   85年8月15日に公式参拝した中曽根康弘元首相や、参拝に反対した田中真紀子元外務 大臣、「日本遺族会」にも触れており、かなり詳しい。  ・・・   上述したが、欧州では全体的に靖国参拝に批判するトーンの記事だ。しかし、欧州と いってもかなり温度差はある。偶然か必然か、元枢軸国 独・伊は日本の右翼化を危惧し たり、日本の歴史認識についてもかなり手厳しく、報道内容も深く濃い。   一方、英・仏などそれ以外の国では、トーンはかなり落ちるように思う。アジア諸国 に配慮すべきである、など警告は発しているものの、日本の再軍国主義化を本気で心配し ているものは少ない。   むしろ、アジアでの日本の孤立化など、日本の外交上のリスクを心配したものが多い。 01年夏、参拝前、首相が訪仏しシラク大統領と会談した時のエピソードは象徴的だ。首相 は大統領に「友人として」こう忠告されたという。「参拝すれば日本のアジアとの関係は 難しくなり、世界の中で日本は孤立する危険がある。注意してほしい」と(『朝日』02,4, 25)。(注8)        --------------------   シラク大統領が「友人」として日本の首相に忠告するなんて前代未聞です。しかし、 せっかくの忠告もいかされず、結果は大統領の予測がそのまま的中した感があります。   靖国問題などで日本は孤立しているのではないかという声は、日本の内部からもださ れました。共同通信によれば、民主党の小沢一郎副代表は今月6日、愛知県豊明市で街頭 演説をして、小泉純一郎首相の外交政策についてこう語ったようでした。  「(靖国神社参拝などで)中国とも韓国ともどうしようもない状態だ。北朝鮮の金正日 総書記にも相手にされず、国際社会で日本の孤立化が進行している(注9)」   コラムニスト船橋洋一氏も「靖国問題では、欧米もアジアもなく日本は孤立しやすい (注10)」と語りましたが、首相の靖国神社参拝に理解を示す国はほとんど見られず、首 相は国際的に孤立を深めているようです。   遅まきながら、小泉首相もそれに配慮したのか、結局、8月中は靖国神社参拝を取り やめました。しかし、小泉首相がご自身の態度をズルズルとあいまいにしたおかげで、靖 国神社をめぐる論議が盛んになり、内外ともに多くの人が日本の戦争責任問題を改めて考 える絶好の機会になりました。これは、小泉首相の「ケガの功名」ではないでしょうか。 (注1)朝日新聞<靖国参拝「周辺国の視点を」 シンガポール・リー首相>2005.5.18 (注2)朝日新聞「世界の声」1979.4.27 (注3)赤澤史朗『靖国神社』岩波書店,2005,P198 (注4)共同通信 2001.8.19 <独に倣って過去清算を シンガポール副首相> (注5)しんぶん赤旗 2001.8.17 <歴史改ざん許さない> (注6)人民網日本語版,2001.8.15 <世界各紙、小泉首相の靖国参拝を非難> (注7)人民網日本語版,2005.4.6 <"台湾団結聯盟"の靖国参拝、台湾各界が相次ぎ非難> (注8)三上真以子<世界の靖国問題> (注9)共同通信,2005.9.7 <日本は国際社会で孤立化」 小沢氏、首相を批判> (注10)朝日新聞、2002.4.25 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    首相の靖国参拝を注視するアメリカの眼 2005.9.18 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   前回の書き込みに、アメリカの記述がないことに気づいたでしょうか。いうまでもな く、日本にとってアメリカの一挙手一投足は影響力が大きいだけに、今回は特にアメリカ の見方を取りあげることにします。   今年6月20日、日韓首脳会談があり、そこで盧武鉉大統領は小泉首相に靖国参拝を取 りやめるよう要請しました。   これに対し、小泉首相は「日本の戦没者に対する追悼のあり方は、韓国の方に理解で きる点と理解できない点があると思う。特に戦争の被害を受けた国として日本とは違った 理解なり感情があるのは承知している(注1)」と答え、事実上 大統領の要請を拒否しまし た。   このニュースはアメリカの関心も引いたようで、ニューヨーク・タイムズやUSA トゥデーがさっそく靖国神社の特集記事を組みました。   USAトゥデーは、アメリカ最大の発行部数(230万部)をもち、アメリカ唯一の全 国紙ですが、6月23日付の同紙は第八、九面の見開き特集で、「東京の神社がアジア中の 怒りの的」と題する記事を大きく掲載しました。その記事を「しんぶん赤旗」はこう伝え ました。        --------------------   東京発のポール・ワイズマン記者によるこの記事は、靖国神社の実態を紹介したなか で、過去の戦争を正しい戦争だったとする「靖国史観」に言及しています。   靖国神社がそのウェブサイトで、真珠湾攻撃や中国、東南アジアへの侵略を「国の独 立と平和を維持し、全アジアを繁栄させるために、避け得なかった戦争」と説明している ことを紹介。「靖国神社は、悪びれることなく、十四人の戦犯を『連合軍のでっちあげ裁 判で戦犯の汚名をきせられ』た殉難者だと描いている」と伝えました。   同記事は、靖国神社が「アジアの最大の紛争地の一つ」だと切り出し、「過去の記憶 が問題を起こしている」「数十年前に帝国日本軍に占領され、じゅうりんされた中国、韓 国その他のアジア諸国は、小泉首相の挑戦的な靖国参拝が血塗られた過去へ反省を示すこ とを日本が拒否していることの象徴であるとみている」と指摘しました。   またA級戦犯をひそかに合祀(ごうし)したことが、戦中の日本の残虐行為をもみ消 そうとする教科書とあいまって、「アジア中の神経を逆なでしている」と指摘しました。        --------------------   この文で「アジア中の神経を逆なでしている」という表現は若干オーバーとしても、 USAトゥデーは靖国をめぐる状況をほぼ正しく把握しているようです。   つぎはニューヨーク・タイムズです。同紙はアメリカでオピニオン・リーダー的存在 ですが、同紙は「有罪判決の否定を模索する日本の戦争神社」と題し、「戦争博物館」 (遊就館)でのビデオ上映のようすや、靖国神社に集合した右翼宣伝カーの写真なども載 せ、靖国神社問題を大きく報道しました。   その記事を、著作権の関係から一部だけ訳して紹介します。        -------------------- 「有罪判決の否定を模索する日本の戦争神社」   ニューヨーク・タイムズ、2005.6.22 [東京]   ある雨の朝、愛国青年同盟など右翼団体に所属する数十台の車が、日本の戦死者を神 道で祀る靖国神社の境内に集まった。   あるトラックが「天皇崇敬」のスローガンを読み上げた。また、あるトラックは漠然 とした敵に「祖国を愛し、守れ」、「一人一殺」などと遠回しにがなり立てた。   12時半、隊列は東京の街路に進んだ。行き先は知れない。しかし、いつも目標は同じ である。中国大使館やリベラルなメディア、あるいは日本の戦争は合法的で戦争指導者は 犯罪者ではないという主張にあえて立ち向かおうとする人物などである。   靖国神社は、軍国主義の過去を修正しようとする奮闘の象徴的な中心であり、かつ日 本と周辺諸国との関係悪化の核心的存在である。今や、東京裁判で有罪とされ靖国神社に 祀られた14人の戦犯は実は有罪でないし、日本の過去の戦争はそんな悪いものでもな かったという主張を極右だけでなく、有力政治家や報道機関までもが言っている。   