半月城通信
No. 37

[ 半月城通信・総目次 ]


  1. 「従軍慰安婦」76、個人補償請求権(1)
  2. 「従軍慰安婦」77、個人補償請求権(2)
  3. 「従軍慰安婦」78、国民基金の償い金
  4. 「従軍慰安婦」79、クマラスワミ報告書
  5. 「従軍慰安婦」80、国連と「従軍慰安婦」



- FKYOIKUC MES( 9):◆ 教育問題の部屋 ◆ 学校教育をめぐって 97/08/27 - 13140/13140 PFG00017 半月城 個人補償請求権(1) ( 9) 97/08/27 20:47 13130へのコメント   伊藤さん、横レスで失礼します。ここの会議室には初めて書き込みます。 私の自己紹介は、GO PROFILEに書きましたが、それに一言つけ加えます。   私は、じょん君さんはご存じかもしれませんが、これまで会議室 FNETD (7),海外政策で「従軍慰安婦」問題について、「新しい歴史教科書をつくる 会」の会員やさまざまな方と、一年以上のんびり議論を続けてきました。この 長丁場の末、FNETDでは今のところ議論は一段落しているようです。   前置きが長くなりましたが、伊藤さんの書き込みを興味深く拝見しました。 その発言のなかで、戦時中に被害を受けた人たちの補償問題についてすこし気 になるところがありましたので、これにコメントしたいと思います。 >政府間で決着したことになっているのなら、論理的にはその後の解決は >本来その国、地域内で行われるべきです。ですから、韓国、中国その他に >おいても日本の植民地化政策の被害者たちは日本国に対する請求権は >論理的には有りません。感情的に訴えたくなる気持ちは分かりますが。   伊藤さんは、日本の植民地化政策による被害外国人は日本に対し請求権が ないと考えておられるようですが、当の日本政府はこのように考えていないよ うです。意外に思われるかもしれませんが、日本政府はたとえば1965年に 結ばれた日韓条約について、次のような見解を持っています。    「・・・いわゆる日韓請求権協定におきまして、両国間の請求権の問題 は最終かつ完全に解決したわけでございます。その意味するところでございま すが、日韓両国間に存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決 したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持ってお ります外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、 いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものでは ございません。日韓両国で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げ ることはできない、こういう意味でございます」 (1991.8.27 衆議院予算委員会会議録第3号10ページ)   この見解からすると、賠償・補償問題はたとえ国家間で解決済みであって も、加害国に対する個人請求権は消滅していないようです。といっても、国家 間では解決済みなので、一部の例外を除き、被害者の政府が個人のために外交 的に補償要求をするのは困難なようです。     http://www.han.org/a/half-moon/  (半月城通信)


- FKYOIKUC MES( 9):◆ 教育問題の部屋 ◆ 学校教育をめぐって 97/09/01 - 13235/13235 PFG00017 半月城 RE:re:個人補償請求権(2) ( 9) 97/09/01 21:26 13188へのコメント   Geeさん、こんばんは。 #13188, >その植民地支配に関する国際協定に、慰安婦の個人補償も入っていると解釈 >できないでしょうか。   こうした議論が、この会議室にふさわしいのかどうかわかりませんが、少 なからぬ人が関心をお持ちのようなので、本腰を入れて答えたいと思います。   1965年に結ばれた日韓協定のなかに、「従軍慰安婦」の個人補償が含 まれるかどうかについて、日本、韓国、国連の解釈では、いずれも含まれない とされているようです。   まず、日本政府の立場ですが、#13140「個人補償請求権」に書いた ように、「従軍慰安婦」問題に限らず個人請求権は協定により消滅していない と断言しています。   