- FNETD MES( 7):情報集積 / 海外政策 97/07/06 -
03673/03673 PFG00017 半月城 国連と現代の奴隷
( 7) 97/07/06 09:24 03611へのコメント
足代さん、こんばんは。#3611にコメントしたいと思います。
> しかしながら、慰安婦の人たちが置かれた状態がおぞましいとされる本
>質は、元慰安婦の人たちが、抵抗すれば生命に危険が及ぶような状態でも
>って、自分の望まない性行為を長期間強制されたというところにあります。
>・・・
> 奴隷状態に置かれて強制してセックスをさせられたのは、私は間違いな
>い事だと思います。
奴隷状態とはどのようなことをいうのでしょうか?
漫画家の小林よしのり氏は、ビルマの「慰安婦」について「彼女たちは、
将兵と一緒にスポーツ行事に参加して楽しく過ごし、また、ピクニック、演芸
会、夕食会に出席した。彼女たちは蓄音機をもっていたし、都会では買い物に
出かけることが許された、これのどこが性奴隷なのか」とテレビ番組で発言し
ていました。
またある人は、慰安所の生活に関連して、性病検査や衛生管理がなされて
いたこと、散歩という形の外出が許されていたこと、中には日本軍人と「恋愛
関係」が生じたことなどを取りあげて、「慰安婦」には一定の自由が認められ
ていたから性奴隷とはいえないとしています。
このような考えの人からすると、国連のクマラスワミ報告書が「慰安婦」
を「性奴隷」と断定しているのは認めがたいのではないかと思います。その背
景には奴隷というと、うさぎ狩りのように突然連行され、売買され、監禁され
捕らわれの身のまま、拷問・虐待を受けるなど極限状況で酷使されるというイ
メージが前提にあるのではないかと思います。
これに対し、「そうした奴隷もいたであろうが、これは奴隷のすべてでは
ない。むしろ近代奴隷制は、奴隷に一定の自由を認めていたのである」と、東
京造形大学の前田朗助教授は述べていますので、その考えを紹介します。
(「『慰安婦』が奴隷であることの意味」、『統一評論』97年3月号)
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池本幸三らの『近代世界と奴隷制ー太平洋システムの中で』(人文書院)
によると、大西洋奴隷貿易によって形成されたアメリカの黒人奴隷の場合、男
性は戦争捕虜として奴隷にされ、女性は主として誘拐によって奴隷にされた。
奴隷船に文字通りスシ詰めにされ「人類史上もっとも凄惨をきわめた航
海」でアメリカに送られ、プランテーションの重労働に投入された。人身売買、
拷問、虐待、焼印、粗末な衣食住。数知れぬ悲惨な物語が19世紀まで続いた。
それは新大陸アメリカが近代プランテーション革命によって資本主義を形成、
発展させた歴史そのものである。
ところで黒人奴隷たちは、まったく自由を認められていなかったのだろう
か。そうではない。彼らは、「掘っ建て小屋」とはいえ独立の建物に居住し、
家族を持つ者も多数いた。黒人奴隷には教育や学校は与えられなかったが、一
部の州では黒人学校が設立された。黒人教化運動も推進され黒人教会が登場し
た。温情主義に立つ奴隷主もいて、奴隷改善や家族の維持が図られた。自由身
分の買い取りもあった(つまり、そのための蓄財=私有財産も認められてい
た)。
奴隷にも「自由」はあった。それでは「自由」であれば、「自由」が多け
れば、彼らは奴隷ではないのだろうか。そうではない。奴隷は商品として売買
され、人格を全否定されていたが、同時に奴隷は貴重な労働力であり、その労
働力を十分に引き出すためには、奴隷にも「自由」が付与されていたのである。
奴隷の家族維持は、奴隷の再生産である。
「自由」な黒人奴隷は、まぎれもなく真の奴隷であり、人格を否定され、
目的としてではなく手段として扱われた。日本軍慰安婦も、性奴隷として人格
を否定され、日本軍人の性の手段、道具として扱われた。時として散歩や外出
が許されたり、日本軍人と「恋愛関係」になった例があるとしても、彼女たち
が奴隷であったことに変わりない。
黒人奴隷と日本軍慰安婦を直接の比較対象とするには、もっと慎重な手続
きが必要ではある。時間と空間の隔たりがあまりにも大きいし、世界史におけ
る位置の違いも決定的だ。しかし、奴隷制という本質は同一である。
しかも性奴隷とされた日本軍慰安婦には自由身分の買い取りなど考えられ
なかった。アメリカの黒人奴隷以下の奴隷である。
国際社会は19世紀後半から奴隷制廃止に向けて大きく前進した。20世
紀前半には奴隷条約・醜業条約・強制労働条約などの条約が採択された。歴史
の流れに抗して、まったく新しい性奴隷を発明したのが日本軍である。それは