たとえば、さる6月20日、小泉純一郎首相は韓国の盧武鉉大統領との会談において、 大統領からだされた靖国神社参拝の取りやめや、日本の残酷な植民地統治の犠牲者である 中国や韓国にとって受け入れやすいような靖国代替施設の建設の要請にガンとして抵抗し た。   日本があられのような靖国批判をあびる間、日本だけでなく中国や台湾、アメリカも それぞれの関心をもって靖国神社と戦争犯罪の問題を扱ってきた。   第二次世界大戦後、アメリカは6年間 日本を占領したが、前半は戦争犯罪を追求し、 日本を民主化してきた。しかし、後半になって共産主義者が中国を支配し、冷戦が始まる や、ワシントンは逆コースをたどり始めた。大戦時の指導者を一夜にして社会復帰させ、 日本を強くすることに努めてきた。   何人かの絞首刑をかろうじて免れたA級戦犯容疑者は、政財界のリーダーになった。 なかでも岸信介は首相にすらなった。   アメリカからの種々入り乱れたメッセージは混乱の種をまいた。戦争指導者を裁いた 東京裁判は高度な政治判断からヒロヒト天皇への言及を避ける一方、アメリカは天皇を退 位させなかった。   そのため、日本では東京裁判の評決に対する議論がわきおこった。日本が侵略戦争を おこなったというのは、実は間違いであるなどという議論である。   A級戦犯として処刑され、靖国神社に祀られた東条首相の孫である東条由布子は、電 話のインタビューで「あれは自衛の戦争であった」「中国は、侵略戦争をおこない混乱を 招いた責任者が祀られている靖国を国家の元首が参拝するのは許せないといっている。し かし、もし私たちが中国に同意するなら、それは侵略戦争を認めることになる。断じてそ れはできない」と語った。   長い間、彼女のような保守的民族主義者にとって靖国訪問は「身のあかし」であるか のように見なされてきた。   そのため、二週間前に小泉氏が東京裁判の有効性を認める発言をしたとき、その有効 性を認めない読売新聞は当惑した。同紙は社説で「過去、小泉純一郎首相はいかなる歴史 観で靖国神社を参拝したのか?」と問いかけ、もし小泉氏が裁判の裁定を受け入れるなら 「靖国神社を参拝すべきではない」と主張した。   靖国神社は神である天皇を中心にして、民族的な国家宗教を創造する推進力をになっ て 1869年に建てられた。   第二次世界大戦の終了時まで、ほぼ250万人の兵士が彼らの命を天皇にささげたこと によりここに祀られた。二つの内戦を除き兵士が散った他の九つの戦争は、中国や朝鮮半 島、台湾への進攻、はてはアメリカへの攻撃によるものだった。   靖国の戦争博物館は、アメリカは不況を乗り切るため日本に真珠湾攻撃を強いたと主 張し「アメリカが戦争に突入するやいなや、アメリカ経済は完全に回復した」と述べた。   博物館で見せられたビデオ「我々は忘れない」は、戦後におけるアメリカの日本占領 を「無慈悲」なものとして語った。しかし、博物館は日本自身のアジア占領を語ろうとは しない。   南京レイプに関して、博物館は中国の司令官を責め、日本の処置のおかげで市内の住 民はふたたび平和裏に暮らせるようになったとつけ加えた。   靖国社務所は刊行物で「展示は特別な歴史観にもとずくものではなく、明白な証拠に よるものである」と記述している。そんな靖国の歴史観は、アジアの人々やアメリカ人に はほとんど受け入れられない。  (中略)   中国と韓国は靖国神社に反対する正当な理由を有する一方で、両国は民族主義者の心 情に訴えることで国内の支持を増してきたと責められている。   アメリカは靖国とA級戦犯問題に沈黙しているが、これは注目に値する。アメリカは 日本を打ち破って占領し、今でも5万人の軍隊を有するだけに、日本にとってアメリカは これらの問題で真摯に耳を傾ける存在である。   靖国は、真珠湾攻撃を命じた日本人を神格化しているだけに、アメリカは無関心なオ ブザーバではありえない。当局者は、靖国をアーリントン国立墓地と並べて比較するよう な日本人には眉毛をつりあげている。   しかし、かれらは幾分不快であろうとも、靖国を訪れる日本人を擁護しがちであるか、 あるいは意図的に沈黙しがちである。   冷戦は終わったかもしれないが、中国の台頭は1940年代に於ける共産主義の台頭と同 じようにアメリカを警戒させている。そのため、日本人が靖国や戦犯について何と言おう が、強い再軍備の日本が好ましいのである。        --------------------   ニューヨーク・タイムズの論調はUSAトゥデーとはかなり異なるようです。アジア 各国の心情や怒りなどにはほとんど触れず、ひたすらアメリカの国益の観点から靖国神社 をみているようです。   その結果、右傾化した日本が真珠湾攻撃などを正当化しようとするたくらみには警戒 する一方で、パックス・アメリカーナの協力者として日本を意識し、そのためには靖国問 題ごときには目をつぶるのも方便であるという趣旨のように見受けられます。   さらにうがった見方をすれば、日本を強い軍事大国に仕立てるには、靖国神社は「戦 争神社」という性格からして、あるいは有用かもしれないと考えて記事を書いたのかも知 れません。 (注1)朝日新聞2005.6.22、<靖国参拝「核心でない」 首相、対中韓関係で答弁> (注2)「しんぶん赤旗」2005.6.25、 <靖国神社が「アジア中の怒りの的」> USAトゥデーの記事 2005.9.19 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」  rivyさん、 >ただ、一部の情報で、しかもよりによって偏った赤旗の記事を再引用してアメリカの見  方と断言する感覚が理解できません。  「しんぶん赤旗」にせよ「サンケイ新聞」にせよ、すべての新聞は「偏って」いて当然 ではないでしょうか。   また、たとえ「しんぶん赤旗」の記事一般が必ずしも信頼できないとしても、少なく とも同紙が書いたUSAトゥデーの引用部分に関しては信頼できるのではないでしょうか。   ただ「しんぶん赤旗」が引用しなかった部分の内容によっては、記事の全体趣旨がゆ がめられる可能性は考えられます。   しかし、紹介した記事のタイトルが、<靖国神社が「アジア中の怒りの的」> 、原 文で "Tokyo shrine, a focus of fury around Asia" なので、引用文が記事の趣旨から 大きくかけ離れることはあり得ません。   さらに、rivyさんは「一部の情報」を強調しましたが、USAトゥデーとニューヨー ク・タイムズは性格の異なる、アメリカの代表的な新聞ではないでしょうか。そうした観 点のことなる両紙の記事からアメリカの意見を推しはかるのは妥当ではないでしょうか。   もし rivyさんが靖国神社に関して両紙とことなるようなアメリカの主張を見聞した のなら、出所を明らかにして正確に引用していただければ、それは貴重な情報になります。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    USA TODAY記事「靖国神社」 2005.9.26 メーリングリスト[AML}   半月城です。北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」に書いた文を 転載、追加します。          ++++++++++++++++++++   骨喰吉光さん、人間の脳は見たいものだけを見、聞きたいものだけを聞いているので はないでしょうか。   