もともと日本政府は、日韓協定で賠償や補償を行ったとは説明していませ ん。協定後、日本は韓国に3億ドル相当の生産物・役務の無償分割供与を行い ましたが、これは当時の説明では、「韓国独立のお祝い金」(大平首相、当 時)とか「経済協力金」であり、賠償ではないと説明していました。   しかし協定では、こうした説明とは何らの脈絡もなしに、日韓双方の請求 権問題は完全に解決したとされました。政治決着を象徴するものといえます。   一方、韓国人の個人補償請求権は日韓協定にかかわらず、司法当局におい ても協定以後も存在していたことが、96年7月の「不二越訴訟」判決により 確認されました。   次に国連の考え方ですが、個人補償請求権の存在がクマラスワミ報告書に 次のように明確に記されています。 パラグラフ、108   「特別報告者の見解によれば、サンフランシスコ講和条約も二国間条約も、 人権侵害一般に関するものでないばかりか、特に軍事的性奴隷制に関するもの でもない。当事国の「意図」は、「慰安婦」による特定の請求を含んでいなか ったし、かつ同条約は日本による戦争行為の期間中の女性の人権侵害に関する ものでもなかった。   したがって、特別報告者の結論として、同条約は、元軍事的性奴隷だった 者によって提起された請求を含まないし、かつ日本政府には未だに国際人道法 の引き続く違反による法的責任がある」   クマラスワミ報告書は周知のように、国連人権委員会でテイクノートとい う形で採用されましたので、報告書はほぼ人権委員会の見解であるといえます。   三番目に韓国の見解ですが、次のように慎重な考えがクマラスワミ報告書 に紹介されています。 パラグラフ、79   「日本の法的責務に関する(韓国)政府の立場に関しては、司法省と検察 庁の高官は、特別報告者に対して、50年前に犯された罪について、日本政府 が補償すべき法的責任が実際にあるのかどうか、及び戦争終結に際して締結さ れた二国間及び国際的諸条約が「慰安婦」問題をも処理済みとしているかどう かを定めるのは大変困難であると述べた。   しかし、補償を得る手段として、個人が日本国内の民事裁判所に提訴した 民事訴訟に関しては、何の異議もないことが表明された」   すこし歯切れの悪い官僚の発言ですが、韓国政府は個人補償請求権につい て沈黙を守り、明言するのを避けています。これは日韓協定において、政府間 同士では請求権問題は解決済みとなっているので、韓国政府は行政として個人 補償の請求を政策的に支援するわけにいかないためです。   そのため、韓国政府の真意はわかりにくいところがありますが、韓国政府 は被害者が日本の裁判所で個人補償の請求訴訟を起こしているのを否定するど ころか、これを暖かく見守っているので、個人補償請求権を暗に肯定している ものとみられます。   まったく皮肉なものです。請求される側の政府が「個人請求権の存在を確 認」する一方、請求する側の政府が逆に沈黙を守るというねじれ現象は、それ ぞれ国内事情の複雑さを物語っているようです。 >その協定による日本からの資金も民間人の補償にも使われていたそうですし、 >金泳三大統領も、「補償を求めるべきでない」と言っていたのではないでし >ょうか。   ご指摘のように、請求権・経済協力資金の一部は現金化され、民間人の補 償にも使われました。また、金泳三大統領は「補償を求めるべきではない」と 発言したのも事実です。しかし、これは個人補償権を必ずしも否定するもので はないようです。そのいきさつは長くなりますが、重要ですので少し書きたい と思います。   過去、日韓交渉において、韓国政府は一貫して賠償を請求してきました。 そうした経緯から、65年の妥結後はその趣旨にそって、供与された生産物な どを現金化し、71年から一部被害者の補償にあてました。   そのとき、韓国政府に被害を申告した人の数は次の通りです。     財産被害  97,753人     人的被害  11,787人   ここで人的被害の申告者が少ないのが目につきます。これは韓国政府が補 償対象を、日本により召集された軍人・軍属や徴用者で、しかも終戦前に死亡 した場合に限定したためです。さらに在日韓国人は協定の対象外としました。   そもそも韓国政府は日韓交渉において、人的被害は死亡者のみならず、生 存者や負傷者に対する補償も要求していました。