現代奴隷制に連結する。この視点から歴史の中の人権がくっきり見えてくる。
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前田助教授の主張のように、奴隷という言葉は今日、何も古典的な黒人奴
隷だけを意味するのではなさそうです。国連では、婦女子の人身売買や戦時に
おける組織的強姦、さらには強制売春や強制労働など奴隷制度の本質につなが
る問題がとくに重視され、人権委員会などで最大のテーマになっています。
こうした理由から、クマラスワミ女史が「戦時の軍事的性奴隷制問題に関
する報告書」として、特に日本軍による「性奴隷」に力点をおいていたのは自
然な成り行きでした。
このように現代的な奴隷制を重視する人権委員会は、下部組織の人権小委
員会に専門部会として「現代奴隷制作業部会」(委員5名)を設置し、近年、
日本軍の「性奴隷」問題を討議してきました。人権小委員会は、正式には「差
別防止および少数者保護小委員会」と称し、26名の委員で構成されています。
国際的な動向を知るために、ここでの議論に特に注目する必要があります。
さて奴隷制作業部会は96年6月、「慰安婦」問題について討議し、次の
ような要旨の勧告をしました。
1.クマラスワミ特別報告者の活動を歓迎し、かつ報告書に留意し、
2.日本軍性奴隷問題に関して日本政府から提供された情報(国民基金のこ
と)に留意し、
3.行政審査会による効果的な解決を考慮し、
4.紛争解決機関での任意の解決の可能性に注意を喚起し、
5.日本政府に国連および専門機関(ILO)に協力するよう要請し、
6.情報をジョワネ不処罰問題特別報告者に送ることを決定し、
7.クマラスワミ特別報告者を次の会期に招待する
この勧告はワルザジ部会長により人権小委員会に報告され、チャベス予備
報告書とともに討議されました。チャベス予備報告書とは「武力紛争時におけ
る組織的強姦、性奴隷制および奴隷類似慣行の状況に関する特別報告者、リン
ダ・チャベス氏の予備報告書」を指します。この報告書は「慰安婦」について
クマラスワミ報告書を引用し、こう述べています。
「日本兵士に性的サービスを提供する公的政策を実行するために、物理的
暴力、誘拐および詐欺を含むさまざまな方法が用いられたという。犠牲者は毎
日何回も強姦され、重大な身体への虐待を受け、性病に感染させられた」
同時に予備報告書は、強制労働に関するILO条約(第29号)にもふれ、
強制労働とは、ある者が処罰の脅威のもとで強要され、かつ自己の任意に申し
出たのではないあらゆる労働またはサービスである(2条)と指摘しました。
この強制労働について日本の波多野里望委員(学習院大教授)は、ILO
29号、強制労働条約2条の定義を引用し、戦時には強制労働は適用できない
のではないかと小委員会で質問しました。
これについて専門機関のILO自身が次のように反論しました(前田朗
「国連人権小委員会での論議」『統一評論』96年10月号)。
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ILO条約については、ILO自身が痛快な再反論をした。96年のIL
O専門家委員会が明示したように「慰安所」では重大な人権侵害たる性的濫用
が行われ、それは強制労働条約の禁止に違反するものであり、日本政府は当時
すでに条約を批准していたから、それは条約違反の性奴隷に当たる。
波多野委員は「戦時には適用できない」とするが、条約2条は「緊急時」
には適用がないとしているのであり、1979年のILO総会決議に示される
ように、「戦時」がつねに「緊急時」とは言えない。ILOが人権委員会の場
で自己の管轄する条約について明言したのは初めてだ。
翌15日、波多野委員は「自分は純粋に理論的・学問的関心から質問した
だけであり、日本の問題を意図していたわけではない」と言わずもがなの弁明
をして、その後一切沈黙した。
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同じく日本出身の横田洋三代理委員は、「慰安婦」が「奴隷」であり、日
本軍の行為が「犯罪」であったと認めたうえで、国民基金を擁護して長時間演
説をしました(戸塚悦郎「『国連・専門機関への協力を求める』対日勧告」、
『法学セミナー、96年11月号)。
そもそも横田代理委員は国民基金運営審議会委員長をつとめておられるの
で、擁護発言は当然のことでした。そのなかで、国民基金は募金活動に努力し
ており、国民の気持ちを表すためにがんばっているのだから、この努力を理解
してほしいと訴え、それなりの功を奏したようでした。
しかし昨年の人権小委員会において、国民基金は一昨年ほどには評価され