骨喰吉光さん wrote > また、わたしが読んだ限りにおいて「アジア中の神経を逆なでしている」という指摘  も存在していません。・・・   もう一度、USA TODAYの記事をきちんと読むことをすすめます。あるブログで GAKUさ んが記事の一部をこう翻訳しました。        -------------------- 「東京の神社がアジア中の怒りの的」 USAトゥデー紙6月23日付  数十年前、帝国の日本軍に占領され、じゅうりんされた中国、韓国その他のアジア 諸国は、小泉首相の挑戦的な靖国参拝が、血塗られた過去へ反省を示すことを日本が拒否 していることの象徴であるとみている。問題は、1978年に靖国神社が……第2次世界大戦 後 国際法廷によって有罪を宣告された14人の「A級」戦犯を、ひそかにまつったことであ る。  靖国神社をめぐる(そして、日本の戦争中の残虐行為をもみけそうとする教科書を めぐる)論争は、日本にとって外交上の結果をもたらしつつあり、アジア中の神経を逆な でしている。…… <靖国史観――アメリカのメディアの反応>        --------------------   やはり、ここでも「アジア中の神経を逆なでしている」と訳されました。念のために 書くと、USAトゥデーの記事で問題の一節は下記のように書かれており、むしろ「しん ぶん赤旗」の表現は名訳といえます。  The controversy over the shrine (and over textbooks that whitewash Japan's wartime atrocities) is having diplomatic consequences for Japan and rattling nerves across Asia (注2).   前にも書いたように「アジア中の神経を逆なでしている」という表現は若干オーバー としても、USAトゥデーは靖国をめぐる状況をほぼ正しく把握しているようです。         ++++++++++++++++++++   掲示板での文は以上ですが、これに USA TODAYの記事を部分的に翻訳して追加します。        -------------------- 「東京の神社がアジア中の怒りの的」 東京   アジア最大の紛糾地のひとつが、都心で摩天楼や車の往来から隔絶され、ひっそり、 そしてのどかに横たわっている。   靖国神社の池では子どもたちが魚にえさをやったり、桜の木の下をアベックがロマン チックに歩いている。そうかと思うと、年老いた退役軍人が戦争で散った友をしのんでい る。  ・・・   多くの日本人にとって靖国神社は、アメリカで戦死者を顕彰するアーリントン国立墓 地となんら変わらない。   日本人は、小泉純一郎首相が毎年のように神社を参拝することに対し、なぜアジアの 各国民がそれほどに怒るのか理解していない。  靖国神社に女友達と訪れたハリ治療師の木村タカシ(29)は、それは「きっとコミュニ ケーションの不足ではないか」という。  (上記の文につづく)   火曜日、韓国「中央日報」紙は、盧大統領が小泉首相を叱ったことを報じた。「あな たが靖国参拝をどう説明しようと、それは私や韓国人にとって、日本の過去の戦争を正当 化する行為と解される。   今年の春、反日暴動が中国のいたるところで起き、日本の現地ビジネスに脅威となっ た。5月、中国の呉儀 副首相は小泉首相との会談を突然キャンセルし、日本との関係修 復の旅を終えた。   中国のひじ鉄は、小泉首相が他国は日本の戦死者を顕彰するやり方に干渉すべきでは ないと語った1週間後におきた。   小泉首相の靖国参拝に対して、日本国内からも批判の声があがっている。先週末、毎 日デイリーニューズは日本人の50%が首相の靖国参拝に反対していると明らかにした。 これは4月の調査の45%を上まわる数値である。   今月、朝日新聞の第一面の解説は、首相参拝は日本の国連安保理入りを危うくするも のであると警鐘をならした。   日本で中曽根康弘・元首相や衆議院議長などトップクラスの政治家は小泉に靖国参拝 を再考するよう強く申し入れた。 25万坪の霊園   神社の世話役は、論争とは距離をおこうとしている。靖国神社の代弁人であるオーヤ マ・シンゴは「歴史の問題は歴史家にまかせたい」と言った。   神社は1869年に建てられた・・・   誰も靖国神社には埋葬されていない。代わりに死者の霊魂、あるいは「カミ」に栄誉 が与えられている。一般参拝者は大きな入口の門、鳥居を通り、礼拝ホールの前で死者を 祈る。   小泉首相のような公職者はメインホールで参拝する。参拝者は噴水で手や口を清める。 次いで、細いあごヒモのついた黒光りする帽子を被り、長いローブを着た神官にしたがい、 静かなホールへ進み、魂を浄めるために神をよぶ。  ・・・   靖国とは「平和な国」を意味するが、戦争の悲しみを反映した場所ともされる。しか し、神社を維持する人たちは、日本が他国へ与えた苦痛よりも日本がこうむった苦痛のほ うにより敏感である。   靖国神社のウェブサイトは、1941年の日本による真珠湾攻撃や中国や東南アジアへの 侵略について「日本は国の独立と平和を守り、アジアの繁栄のために紛争を強要された」 と説明している。また、14人の戦犯を「不当にも連合軍の恥ずべき裁判にかけられた」殉 難者であると堂々と記述している。   マサチュッセツ・アマースト大学の歴史家で、1971年に刊行された『東京裁判』の著 者であるリチャード・ミネアは、戦時の首相である東条英機などのA級戦犯は、彼ら自身 は虐殺を行わなかったと記した。   ミネアは「東京裁判の被告は、主に侵略戦争の遂行に果たした役割から選ばれた。侵 略戦争は、それがどうあれ、それ自体が犯罪である」と語った。   日本をのぞいて、靖国への怒りはアジアにおけるナショナリズムの台頭を反映してい る。拓殖大学の高森 明勅は、中国の指導者は自国民の愛国心を鼓舞し、かれら自身の独 裁権力を正当化するため、反日感情をあおっていると語っている。   同様に、韓国政府は権力のなかに強い自民族中心の意識を持ちこんだと、岡本アソシ エーツのコンサルタントであるマイケル・チュチェックは述べた。 動機の探索   なぜ、小泉は騒動の渦中で、そうまで靖国参拝にこだわるのか?   チュチェックは、小泉が郵政民営化などの政策を実行するために必要な支持を得るた め、右翼政治家におもねているのだと見ている。   韓国の日刊紙「中央日報」によれば、小泉は盧大統領に日本は戦犯の霊の存在にわず らわされないような戦死者のための追悼施設建設を考慮すると約束したという。しかし、 小泉ウォッチャーは、首相が後退するのではないかと疑っている。   チュチェックは「小泉は破天荒にふるまうのを楽しんでいる」という。5月、中国の 高官である呉儀のひじ鉄について「小泉は笑みをおさえるどころか、彼女の不作法を明ら かに楽しんでいた」とかれは述べた。   退職した車のディーラーである稲垣マサル(70)は「かれは変人なので、ここに来るの をやめないだろう。ほんとうにかれは頑固である」といった(注1)。        -------------------- (注1)USA TODAY, 2005.6.22 <"Tokyo shrine a focus of fury around Asia"> (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    首相の靖国参拝は憲法違反 2005.10.1 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   鈴木隆さん、wrote >また、例え、判決主文で違憲と判断されても、その効力は小泉首相の2001年8月1  3日における靖国神社参拝についてのみ発生するのであって、首相の靖国参拝がすべて  違憲になるわけではありません。   