これら人的被害額は、高崎宗 司・津田塾大学教授の計算によれば3億6千万ドルに達するほどの額でした。   こうした請求はどのように検討されのか、現在、資料が日本の強い要求で 非公開のため不明ですが、最終段階で「金・大平メモ」という不透明な政治決 着がはかられ、経済協力といっしょくたになり、無償3億ドル、有償2億ドル の物や役務の供与という形で手打ちが行われました。   「金・大平メモ」が明るみに出るや、韓国で朴大統領は3億ドルで国を売 るのかと激しく非難され、連日「対日屈辱外交」反対の嵐に見舞われました。 当時の李外相はあえて「売国奴の汚名を着てでも国家のために条約を成立させ る」と悲壮な覚悟でした。韓国政府はのどから手が出るほど、3億ドルが欲し かったのでした。   こうして性急に日韓協定が結ばれましたが、合意に達した請求権・経済協 力の妥結額からすると、生存者の人的被害補償はとうてい無理なものでした。 もちろん「従軍慰安婦」への補償などはまったく考慮されていませんでした。   このような背景を念頭に、韓国政府が「従軍慰安婦」の補償をどのように 考えてきたかを振り返ってみたいと思います。   93年、韓国の金大統領は就任直後「未来志向の韓日関係」を提唱し、 「従軍慰安婦」問題について、『物質的補償を日本に求めない』との見解を明 らかにしました。この発言の意図ですが、それを朝日新聞は次のように見てい ます(93.3.14)。   「金大統領の今回の指示は、『日韓条約で戦後処理は解決ずみ。慰安婦へ の補償義務はない』とする日本政府の顔を立て、事実上の『貸し』をつくる形 となる。その一方で、貿易不均衡問題などの対日関係で韓国が有利な立場に立 つことを狙ったものとみられる」   このような政治的効果をねらってなされた金大統領の発言は、韓国では相 当な波紋を呼びました。そのため、大統領発言の4日後に韓国外務部アジア局 長がわざわざ次のように補足説明をしました(朝日新聞、93.3.18)。   「(大統領が)『物質的補償を日本側に求めない』との方針を述べたこと について、『被害者への個人的補償まで含むものではない』と表明。韓国政府 として、元慰安婦が提訴などの形で日本政府に対して個人補償を求めるのは否 定しないとの立場を明らかにした」 この報道からわかるように、大統領発言は「従軍慰安婦」などのように、 たとえ日韓協定後に新たに露呈した問題であっても、未来志向の韓日関係をよ り重視し、日本政府に新たな物質的補償を求めないということを公言したもの で、個人補償の存在を否定したものではなかったようでした。   この方針は最近の報道でも確認されました。柳宗夏外相は、朝日新聞(97. 4.16)との会見で次のように述べました。 記者 「旧日本軍の従軍慰安婦問題について、日本政府の個人補償を要求しな  いという韓国政府の立場は変わったのか」 外相 「金泳三大統領は93年3月、新しい韓日関係を打ち立てる観点から、  政府次元での物質的補償を日本側に要求しない方針を明らかにし、徹底的に  真相解明を要求したことがある。これに従い、韓国政府は元慰安婦への経済  的支援を実施している。    ただ、政府次元での物質的補償を要求しない方針と、被害者自身による  日本政府に対する国際的な要求とは別次元の話である」   #13188、 >また、韓国政府は、元慰安婦さんが補償請求するなら、それに応え、 >生活援助もしてらっしゃるそうではありませんか。   韓国政府は国家として物質的補償の要求を完全に放棄しましたので、その 見返りとして、とくに「従軍慰安婦」に対し、政府として何らかの援助をする 必要が生じました。実際、老齢化し困窮状態にある「従軍慰安婦」に対する社 会福祉的な援助は切実な問題でした。   その対策として、法律「日帝下日本軍慰安婦に対する生活安定法」を制定 し、元「慰安婦」に対し、一人当たり生活保護基本金約500万ウォンの一括 支給をはじめ、毎月15万ウォンの生活支援金、医療費の無料化、公営賃貸住 宅への入居斡旋などを決定しました(93.5.20 統一日報)。こうした措置は、 もちろん彼女たちが受けた苛酷な人権侵害への「補償」でないことはいうまで もありません。     http://www.han.org/a/half-moon/  (半月城通信)