ませんでした。一昨年は「解決に向けての有益な段階とみつつ」と高く評価さ
れましたが、昨年は作業部会の勧告にそって「日本政府によって提供された有
益な情報を歓迎し」と、かなり後退した決議に終わりました(注)。
今年はどのような決議になるのか注目されます。とくに国民基金が多くの
元「慰安婦」や韓国、台湾などから拒否されているだけに、小委員会では激論
が予想されます。これまでのやり方から、奴隷制作業部会の勧告どおりになる
ことも考えられます。その部会についてですが、えーす寝台さんから下記のよ
うなコメントがありました(#3628)。
> 6月12日の朝日新聞には、
><国連人権委部会 慰安婦問題 女性基金を「建設的前進」> となってます。
> こういうアプローチの仕方は読み手が誤解を受けますので、少し考えていただ
>けますか?お願いします。
私が前回紹介した記事は人権委員会の論議でしたが、下部組織の作業部会
でこれと多少違った議論がされても不思議はありません。特に部会は5名で構
成されるので、決議はひとりふたりの意見に大きく左右されます。重要なのは
この部会報告を小委員会や人権委員会がどう取りあげるかです。ちなみに今年
の作業部会報告書の該当部分を紹介します。
パラグラフ12.戦時とくに第二次大戦時の性奴隷
現代奴隷制作業部会は、第二次大戦時の女性に対する性的搾取の問題に関
して起きた発展を検討して、作業部会の主催の下でもたれた率直な対話を歓迎
しつつ、
1.この問題の解決に向けて当面取られた肯定的な前進を認めつつ、第二次世
界大戦中の女性性奴隷問題に関連してとられた行動に関し、日本政府および
その他の関係当事者によって提供された情報に留意し、
2.建設的対話へのさらなる努力を奨励し、
3.日本政府が、この問題に関して、国連および専門機関に協力し続けるよう
求め、
4.この問題を次会期に考慮することを決定する。
この報告書で国民基金は一応評価されていますが、「当面取られた肯定的
な前進」とあり、根本的な解決策としては理解されていないようです。その理
由を毎日新聞は次のように書いています。
毎日新聞ニュース速報、97.6.12
<慰安婦>国連人権委が勧告 「まだ解決していない」
【ジュネーブ11日福原直樹】従軍慰安婦問題などを話し合う国連人権委員会の現代
奴隷制作業部会が11日終了し、「アジア女性基金」など日本政府の努力を評価する一
方で「問題はまだ解決していない」との立場から、次回もこの問題を検討していく、と
の勧告書を提出した。
勧告では同基金など日本側の対応について「積極的な前進だ」と評価。しかし、中国
、韓国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が、基金は日本の直接の政府補償ではなく
、多くの被害者団体が反発している--として、この部分の削除を求めた。結局、同日
の作業部会では、日本政府の姿勢を評価しつつも、来年以降も続けて慰安婦問題を審議
していくことで落ち着いた。
勧告ではこのほか少年、少女の売春、戦地での女性、子供の虐待などに重大な懸念を
表明している。勧告書は今夏開かれる国連の「差別防止、少数者保護小委員会」に提出
され、さらに審議される。
(注)毎日新聞ニュース速報、96.8.24
<従軍慰安婦>国連人権小委 対日決議を採択
【ジュネーブ23日福原直樹】従軍慰安婦問題などを討議していた国連人権委員会
の「差別防止及び少数者保護小委員会」は23日、この問題で国連に協力するよう日
本政府に求め、被害者救済の行政審査機関の設置を要求する内容の決議案を採択した
。同決議は「女性のためのアジア国民基金」を評価しつつも、昨年に続き日本政府に
一歩踏み込んだ対応を求める内容で、人権委員会に送付される。
決議では今年1月、元従軍慰安婦への国家賠償を求める報告書をまとめたクマラス
ワミ特別報告官の活動を評価。さらに日本政府が「行政審査機関」を早急に設置する
ことは「奴隷と同様に扱われた人々(被害者)の訴えを効果的に解決する」とした。
また日本政府に「この問題で国連や他の特別機関に協力していく」ことを求めている
。
決議について日本政府筋は「日本政府のこれまでの対応を評価したものだ」とし
「日本の憲法上、(行政審査機関など)行政裁判所的な機関は作るわけにはいかない」
と 話してる。一方、朝鮮人強制連行真相調査団は「基金を見切り発車した日本政府
は、決議を深刻に受け止め、自らの法的責任を明確にすべきだ」としている。
http://www.han.org/a/half-moon/ (半月城通信)
- FNETD MES( 7):情報集積 / 海外政策 97/07/13 -
03738/03738 PFG00017 半月城 国連と強制労働、国際法違反!