鈴木さんは法律の専門家のようですが、個々の判決の法解釈に汲々とするあまり、大 局を見失っていませんか? 一を聞いて十を知るべきです。   ご存知のことと思いますが、小泉首相の靖国参拝について二度目の憲法判断が、今度 は大阪高裁で昨日ありました。そこでは 2001年のみならず、2002年、2003年の首相参拝 についても憲法違反との判断が示されました(注1)。   当然ではないでしょうか。何しろ、靖国神社に行くのに公用車を使い、首相秘書官も 連れて行き、しかも靖国神社で「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳しているのですから、 これはどこから見ても首相としての公的参拝ではないでしょうか。   あるいは公用車の使用は、警備の都合上とかいう負け惜しみ的な発言もあるようです が、私的か公的かが論議されているなかで、私的な参拝だとしたら公用車を使用するのは 余りにも「けじめ」がなさ過ぎます。   当時、小泉首相は公的参拝を否定しないまま靖国参拝をおこない「内閣総理大臣」と 記帳したのですから、これを私的な参拝とみるのはますます困難です。   もし私的な参拝のつもりなら、かつての三木首相のように、そのように明言して公用 車を使用しないで参拝すべきです。「李下に冠を正さず」、それが公人としての努めでは ないでしょうか。   しかし私の考えでは、小泉首相はそうした議論を百も承知のうえで、むしろ政治的に 「公的参拝」を既成事実化しようとして、意図的に「公的参拝」をしたのではないかと推 測しています。   もともと小泉首相の靖国参拝は、小泉さんが首相になるときの政治家としての公約で した。その当時、小泉さんは毎年8月15日に参拝すると約束していましたが、さすがに敗 戦記念日の参拝は中国などアジア諸国の強い反対で見送らざるをえなかったようです。   そうした経緯をもつ政治的な靖国参拝であり、しかもニューヨーク・タイムズが「戦 争の神社」と位置づけた靖国神社に首相が参拝したのであるので、政治的参拝の色彩は鮮 明です。   単に戦死者を追悼するだけなら、靖国神社でなければならない特別な理由はありませ ん。首相や天皇は8月15日に全国戦没者追悼式に参加していますが、それだけで追悼の意 思は十分に伝わります。大阪高裁もそのような趣旨の判断をしました。   結局のところ、憲法判断にまで踏み込んだ裁判所の判決は福岡地裁といい、今度の大 阪高裁といい、すべてが首相参拝は憲法違反という判断であり、合憲とした判決はひとつ も存在しません。今後、首相の靖国神社参拝は、政教分離の原則からも中止すべきです。 (注1)「小泉首相の靖国神社参拝」、大阪高裁の判決要旨        2005.9.30  1 小泉純一郎首相の、01年8月13日、02年4月21日及び03年1月14日に おける靖国神社参拝(以下「本件各参拝」)の職務行為性について  本件各参拝について、公用車を使用し、内閣総理大臣秘書官を伴い、靖国神社において 「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳したことなどの態様、本件各参拝が内閣総理大臣就 任前の公約の実行としてなされたこと、本件各参拝前後の小泉首相の発言内容は、本件各 参拝が私的なものであると明言せず、公的な立場での参拝であることを否定していないこ と、小泉首相の発言及び談話、所感に表れた本件各参拝の主たる動機ないし目的は政治的 なものであることなどを総合すると、本件各参拝は、少なくとも行為の外形において、内 閣総理大臣としての「職務を行うについて」なされたものと認めるのが相当である。  なお、内閣総理大臣も、個人としては信教の自由を有するが、内閣総理大臣という公職 にある者としては、政教分離原則違反の問題が論議されている中で、本件各参拝が私的行 為であるか、公的行為であるかを公に明確にすべきであり、私的行為であることをあえて 明確にせず、あいまいな言動に終始する場合には、公的行為と認定する一つの事情とされ てもやむをえない。  2 本件各参拝の違憲性について  本件各参拝は、宗教団体である靖国神社の備える礼拝施設である靖国神社の本殿におい て、祭神に対し、拝礼することにより、畏敬(いけい)崇拝の気持ちを表したものであっ て、客観的に見て極めて宗教的意義の深い行為というべきである。  また、本件各参拝は、内閣総理大臣の職務を行うについてなされた公的性格を有するも のであり、小泉首相は、3度にわたって参拝したうえ、1年に1度参拝を行う意志を表明 するなどし、これを国内外の強い批判にもかかわらず実行し、継続しているように、参拝 実施の意図は強固であった。以上は一般人においても容易に知りうるところであった。  これにより、国は、靖国神社との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったものと いうべきであって、これが、一般人に対して、国が靖国神社を特別に支援しており、他の 宗教団体とは異なり特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こす ものといわざるを得ず、その効果が特定の宗教に対する助長、促進になると認められ、こ れによってもたらされる国と靖国神社とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件 に照らし相当とされる限度を超えるものというべきである。  したがって、本件各参拝は、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たると認められ る。  3 小泉首相による法的利益の侵害について  (1)思想及び良心の自由について、憲法19条の規定は、公権力が特定の人の内心を 強制的に告白させまたは推知しようとすることや、内心の形成、変更に対する圧迫、干渉 をも禁止するものと解される。  また、信教の自由については、憲法20条1項により、人は、信教の自由の内容として、 公権力による強制のみならず、圧迫、干渉を受けない権利ないし利益をも有するものと解 すべきである。  そして、控訴人らが、思想及び良心の自由、信教の自由の内容として、戦没者をどのよ うに回顧し祭祀(さいし)するか、しないかに関して、公権力の圧迫、干渉を受けずに自 ら決定し、これを行う権利ないし利益を有すると解する余地が全くないわけではない。  (2)しかし、本件各参拝は、靖国神社に赴いて祭神に拝礼するというものである。ま た、本件各参拝の主な目的は、政治家として、公約とした内閣総理大臣としての靖国神社 への参拝を実現し、戦没者に反省と哀悼の意をささげることにある。本件各参拝が、それ らを超えて、控訴人らに対し、靖国神社への参拝を奨励したり、自らの行為を見習わせる などの意図、目的があったものとか、控訴人らに対し、靖国神社への信仰を奨励したり、 その祭祀に賛同するよう求めるなどの働きかけ等をしたものと認めることはできない。  したがって、本件各参拝によって、控訴人らの思想及び良心の自由、信教の自由、さら にプライバシーの権利ないし人格的自律権・自己決定権を根拠とする権利ないし利益につ いて、強制はもちろん、圧迫、干渉がなされ、控訴人らが主張するような上記権利ないし 利益が侵害されたものと認めることはできない。  