- FKYOIKUC MES( 9):◆ 教育問題の部屋 ◆ 学校教育をめぐって 97/09/07 - 13358/13358 PFG00017 半月城 国民基金の償い金 ( 9) 97/09/07 22:20 13320へのコメント Geeさん、こんばんは。   #13320、 >女性基金支給 についてですが。その韓国世論の反発があり、 >はたして、有効だったのか、よけいなお節介だったのか、と考えてしまいます。 >受け取った元慰安婦さんは、気のどくでした。 >テレビにでてましたが、これはどうしたことだと思いましたね。   私もテレビ番組「筑紫哲也ニュース23」を見ましたが、韓国で国民基金 をもらった人は相当に非難されているようですね。また、基金をもらった人と もらわない人との間には深刻な溝ができてしまったようです。フィリッピンで も受け取りを拒否する元「従軍慰安婦」から、国民基金は「分断行為」という 非難が出されました。   ところで「女性のためのアジア平和国民基金」の略称ですが、女性基金、 アジア女性基金などいろいろありますが、私は国民基金の略称を目にすること が多いのでこの名称を使いたいと思います。 >渡された基金は、橋本総理の手紙が添えてあるそうですが、あくまで民間の基 >金ですね。   正確に言うと、「従軍慰安婦」に渡されたお金は、今では一部が民間基金 で、韓国の場合、半分以上が日本政府の公的なお金です。すなわち、   1.民間基金による「償い金」(二百万円)   2.日本政府の医療福祉支援事業費(一人あたり三百万円規模) の二本立てになります。   そのうえ国民基金の運営費自体も政府が支出しており、名目はともかく、 実質的には官民共同の償い金に近いものです。そうした姿を、日本政府も国連 などで事あるごとに説明して、各国に理解を求めています。   このように、実質的に官民あげての償い金で、しかも総理のおわびの手紙 まで添えられているので、国民基金は本来申し分ないはずです。しかし、ご存 じのように、ただ一点「日本国の償い金」という説明がなされないために、多 くの人の反発を招いています。この説明さえされれば、多くの「従軍慰安婦」 は国民基金を受け取るだろうと思います。   在日韓国人の「従軍慰安婦」宋神道さんもその一人ではないかと、私は想 像しています。体のあちこちに刃物による傷あとのある宋さんは、「謝っても らいたい。金めあてじゃないってことをわかってもらいたい」といって、裁判 を提訴しました。そのとき、お金は一円も請求しませんでした。ただし、今は 訴訟を維持するために、弁護士の説得により1億2千万円を請求しています。   宋さんは、「なんで(日本)政府は個人補償しないのか。なんでよその国 の女たちを『従軍慰安婦』にさせといてからに、謝罪も補償もしないのか。国 がきちんとしなければ・・・。民間基金じゃダメだ。意味のないカネほしさに、 こんなに騒いでいるわけじゃないんだよ。オレを慰安婦に連れていったときみ たいに、若いときにもどしてくれ。それができないなら、きちんと謝って、責 任とってもらいたい」と訴えていました。   テレビ番組で紹介されていたように、年老いて余命の短い「従軍慰安婦」 のなかには、死ぬ前にお金をもらって花を咲かせたい人もいることでしょう。 しかし、韓国では宋さんのように「精神的な償い」をも求める「従軍慰安婦」 が多いので、韓国世論は国民基金反対に固まったのではないかと思います。   それにひきずられ、韓国政府も日本の国民基金に反対し、国家賠償を求め たクマラスワミ勧告を重視する意向を明らかにしました。その意志表示として、 国民基金を積極的に支援している市民活動家、「日本の戦後責任をハッキリさ せる会」の臼杵敬子代表を入国禁止処分にしました。   元「従軍慰安婦」が真に求めているもの、それがもし藤岡信勝教授のいう ように「宝くじのような大金」なら、今ごろ国民基金がパンクするくらい「従 軍慰安婦」が押しかけ、この問題はまるくおさまっていることでしょう。   ところが、現実に国民基金をもらった人はフィリッピンで約15人、韓国 で7人にしか過ぎません。8万人とも20万人ともいわれた「従軍慰安婦」全 体からするとまさに九牛の一毛に過ぎません。この問題においてお金は万能で はないようです。   多くの「従軍慰安婦」が真に求めているもの、それは自分たちの青春が、 日本軍の軍靴で無惨に蹂躙されたことに対する精神的償いがキーポイントでは ないでしょうか。しかるに現実は精神的に報われるどころか、フィリッピンの バルサリサさんなどは、元閣僚・奧野氏の「慰安婦と称する女性たちは商行為 に従事していた。