( 7) 97/07/13 22:24 03702へのコメント
最初に、伊与部さんの#3702に対してコメントしたいと思います。
> はっきり言って、私は国連の場で「慰安婦問題」が論議されてる事自体に違和
>感を感じます。本来、あそこは世界に根強く残っている人権侵害を根絶させるた
>めの場で、過去を裁くための場ではない筈です。
国連の人権委員会は、過去を裁くのが目的で「慰安婦」問題を議論してい
るのではないと思います。この問題は日本にとっては50年以上も昔の遠い過
去のできごとですが、旧日本帝国の軍靴により花盛りの青春を踏みにじられた
女性たちが、現在でも心や体に傷を負ったまま日本に恨みを残している事実を
無視するわけにはいきません。
しかも、その被害者女性たちはかなり高齢なので、残りいくばくもない余
生を少しでも幸せに送っていただくためには、救済を急がなければならない緊
急課題です。
一方、ひるがえって国際的な視野に立てば、ボスニアやルワンダに見られ
るような紛争地での女性に対する強姦や監禁など極端な性暴力の再発防止や、
とかく泣き寝入りに陥りがちな被害者女性に対し、救済や補償の道を確実に切
り開くという観点からも今日的な問題です。
そうした事情を念頭にクマラスワミ氏は、「女性への暴力に関する特別報
告者」に任命されてまもなく、予備報告書のなかで「慰安婦」問題について基
本取り組みを次のように明らかにしました。
予備報告書、パラグラフ291(95年1月)
第2次大戦後約50年が経過した。しかし、この問題は、過去の問題では
なく、今日の問題とみなされるべきである。それは武力紛争時の組織的強姦お
よび性的奴隷制を犯した者の訴追のために、国際的レベルで法的先例を確立す
るであろう決定的な問題である。象徴的行為としての補償は、武力紛争時に犯
された暴力の被害女性のために「補償」による救済への道を開くであろう。
「慰安婦」問題は、国連NGOの戸塚悦朗弁護士によれば、補償問題のみ
ならず犯罪と処罰に関する世界的問題として、国際的先例を確立するリーディ
ングケースと位置づけられ、もはや日本とアジアだけの問題ではなくなったと
のことでした。
このような視点から「慰安婦」問題はここ4,5年間、毎年のように国連
の場で議論され続けてきました。さらに今年、かのクマラスワミ氏が特別報告
者として再任されました。同女史はその抱負を「まず最初に取り上げることは、
武力紛争下における国家による女性への暴力に集中することにする」と人権委
員会で語っていますので、国連において「慰安婦」問題の追求は一層の高まり
をみせそうです。
さらに議論は人権委員会に止まらず、国連の専門機関である国際労働機関
(ILO)でも昨年から活発になりました。日本は「慰安婦」問題の解決が遅
れれば遅れるほど、ますます国際的な注目の的になりそうです。
こうした国際情勢をつまびらかにするために、今回はILOの動きを紹介
したいと思います。特にILO専門家委員会は繰り返し、日本軍の「慰安婦」
制度は明確に国際法違反であると認定しましたので、この厳粛な事実から目を
そらすわけにはいきません。
ILO理事会に、1995年、韓国労働総連盟(FKTU)は、「慰安婦」
制度が強制労働条約に違反するのではないかと訴えました。その事実がクマラ
スワミ報告書、パラグラフ90に下記のように書かれています。
90.また興味深いことだが、1995年3月、韓国労働総連盟は、性奴隷と
しての「労働」に対して補償がなかったので、強制労働を理由として、「慰安
婦」問題の解決を求める訴えを、国際労働機構(ILO)への通報制度に対し
て行ったことを指摘しておく。
韓国労働総連盟が問題にした強制労働とは、ILO第29号(強制労働条
約)第2条第1項を指しますが、同項は強制労働を「ある者が処罰の脅威の下
に強制せられ、かつ右の者がみずから任意に申し出たるにあらざる一切の労務
(Work or Service)」と規定しています。
この条文を「慰安婦」にも適用するのは妥当であると、ILO専門家委員