4 被控訴人らの責任について  (1)小泉首相の責任  本件各参拝により、控訴人らの権利ないし法的利益が侵害されたとはいえないこと、ま た、公権力の行使に当たる公務員の職務行為に基づく損害については、公務員は、被害者 に対し直接その責任を負わないことから、小泉首相の責任を認めることはできない。  (2)国の責任  本件各参拝は、内閣総理大臣としての「職務を行うについて」なされたものであり、憲 法20条3項に違反する行為であるが、これにより控訴人らの権利ないし法的利益が侵害 されたものとはいえないから、国の責任を認めることはできない。  (3)靖国神社の責任  本件各参拝により、控訴人らの権利ないし法的利益が侵害されたといえないから、本件 各参拝にかかわった靖国神社の責任を認めることはできない。 以上 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    靖国神社の本質、韓国「中央日報」記事 2005.10.9 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   静かなる熊さん wrote, >首相の靖国参拝問題は政教分離に関する問題です。 伊勢だったら?大宰府だったら?他にもあるけど、最後に、靖国だったら? 言ってる意味わかります?   前にも書いたように、私は「雑多な政教分離問題」を議論の対象にしていません。小 泉首相が伊勢神宮にお参りしようが、熱田神宮に参拝しようが、アジアの諸国に関心をも たれないからです。   ひたすら、靖国神社への公人参拝だけが問題になります。その理由は、これまで何度 となく書いてきたように、靖国神社が軍国主義の神社として日本の侵略戦争を精神的な面 で支え、その延長で現在でも同神社がかつての侵略戦争を「自存自衛の戦争」と強弁し、 それがあたかも正義の戦争であったかのような主張をしているからです。   そんな神社をアメリカの NYT紙は「戦争の神社」と表現、またシンガポールの「星州 日報」紙は「戦犯の神社」と書きましたが、そのような神社に一国の首相が祈願する行為 は外国にどう理解されるでしょうか。   シンガポールのリー首相は「悪い記憶を思い起こさせる。シンガポール人を含む多く の人にとって、靖国参拝は日本が戦時中に悪い事をしたという責任を受け入れていないこ との表明、と受け取れる」と語りましたが、当然ではないでしょうか。   そうした靖国神社を首相が参拝するのは、日本によるアジアの傷口に塩を塗りこむだ けでなく、軍事大国である日本の行く末に不安をつのらせるものです。   こうした警戒感が韓国にはみられます。そうした論調を「中央日報」紙が述べていま したので、その一部を紹介します。なお、中央日報は「USA Today」紙にも紹介されまし たが、韓国で三大新聞のひとつに数えられる代表的な新聞です。        -------------------- 【中央フォーラム】「靖国信仰」を捨てなさい   韓国「中央日報」2005.8.1 (前略) われわれが(小泉首相の)靖国参拝を批判する最大の理由はそこに合祀されているA級 戦犯のためだ。戦犯を参拝することは、イコール侵略戦争を肯定する行為であり、受け入 れることができないという論理だ。  しかし冷静に計算すれば、これは靖国の本質を斜に見る危険がある。枝葉末節に興奮し たあげく本質に触れることができないというものだ。 まず確認しておくことがある。靖国は戦没者追悼のための所ではないという事実だ。 「追悼」というのは、死んだ人を思いながら悲しむという意味だ。ところで靖国は戦死を 悲しまない。悲痛に思わない。逆に戦死を賛美する。戦死すれば神になって靖国に仕えら れる光栄を享受するという。 「天皇がくださった命を天皇に捧げたから、それ以上の名誉はない」とし、みながその ように信じた。それが「靖国信仰」だ。その洗礼を受けた遺族たちは、胸いっぱいに自負 の念を抱いた。兵士らは「靖国で会おう」と死んだ。靖国はそのように日本国民を洗脳し て戦意を高揚させた。 これは追悼とは根本的に違う。難しい言葉を使うと「顕彰」だ。功績を高くたたえ、賛 美するという意味だ。 靖国に併設された戦争博物館である遊就館に行ってみればこれを実感することができる。 帝国主義の栄光と日本軍の功績をほめたたえている。功績というのはほかでもなく、戦争 と植民地開拓だ。それで靖国には軍人と軍属の位牌だけ置く。民間人の戦没者は靖国の関 心事ではない。侵略戦争に功績を残せなかったからだ。 このような靖国の属性は今も変わりがない。靖国を批判しようとするなら、まさにこの 点を浮き彫りにする必要がある。 また靖国は純粋な宗教機関でもない。戦時中は軍が直接管理した。敗戦後も陰で日なた で国家の支援を受けた。例えば日本厚生省は戦犯を含む戦死者名簿を靖国に渡し合祀した。 1956年には日本政府が国庫480万円を靖国の合祀作業に支援した。  この程度ならば小泉首相の靖国参拝は宗教活動とはみられない。韓国や中国の批判が内 政干渉という日本側反応も首相の参拝が国事と同時に高度な政治的行為であるのを自認し ているのだ。 それならわれわれも日本の政治的意図を意識しながら靖国問題を見ていかなければなら ない。A級戦犯の分祀を要求すればいいだけの問題ではない。A級戦犯は靖国のアイデン ティティを示す象徴であるだけで、本質ではない。  ・・・        --------------------   靖国神社の本質は、併設している戦争博物館「遊就館」によく表れているようです。 「帝国主義の栄光と日本軍の功績をほめたたえ」、侵略戦争を「自存自衛の戦争」と言い かえており、そこには侵略戦争に対する反省もなければ、日本軍がアジア各地でしでかし た残虐行為など負の遺産については知らん顔です。   南ドイツ新聞は、靖国神社を「戦争をいましめる警告施設とは全く別のもの」と指摘 しましたが、遊就館はまさにそれを証明しているようです。そうした神社へ軍事大国であ る日本の首相が参拝するのは、軍国主義の萌芽ではないのかという懸念が生じます。   結局、小泉首相の靖国神社で問題になるのは、そこにA級戦犯が祀られていることだ けではなく、本質的に「戦争神社」に参拝することであるという「中央日報」紙の趣旨は 正鵠といえます。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    扶桑社の歴史教科書と俵義文氏 2005.9.8 北京放送BBS中日友好関係「アサヒビールへの公開質問書」   安藤さん、こんばんは。 >そういえば、アサヒビール会長はつくる会賛同メンバーに名前を連ねてましたね   これはどのように確認できるでしょうか? 「新しい歴史教科書をつくる会」のホー ムページにアクセスしたのですが、賛同者リストの画像はあまりにも小さくて賛同者の名 前が読み取れませんでした。確認法を教えてください。 >歴史教科書も0.4%の採択率という不支持振りを見せた教科書。   市民団体「子どもと教科書全国ネット21」の俵義文事務局長によれば、「つくる 会」は「8000万円ほどの資金を投入して物量攻勢を広げた(注1)」そうですが、そ の結果が採択率 0.4%の体たらくとは、ほんとにグッドニュースです。   教科書の採算分岐点が採択率16%であるようなので、二連敗の「つくる会」は懲り て教科書作りから撤退するかなと思ったら、必ずしもそうでないようです。   