強制的に徴用したなどという事実はない」とする発言に深く 傷ついているようです。   戦後も後遺症やトラウマ、貧困、社会的蔑視などに苦しみ、いばらの道を 歩んでこられた元「慰安婦」には、何とか心安らかな余生を送られるよう、心 の底から願わずにはいられません。 >元慰安婦さんたちも、高齢になってきています。民間レベルであっても、 >日韓双方が協力して基金をつのれればと思います。   日本ではあまり大きなニュースになりませんでしたが、韓国で市民団体の 連合組織「日本軍慰安婦問題の解決のための市民連帯」が、元「従軍慰安婦」 への生活支援のため、募金活動を行いました。募金額は目標の30億ウォンに はだいぶ及ばなかったものの、5億5千万ウォン(約7,200万円)集まり ました。うち日本からは9,700万ウォン集まりました。   このお金は日本の国民基金に対抗して集められたためか、市民連帯のユン 代表は前述のテレビ番組で「このお金は国民基金を受け取った人には支給しな い」と語っていました。ここにも溝があるようです。   ちなみに、ユン代表は「韓国挺身隊問題対策協議会」の代表もされており、 日本で講演を聞かれた方も多いのではないかと思います。     http://www.han.org/a/half-moon/  (半月城通信)


- FKYOIKUC MES( 9):◆ 教育問題の部屋 ◆ 学校教育をめぐって 97/09/13 - 13406/13406 PFG00017 半月城 クマラスワミ報告書 ( 9) 97/09/13 16:25 13380へのコメント   Geeさん曰く、 >「ここは教育問題をあつかう会議室だ」とのお声がしますが、 >もう少しお付合い、ご教示、お願いします。   私の方は、お付き合いはいっこう構いません。教科書の「従軍慰安婦」記 述削除要求に端を発した教科書問題が、今や、地方議会を巻き込んでかまびす しいこのごろですが、教育問題をあつかう当会議室で、「従軍慰安婦」問題の 議論が好まれない(?)のは意外な気がします。それとも、これは一部の人の 考えでしょうか?   一方で、教科書検定問題が日本国内のみならず、アメリカや韓国など国際 的な注目を集めています。教科書をめぐる社会問題には目が離せません。なお、 国際的な反響に関心のある方は、FNETD,(7),#4203,「世界の論調(14)、家 永教科書訴訟」をぜひご覧下さい。   さて、Geeさんの書き込みにいろいろコメントしたいところですが、あま り長文になるといけないので、焦点をクマラスワミ報告書にしぼって書きたい と思います。 >クマラスワミ女史(スリランカの法律家)の報告書ですが、 >訂正削除しなければならない箇所がいくつかあるようですね。 >・・・ >吉見義明・中央大教授でさえも、報告書に引用されている、 >吉田清治氏の「自ら、慰安婦狩りを行った」とする“加害証言”の削除を求める >手紙を同女史に送っているそうです。   たしかに、クマラスワミ報告書は完璧ではないですね。また、話題の吉田 証言ですが、クマラスワミ氏はこれに多少の批判があることを知りながら、報 告書であえて取り上げたのは得策ではなかったようです。   もし、クマラスワミ女史が暴力的な強制連行や「従軍慰安婦」が性奴隷で あった実態を強調したかったのなら、吉田証言にたよらず、フィリッピンやイ ンドネシアの「従軍慰安婦」のケースをもっとを積極的に取り上げるべきであ ったと悔やまれます。それらの国では、そうした実例は枚挙にいとまがありま せん。   こうした実証方法にすこし難点があっても、クマラスワミ報告書は全体と して、性奴隷のアウトラインを見事に浮き彫りにしたことは確かなようです。 そのクマラスワミ報告に対し、国連の人権委員会で多くの参加者が立ち上がり、 万雷の拍手を送って歓迎したとのことでした。 >そもそも、クマラスワミ勧告は、慰安婦問題が中心でなく、夫による >家庭内暴力とかの、日常的な、慣行的な女性の人権問題を扱ったものでは >ないでしょうか。   日本では家庭内暴力と「従軍慰安婦」が大きくクローズアップされました が、クマラスワミ氏は国連で女性に対するあらゆる暴力を問題にしていました。 これを大きく三つに分類し、扱う年次を次のように定めました。  1996年、家庭における暴力  1997年、地域、社会における暴力  1998年、国家による暴力   ところが、「従軍慰安婦」問題を98年を待たずに96年の付属報告書で 取り上げたのは、クマラスワミ氏の「従軍慰安婦」に対する問題意識を如実に 示したものといえます。すなわち、同女史は「従軍慰安婦」問題を、ボスニア におけるレイプなど現代につながる重要な問題として認識しています。   今年、再任されたクマラスワミ特別報告者は、来年春にはボスニアや日本 など「国家による女性への暴力」について報告する予定です。そのとき「従軍 慰安婦」問題が再びどのように報告されるのか、今から関心を集めています。     http://www.han.org/a/half-moon/  (半月城通信)