会の委員・パグワティ判事は述べています。同判事はその理由を次のように述
べています。
第一に「性交は、慰安婦がもしこれを拒絶すれば、軍事的報復を受けるという
脅迫または脅威のもとに、まさに強要された」。
第二に「強制売春は強制労働そのものである。なぜなら、問題の(条約の)文
言は、強制された労働(forced work)のみならず、強制された役務
(forced service)をも含んでいる」
第三に「実際、ILO専門家委員会は、最近売春およびポルノのための子供の
搾取は、第29号条約に違反する子供の強制労働を構成するとの見解を採用
した」
(戸塚「『慰安婦』と強制労働条約違反」『法学セミナー』94年12月号)。
一方、日本政府の見解も「慰安所は軍当局の要請により設営されたもので
あり・・・慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであっ
た」(河野官房長官談話)としていますので、同項の解釈についいてはそれほ
ど問題がないと思われます。
しかし韓国労働総連盟の申し立ては、なぜか理事会では審議されませんで
した。それについて戸塚悦朗氏はこう解説しています(法学セミナー、96年
9月号)。
『NGO筋によると「日本側から異常とも言える圧力が理事会議長団に加
えられたため」とされています。これに対して、同総連盟パク・インサン委員
長は、総会において演説し、「ILO理事会が第2次大戦前・中の組織的性奴
隷に関する我々の申し立てを一年間以上も放置したのはきわめて遺憾である」
と公式に批判した。申し立ては、抗議の意味で、この発言に先立って6月中旬
取り下げられた』
他方、95年6月、FKTUと時を同じくして日本の労働組合・大阪府特
別英語教員組合(OFSET)はILO条約適用勧告専門家委員会に強制労働
問題について申し立てを行いました。これを検討した専門家委員会は、96年
3月、ILO理事会あての年次意見報告書を発表し、OFSETからの投書に
ついて
「申し立ては、軍の『慰安所』に監禁された女性たちへの大きな人権侵害や
性的虐待にふれており、こうした状況は本条約の禁止事項に含まれる。当委員
会は、こうした行為が条約に違反する性奴隷として特徴付けられるべきである
と認める」
と述べ、申し立てが事実なら強制労働禁止の条約に違反するとの衝撃的な意見
を明記しました(注1)。
同専門家委員会は、勧告や救済措置を命じる権限は持っていませんが、同
委員会が「慰安婦」制度は国際法違反とした決定は日本政府にとっては重大で
す。日本政府はこれまで「慰安婦」制度について、道義的責任は認めても法的
責任は認めないと主張し、この前提で問題解決をはかり「国民基金」制度を推
進してきただけに、その基本的な前提が崩れるとあっては、その余波は深刻な
ものがありそうです。
もちろん、日本政府も手をこまねいているわけではありませんでした。こ
の決定に対し5月と10月、二度にわたり反論や国民基金に関する報告書を
ILO提出したとされています。戸塚氏によれば、その内容は国会でも公表さ
れず、極秘扱いにされているとのことです。
したがってその内容の詳細はわかりませんが、一説によれば、強制労働条
約は戦時などの緊急時には適用できないのではないかという指摘がなされたと
のことでした。同じような主張は前回書いたように、人権小委員会でもなされ
ましたが、これはILOにより完全に反証されました。
また焦点の国民基金については、日本政府からは言うに及ばず、日本労働
組合総連合(通称、連合)からも積極的に参加しているという情報が寄せられ
たようです。連合はその中で、国民基金は「スムースに実施されるならば、被
害者の補償のために有意義な計画となり得ると考える」と述べたそうです。こ
の考え自体は正しいと思うのですが、現実に国民基金が多くの元「慰安婦」に
拒否され、スムースにいかないところに問題があり、必ずしも「有意義な計画」
になっていないようです。