なかなかしぶといのですが、それを資金面で支えているのが「つくる会」の賛同者、 なかでも財界人であることは間違いないようです。アサヒビール会長が「つくる会」の賛 同者なら、直接であれ、間接であれ資金援助しているのは間違いないだろうと思います。 >この際不買運動などいかがでしょうか?   この掲示板でアサヒビールへの批判が盛り上がれば、「つくる会」シンパであるアサ ヒビール製品のボイコット運動に発展することも考えられます。 (注1)韓国中央日報 2005.9.6 <新しい歴史教科書をつくる会の教科書阻止「ネット21」俵事務局長> (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    「新しい歴史教科書をつくる会」賛同者 2005.9.11 メーリングリスト「AML」   半月城です。   カマヤンさん、「つくる会」賛同者のリストをありがとうございました。アサヒビー ル会長が賛同者でないことを確認しました。 <新しい歴史教科書をつくる会、賛同者リスト> <「つくる会」賛同者リスト>   リストから「新しい歴史教科書をつくる会」に資金援助をする可能性のある財界人を 下記にピックアップしました。基準は、賛同者が現役の役員をしている会社としました。 身近なところでは文教堂、テイジン、東京三菱銀行あたりでしょうか。 2004年11月19日現在 相川賢太郎 三菱重工業会長 朝倉龍夫  日本合成ゴム(株)取締役会長 浅野勝昭  東京映像製作(株)代表取締役社長 池田彰孝  SMK(株)会長 岡本和也  東京三菱銀行専務取締役 後藤千秋 (株)大林組専務取締役 小林喬   富国生命保険相互会社社長 酒井正晴  昭和飛行機工業(株)社長 坂口美代子 坂口電熱(株)代表取締役 坂野常隆  清水建設(株)取締役相談役 嶋崎欽也 (株)文教堂代表取締役 杉山昭二 (株)トープラ取締役会長 鈴木仙吉郎 北日本ビル管理(株)専務取締役 角谷泰   加商(株)取締役社長 高城申一郎 住友不動産(株)取締役会長 辻薫   (株)トクヤマ会長 徳永洋一  ビーエスシー(株)代表取締役会長 名須川浩  日本海石油(株)取締役副社長 西田昌男  帝人(株)取締役副社長 野口義和  大新東(株)副社長 橋口収   広島銀行取締役相談役 長谷川忍  池袋ターミナルビル(株)社長 土方武   日本たばこ産業(株)会長 廣瀬元夫  廣瀬ビルディング(株)社長 梁瀬次耶 (株)ヤナセ代表取締役会長 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    竹島=独島と「松島渡海免許」 2005/ 9/17 Yahoo!掲示板「竹島」#11057   半月城です。   Re;11024 >江戸幕府は松島に対する渡航許可も1656年に出している   これは、田中邦貴さんのホームページ「竹島問題」を無批判に引用しているようです が、今や「竹島日本領派」の学者すら川上健三氏のいう「松島渡海免許」なるものは幕府 から交付されなかったと考えています。   すなわち、国会図書館の塚本孝氏すら「松島(今日の竹島)については“竹島”の場 合のような渡海許可の公文書は残っていない(恐らく出されなかった)(注1)」と記し ているくらいです。   これを資料面で検証したのが名古屋大学の池内氏です。池内氏は松島、竹島をめぐる 史実の解明に努め、村川市兵衛や大谷九右衛門の松島渡海の実態や、両者の利害関係を調 整した旗本、阿部四郎五郎の役割などを解明し、こう述べました。        --------------------   1640年代後半ないしは50年代はじめから、右史料傍線部に見られるような松島経営の 展望を温めていた村川からすれば、たとえ単独であっても松島渡海事業は行いたかったで あろう。そして遅くとも明暦3(1657)年にはそれを実行に移していた。   こうして村川単独による松島渡海の既成事実が進められていた以上、阿部四郎五郎の 存生中に老中から得たという内意(史料7b)は、松島渡海の新規許可ではありえない。   また、「市兵衛殿・貴様(九右衛門のこと、半月城注)へ」交付した「証文(史料 7c)もまた同様に松島渡海の新規許可ではありえない。それらは「市兵衛殿・貴様」両者 へ交付されたものであったから、村川単独により既成事実化された松島渡海を追認し、免 許を与えるものともなりえない。   先年渡しておいた「證文」どおりに「船御渡可被成」(史料7d)ともいうのだから、 「内意」にしろ証文にしろ、おそらくは村川が先行して進めていた単独での松島渡海を刷 新し、大谷・村川双方による渡海事業へと調整する内容をもつものではなかっただろうか。 大谷と村川の「談合」(史料5f)や「御相談」(史料7c)を重視したのはその点と関係す る(注2)。 池内論文<竹島渡海と鳥取藩>754 kB        --------------------   竹島(鬱陵島)渡海免許が出された1625年ころは、まだ松島(竹島=独島)の存在は 知られなかったのか話題になりませんでしたが、1657年ころ、はじめて村川家が松島へ渡 海するようになった後、同島への渡海をめぐって大谷家と利害調整をする必要が生じまし た。   それを取りもったのが旗本、阿部四郎五郎ですが、同時にかれは松島渡海に関して老 中の「御内意」を得たようでした。これをふくらませて川上健三氏は「松島渡海免許」な るものを創造したようですが、池内氏はこれに疑問を呈しました。        --------------------   三代目大谷九右衛門は松島拝領と渡海について述べるものの、「寛永初年竹島渡海免 許」のごとき文書の存在については言及しない。   また、寛文6(1666)年、大谷船が朝鮮に漂着して対馬藩による所持品検査がなされた 際、「竹島渡海免許」は見いだされたが「松島渡海免許」なるものは見当たらない。(川 上説の、半月城注)発行からわずか10年を隔てない時期に、大谷船はなぜゆえに免許を 携行しなかったのだろうか(注2)。        --------------------   もし「松島渡海免許」が存在するなら大谷船はそれを当然携行すべきなのに、それが なかったということは最初から存在しなかったと考えるのが妥当です。それを池内氏は文 献考察からも上のような論理を組み立て、こう結論づけました。        --------------------   以上を要するに、「松島渡海免許」なるものは存在しないのである。万治元年~寛文 の交に現れた事態は新たな渡海免許発行ではなく、渡海をめぐる大谷・村川両家の利害調 整に過ぎなかった。   寛文六年(1666)、竹島渡海の帰りに漂流した大谷船が「寛永初年竹島渡海免許」の写 のみを携行し、松島渡海免許を携行しなかったのは蓋し当然であった。        --------------------   松島渡海に際して免許が出されず、老中の「御内意」で済まされたのは、松島は「竹 嶋渡海筋」にあたり、同島に対する認識が「竹嶋近所之小嶋」とか「竹嶋之内松嶋」とい うもの、すなわち松島は竹島の属島と理解されたためだったと思われます。   また、実際に松島渡海も竹島への渡航がてらになされたようで、竹島あっての松島 だったようでした。こうした属島意識のゆえに、幕府が竹島(鬱陵島)放棄の際、外交書 簡で松島についてふれなかったのにもかかわらず、のちの明治政府が竹島(鬱陵島)と同 時に松島(竹島=独島)までも版図外としたのではないかと思われます。 (注1)塚本孝「竹島領有権問題の経緯」『調査と情報』第289号、   国会図書館,1996, P2 (注2)池内敏「竹島渡海と鳥取藩」1999,P38 『鳥取地域史研究』第1号,754 kB <史料8傍線部>  松島へ七八拾石之小舟遣、鉄砲ニ而ミち打申候ハ、小島之方ニ候間、竹島江  ミちにけさり、竹島之納所大分候ハンと市兵衛望申候 <史料7b>  来年より竹嶋之内松嶋へ貴様舟御渡之筈ニ御座候、先年四郎五郎 御老中へ  得御内意申候 <史料7c>  渡海之番年相定、市兵衛殿・貴様へ証文相渡し置候間、村川殿と御相談候而、  其証文次第ニ可被成候、市兵衛殿も貴様も其証文之通少しも御違背者有之間  敷儀と存候 <史料7d>  先年相渡し候證文ニ具可有御座候間、今以其通ニ舟御渡し可被成候 <史料5f>於然者互事六ヶ敷く無之様御談合可被成候 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/