- FKYOIKUC MES( 9):◆ 教育問題の部屋 ◆ 学校教育をめぐって 97/09/17 - 13432/13432 PFG00017 半月城 国連と「従軍慰安婦」 ( 9) 97/09/17 23:36 13418へのコメント   Geeさん、こんばんは。#13418, >女性に対する暴力であっても、あくまで、「従軍慰安婦」問題は、 >「家庭における暴力」のとっては、随伴的でない、むしろ欄外的な課題です。 >僕は、やはり、クマラスワミ女史が、どうして、あえて報告書に付加しなけ >ればならなかったのかと、疑問に感じますね。   クマラスワミ女史が、「従軍慰安婦」を取り上げたのは、国連人権委員会 の流れからするとごく自然ではないでしょうか。国連では「従軍慰安婦」問題 が浮上して以来、一貫してこの問題の解決を求め議論を続けてきました。   そこへ同じように大規模な組織的強姦であるボスニア問題が加わり、それ らが統合され、女性全般に対する暴力が問題視されたのではないかと思います。 そのあたりの経過をくわしく紹介したいと思います。   国連の人権委員会は早くから「従軍慰安婦」問題について関心を寄せてい ました。日本政府が「従軍慰安婦」問題の責任を認め、初めて公式に謝罪した 92年8月に、人権小委員会(差別防止及び少数者保護小委員会)は「特別報 告官」が日本政府に資料提出を求めるなど本格的な調査を開始しました。 この特別報告官とは、元国連人権センター所長を歴任したオランダ人の法 律家ファン・ボーベン氏で、人権小委員会から「人権と基本的自由の重大な侵 害を受けた被害者の現状回復、賠償および更正を求める権利」についての研究 を委託されていました。   ボーベン氏は民間団体の招待で、92年12月に日本にも立ち寄りました。 このとき、ボーベン氏は旧日本軍の慰安婦問題について「日本は補償問題を検 討し、過去の事実を収集、記録、保管する『国際センター』が必要だ」「これ は日本人自らが設置し、アジアの信頼を回復しなければならない」と強調しま した。 ボーベン氏は国連に対し、90年に予備報告、91年と92年に中間報告、 93年に最終報告をしました。その中で、特に従軍慰安婦などのように国際的 に違法だと認識されている人権侵害は、個人に国家賠償を請求する権利があり、 加害国はこうした行為を行った責任者を処罰し、被害者を救済する義務がある と結論づけました。 人権小委員会ではこの報告をさらに発展させ、旧日本軍による従軍慰安婦、 強制労働問題などの人権侵害を調査する「特別報告官」の設置を決めました。 この特別報告官にはアメリカ人女性、リンダ・チャベス委員が選出されました (93.8.25)。   しかし、Geeさんのことばを借りれば、「巨大な金食い虫の機関」である 国連のこと、万年予算不足のせいか、上部の人権委員会で財政難を理由にチャ ベスさんの任命はすぐには認められず、遅れて94年8月に正式任命されまし た。   この決定にしたがい、チャベスさんは「武力紛争時における組織的強姦、 性奴隷制および奴隷類似慣行の状況に関する特別報告者」として活動を開始し ました。その際、日本政府がマスコミに対して、これは旧ユーゴに関する特別 報告者であって、日本とは関係がないと説明したため、国内ではそのように誤 って報道されました。   しかし、これは日本政府の単なる希望的観測で、「従軍慰安婦」問題はチ ャベスさんの重要な調査対象のひとつでした。当時の日本政府は「従軍慰安 婦」が国際問題になるのを極力避ける方針に徹するあまり、見通しを誤ったも のといえます。   当時の日本政府は「国連は、創立以前に起きた国同士の問題を議論する機 関ではない」として、暗に戦時中の慰安婦や強制連行を扱わないよう主張して きました。もちろん、この意見は国際社会ではまったく通用しませんでした。 のちに紹介するように国際的な流れに逆行していたからです。 それどころか日本政府にとって、国連の人権委での議論の展開はビックリ することばかりでした。国際的な民間平和推進・人権擁護組織であるIFOR (国際友和会)が、なんと慰安婦制度を立案・実行した責任者の処罰を提案し ました。その骨子は次のように日本政府にとって厳しいものでした。  (1)従軍慰安婦問題は、時効による免責規定がない国際条約「強制労働に    関する条約」(日本の批准は1932年)などに明確に違反する。  (2)日本は批准後、条約の精神を具体化する法整備を怠っている。  (3)過去にさかのぼって責任者の処罰をおこなうための立法化を進める義    務がある。   この主張はちょっと突飛にみえます。近代法では「法の不可遡及」、すな わち法律成立以前の行為については責任を問われないというのが原則です。   こうした原則にもかかわらず、こと戦争犯罪に関するかぎり、責任者処罰 は先進諸国では国際的な流れになりました。1970年、国連で「戦争犯罪お よび人道への罪に対する時効不適用に関する条約」が発効したのを受け、戦犯 を裁けるように、ドイツでは79年、カナダでは87年、オーストラリアでは 88年、イギリスでは91年に国内法の整備をし、時効を停止するなどして戦 犯を裁いてきました。   このように、国際法に対する考え方が時代と共に変わりつつあります。こ れについて阿部浩己・神奈川大助教授(国際法)は、 「慣習国際法では、国際法違反の場合、国家責任として金銭的補償や謝罪をす べき基本原則が確立しているのに、日本はその原則を守っていない。戦争責任 者の処罰も、旧ユーゴスラビア内戦でみられるように、国際的な大きな流れ だ」(94.2.5 毎日新聞、大阪)と、その流れを語りました。   さて、IFORの提案ですが、これに応じ、アジア各国のNGO、日本・ フィリッピン・韓国・北朝鮮なども処罰問題を提起しました。もちろん、韓国 ・北朝鮮政府も同調しました。その結果、IFOR提案は多くの賛同を得て正 式な「国連文書」として配布されました (94.2.17 毎日)。   これと相前後して、人権委員会には旧ユーゴスラビアの民族浄化など組織 的強姦に関する情報がもたらされ、日本軍の性奴隷問題とともに国際的に強い 関心を呼びました。その波に乗り、下記の各国NGOは、女性に対する暴力特 別報告者制度を人権委員会に設置することを求める活発な活動を展開しました。  国際友和会(IFOR)  韓国挺身隊問題対策協議会・世界キリスト教協議会  朝鮮・元日本軍「慰安婦」太平洋戦争犠牲者補償対策委員会・国際民主法律家協会  朝鮮人強制連行真相調査団・リベレーション  国際法律家委員会(ICJ)   これらNGOの活動が実を結び、スリランカの女性法律家・クマラスワミ 氏が94年4月、国連人権委員会により「女性に対する暴力特別報告者」に任 命されました。   この直後から同女史のもとに「国連人権センター」を通じて、日本軍性奴 隷問題を含む女性に対する暴力の情報が多数提供されました。クマラスワミ氏 はこれらの資料や人権委員会の過去の蓄積資料などを8ヶ月かけ分析し、95 年1月、予備報告書を提出しました。   この予備報告書の下記パラグラフに、「従軍慰安婦」問題に対するクマラ スワミ氏の並々ならぬ決意をみることができます。 予備報告書、パラグラフ291(95年1月)   第二次大戦後約50年が経過した。しかし、この問題は、過去の問題では なく、今日の問題とみなされるべきである。それは武力紛争時の組織的強姦お よび性的奴隷制を犯した者の訴追のために、国際的レベルで法的先例を確立す るであろう決定的な問題である。象徴的行為としての補償は、武力紛争時に犯 された暴力の被害女性のために「補償」による救済への道を開くであろう。   この予備報告書は95年3月8日、人権委員会により採択されました。こ の主張に、8万人とも20万人ともいわれる「従軍慰安婦」すなわち性奴隷が、 戦後も何の補償も得られないばかりか、半世紀も沈黙を強いられてきた不条理 に対する、クマラスワミ氏の強い怒りがこめられているのではないかと思いま す。     http://www.han.org/a/half-moon/  (半月城通信)


ご意見やご質問はNIFTY-Serve,PC-VANの各フォーラムへどうぞ。
半月城の連絡先は
half-moon@muj.biglobe.ne.jp です。