    日本の「竹島ゴール」変更、裁判から調停へ 2005/ 9/25 Yahoo!掲示板「竹島」#11299   半月城です。   先月、公開された韓日会談議事録をめぐって興味ある報道がありました。前にも書き ましたが、竹島=独島問題の解決をめぐる金ー大平会談です。        --------------------   (1964年)11月13日の第2次 金鍾泌・大平会談録では、大平外相が再び国際裁判所問題 を取り上げると、金部長は第3国の調停に任せることを示唆する発言をした。   これに対し大平外相は、「考慮に値する案」としながら第3国として米国を指名し、 工夫してみると答えた(朝鮮日報2005.8.28)。        --------------------   日本は調停者としてアメリカを示唆したことからすると、調停案にかなり乗り気だっ たようです。その後、この調停案が日本でどのように扱われたのか、日本政府は文書公開 の原則に反してまで日韓会談資料を秘密扱いにしているので、残念ながら不明です。   推測ですが、結果はつぎの二とおりが考えられます。 (1)調停案が日韓条約の「紛争処理に関する交換公文」に反映された?   交換公文に「両国間の紛争は,まず,外交上の経路を通じて解決するものとし,これ により解決することができなかつた場合は,両国政府が合意する手続に従い,調停によつ て解決を図るものとする」とあるので、調停案が交換公文に発展した可能性があります。   この場合、特記すべきは、日本政府はそれまで主張していた「国際司法裁判所」によ る解決を撤回したか、ないしは主張しなくなったということになります。 (2)調停案はボツになった?   日本政府はあくまで国際司法裁判所による解決にこだわり、大平外相の調停案を撤回、 ないしは主張しなくなった可能性があります。   その背景ですが、調停による解決は必ずしも日本に有利ではないようです。そうした 議論が参議院予算委(1965.3.29)であり、社会党の羽生三七氏がこう指摘しました。        --------------------   いまや竹島問題も国際司法裁判所提訴という条件が、いままさにくずれようとしてお る。こんなことですから、日韓会談に対する反対というものも自然強くなってくる、当然 だろうと思う。   第一、国際司法裁判所の提訴に応じないのが、どうして第三国の調停で日本に望まし い形で解決がされる可能性がありますか。あるはずがないでしょう。日本に望ましい形で 解決されるなら、少なくとも日本の提訴に韓国が応訴すべきです。   その場合だって、わかりませんよ、決着は。しかし、それが長年の政府の方針である というなら、国際司法裁判所に対する提訴並びに応訴、この形でもある程度やむを得ない でしょう。   しかし、それすら認めないという場合に、どうして第三国の調停なんかで日本に望ま しい形で――どっちみち解決はしますよ、しかし、日本に望ましい形でどうして解決しま すか。そんなことはわかり切っている。   ですから、この問題はあくまで日本のいままでの主張を続けるべきだ。そう簡単に、 うまくいかなければ第三の方法を考えるなんていうような、そんな簡単なものじゃない。 <参議院 予算委議事録>        --------------------   日本政府もやはり調停案をふさわしくないと見たのか、条約の調印ぎりぎりまで国際 司法裁判所案にこだわりつづけたフシがあります。それを韓国国会の特別委員会(1965.8.9) で李東元・外務部長官がこう証言しました。        --------------------   去る二月、日本の椎名外相が韓国に来たとき、牛耳洞(ソウル郊外)の某所で私と独 島問題について話し合おうといいました。   椎名外相がその話をいい出すやいなや、私は同外相に向っていいました。人も住まず、 犬さえイヤだというその独島、われわれはわれわれの領土であるから、しかたなしに守る のであるが、あなた方は何のために、それについてしょっちゅう言いがかりをつけるのか と滔々と述べたことがあります。その後 椎名外相が韓国に滞在中、独島問題について再 び言及したことはありません。   この前、私が日本に行った時、独島問題に関して日本外相が再び言及したことがあり ました。ちょうどここに、その席に一緒にいた金東祚大使もいらっしゃいますし、延・ア ジア局長もいますが、外相会談ですべての問題が妥結された後に、椎名外相が私に独島に 対する韓国の領有権を否定するものではないが、独島問題を一種の韓日間の紛争の対象と して認めて、第三国家または国際裁判所にまかせて今後 審議をうけるというところまで は合意してくれ、といった。   私はその場ですぐ立上がって椎名外相にいった。私がこのたび愛国国民たちからタマ ゴまで投げられながら、日本にきたのは韓日間の明日の親善関係のため、調印する目的か らだ。   それにもかかわらず、あなたは独島問題によって韓日問題の妥結を阻むのか。日本に おいて独島問題は政治問題であるかも知れないが、韓国においては国民感情を爆発させる ダイナマイトだ。独島問題についてもう一度言及するなら、私は荷物をまとめて韓国に帰 る、このような話をしたことがあります。 <韓国国会「韓日協定特」議事録(韓国語)>        --------------------   当時の椎名悦三郎・外相は竹島=独島問題で必死に韓国に食いさがったようですが、 韓国はたとえ会談が決裂してでも、断じて竹島=独島問題を日韓交渉の議題にしようとは しなかったようで、その攻防がリアルに伝わってくるようです。李長官の「荷物をまとめ て韓国に帰る」という啖呵はさぞかし迫力があったことでしょう。   日本は、韓国の強烈な「ダイナマイト」発言などをきっかけに、国際司法裁判所案か ら次第に次の方策へ移行していったようでした。それとおそらく符合するのでしょう、椎 名外相は先の羽生氏の質問にこう答えました。  「国際司法裁判所によって決定されることは望ましい方法であるが、これ必ずしも唯一 の方法じゃない、他の方法があれば、その方法を選んで、そうして両国の国交正常化をは かるべきである、こういう大方針のもとに、この問題を処理したい、こう考えております」   こうした日韓交渉の結果、最終的に日韓条約には「竹島=独島」の語句はまったく登 場しませんでした。竹島=独島に関係がありそうなのは、唯一、先の「交換公文」だけで す。   椎名外務大臣は、交換公文は竹島=独島問題を含むものだとして参議院の特別委員会 (1965.11.26)でこう述べました。        --------------------   この大戦終局後におきましても、この(竹島=独島)問題を中心にして数十回抗議書 が交換されておるような状況でございますから、これが両国の最大の紛争であることは、 だれしも否定できない問題だ。   そうしてこの紛争の問題の処理に関して竹島問題を除くということが、どこにも御承 知のとおり書いてない。当然これは竹島が紛争問題であるということが明瞭であるのであ ります。でありますから、竹島と書いてある、あるいは独島と書いてある、そういったよ うなことは問題ではない。結局両国のきわめて重要な紛争である。   で、この問題の解決については、通常の外交ルートによって折衝して解決をはかる。 もしそれができない場合には、両国の合意による調停で解決をはかる、こういうことに なっておりまして、なぜ一体この重要な交換公文が合意されたかということを考えてみる と、これはもう竹島という問題を意識しながら、両国の当事者がこの交換公文を書きおろ したのであるということは、これはもう明瞭でなければならぬのであります。これをあく までその合意というものがなければ調停という方法は発見できない。 <参議院 予算委議事録>        --------------------   何とも歯切れが悪く、わかりにくい説明です。言わんとするところは、交換公文に 「竹島=独島問題を除く」と書いてないから、交換公文の「紛争」には竹島=独島問題が 含まれるという、まわりくどい解釈になるようです。   しかし、これは韓国の解釈と真っ向から対立します。韓国の李長官は、交換公文には 竹島=独島問題は含まれないし、それを椎名外相や佐藤栄作首相はすでに了承済みである として韓国国会(1965.8.8)でこう語りました。        --------------------   4番目に、紛争解決のための「ノート」交換があることだけは事実です。しかし、こ れは国際会議の慣例上で常識です。いくら親善国家間で結ばれた条約でも時がたつにつれ、 誤解が生じうるし、摩擦があるのは歴史的に証明されています。   そうした理由で将来、特に漁業問題とか請求権問題とかにおいて、万一誤解が生じる とか、紛争がおきる時、これをどのように解決するのかという解決策に対する「ノート交 換」がありました。   ここには独島問題が包含されていないということは椎名外相、また日本の佐藤首相が 了解したことがあります。 <韓国国会「韓日協定特」議事録(韓国語)>        --------------------   李長官は、この発言に自分自身および子孫の名誉をかけているようで、同じ席でこう 述べたことが議事録に記されました。        --------------------   また、尊敬する委員の方々に率直に申し上げますが、こんど日本に行ったわが代表は 私まで含めて、みな四十代です。これから約半世紀以上この地に生きなければなりません。   万一、独島問題で一時的に皆さんをだまして、売り飛ばしたとか、譲歩したとかすれ ば、これは時間がたてばバレます。これが明るみにだされた時には、我々は将来この地に 暮らせないばかりでなく、子々孫々まで売国奴、または逆賊など、ありとあらゆる悪口を いわれる問題です。   人は、野党議員であれ与党議員であれ、政府にいらっしゃる方でも同様です。我々も 我が身を惜しみ、名誉を惜しみ、将来を惜しみます。   何のために、このように重要な国家的な問題を、歴史が時間的に立証する問題を、一 時的、政治的な便法で批准、同意を得るなどと、みなさんの前に出てウソをつきましょう か。(「そうだ」という声あり)        --------------------   この発言は、その内容といい、説得力といい日本の議員にとって驚きだったようです。 二宮・参議院議員は委員会(1965.11.26)でこう語りました。        --------------------  (韓国の議事録を)読んだら そのまま ああそうか、交渉はこうであったのか、こうい うことを韓国は主張したのか、日本はこう言ったのか、というふうに、それが事実である かどうか、これはまた別としまして、説得力を持っている。   一方、日本国民であるわれわれが、そして、国会議員である私が、先ほどから政府の 答弁を聞いておりますと、説得力がない。疑問点に対して懇切な答弁がない。いわば韓国 の、韓国政府が言っていることは、あれは勝手に言っているのだ、私の主張が正しいのだ というふうに一方的にお話しになるように、この国会の審議に対しても、一方的な、ある いはひとつの型どおりの答弁しかなさらない。そこに大いに疑問があると思うのです。 <参議院 予算委議事録>        --------------------   たしかに二宮議員の指摘のとおりです。日韓で解釈が食いちがうという指摘に対し、 佐藤首相は次のように型どおりの回答をするのみで、李長官の発言に対し詳細な反論はし ませんでした。        --------------------   第二の竹島の問題にいたしましても、これはたびたび説明いたしておりますように、 私どもは竹島を放棄した覚えはございませんし、また韓国の主張を承認した覚えもござい ません。   でありますから、このこともたびたび国会での審議を通じて明らかにいたしたのであ りますが、韓国のほうで、あるいはこの竹島問題を韓国の主張どおりやらないならば、こ の日韓条約には調印しないのだ、こう言ってあるのだ、自分たちが調印をしたのだから、 もう日本政府も百も承知なんだ、こういうような強弁は、どうしてもこの問題では成り立 たないのであります。   私が申し上げておりますように、私どもは竹島の問題を、領土権を放棄した覚えもな いし、これについて言質を与えた覚えもない、また韓国側の主張を全面的に承認した覚え もない、こういうことをたびたび申し上げておりますが、明らかにこういうような事態が いわゆる紛争ではないのか。   紛争の処理の方法は外交ルートでやる。さらにそれできまらなければその次の処置を とる。こうまで実は約束をしたのでありまして、これらの片言隻句、あるいは口約束され たものが私どもを縛るというようなものではない、私はかように思います。        --------------------   佐藤首相は「これらの片言隻句、あるいは口約束されたものが私どもを縛るというよ うなものではない」と奥歯に物のはさまった言い方をしましたが、これは李長官の発言を 念頭においたことは疑いないようです。やはり何やら李長官との間でやりとりがあったと 思われます。   結局、交換公文をめぐる日韓の認識は少なくとも建前上はすれ違いのままになってし まいました。しかし、日韓条約を機に国際司法裁判所の話が両国政府から消えたことは一 歩前進でしょうか。   その後の交換公文の運用ですが、これにもとづいて調停手続きが相手国へ提案された ことは皆無でした。これは当然と思われます。日本では日韓条約当時でも調停による解決 は日本にとって不利との認識がある一方、その後は竹島=独島問題の研究も進み、日本政 府に不利な史実が次々に明らかになり、調停は日本にとってますます不利になったからで す。   他方、韓国政府は竹島=独島問題が争点になることを望まないのはいうまでもありま せん。竹島=独島問題は日本の「言いがかり」にすぎないと認識しているのですから。 (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/



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