このような日本からの情報に対し、97年3月、専門家委員会は再度「慰
安婦はILO条約が禁止する『強制労働』に当たる」という見解を確認し、年
次意見報告書を公表しました(注2)。その一部は文末に載せましたが(注
3)、報告書の骨子は次のようなものです。
1.軍隊「慰安所」に拘禁された女性に対する性的虐待は、強制労働条約に定
められた「絶対的禁止事項」である。
2.「慰安婦」制度は、条約で除外している戦時などの緊急時規定にあてはま
らず、強制労働条約違反である。
3.このように受け入れがたい虐待は、適切に補償されなければならない。日
本政府がこの問題で迅速に適切な配慮をするよう希望する
4.強制労働の不法な強要は、刑事犯罪として処罰されなければならない。日
本の刑法176条、177条の下で強制によるわいせつ行為や強姦は処罰可
能な犯罪である。
5.委員会は日本政府の「国民基金」政策に留意してきた。また、日本政府が
被害者の期待に応えるために必要な措置を取る責務を果たし続け、さらなる
措置について情報を提供することを期待する。
「慰安婦」制度が国際機関により、「国際法違反である」と認定された衝
撃は重大です。国際法違反の場合、政府は被害者に補償をする義務があると同
時に、関係者の処罰を行わなければなりません。しかも国際法には時効という
ものがありません。このような国際的鉄則に日本はどのように対処するのか、
世界が注目しています。
(注1)◇従軍慰安婦は条約違反と報告◇
朝日新聞ニュース速報(96.3.4)
国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会は四日、一
九九五年一年間に検討した問題に関するILO理事会あての年次意
見報告書を発表、旧日本軍の従軍慰安婦はILO二九号条約が禁止
する「強制労働」に当たるかどうかについて、「こうした行為は、
条約に違反する性奴隷として特徴付けられる」との意見を表明した
。二月初め、国連人権委員会の特別報告者が出した元慰安婦個人へ
の日本政府からの補償などを求める勧告に加え、慰安婦問題は強制
労働という別の角度からも国際社会の視線にさらされることになっ
た。
従軍慰安婦に関するILO専門家委員会の意見は、九五年六月、
大阪府特別英語教員組合(OFSET)から寄せられた投書に対す
る回答の形で、今回の合計五百四十一件からなる報告書の一件に加
えられた。同委員会の主な検討対象は、労働条件などに関する加盟
国からの定期報告だが、今度のように各国の労働組合からの直接の
投書を検討して意見を示すこともある。
同専門家委は勧告や救済措置を命ずる権限は持っていないが、O
FSETからの投書について「申し立ては、軍の『慰安所』に監禁
された女性たちへの大きな人権侵害や性的虐待にふれており、こう
した状況は本条約の禁止事項に含まれる。当委員会は、こうした行
為が条約に違反する性奴隷として特徴付けられるべきであると認め
る」と述べ、申し立てが事実なら強制労働禁止の条約に違反すると
の意見を明記した。
(注2)◇「慰安婦は強制労働」を確認◇
朝日新聞ニュース速報(97.3.5)
国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会の一九九七年版年次意見報告
書が四日、公表された。旧日本軍の従軍慰安婦問題が昨年に続いて取り上げられ、「
慰安婦はILO条約が禁止する『強制労働』に当たる」との委員会の見解を改めて確
認し、「戦時であり、適用が除外される」との指摘に対しても「不適用にはならない
」として退けた。
労働法などの専門家で構成される同専門家委は、加盟各国が条約を守っているかど
うかを各国政府などからの報告に基づいて検討している。
慰安婦問題については、九五年六月に寄せられた大阪府特別英語教員組合(OFS
ET)からの投書に答える形で昨年版で初めて取り上げられ、「条約に違反する性奴
隷」と断定し、「政府がすみやかに適切な配慮をすることを希望する」と、被害者の
救済を求めていた。
その後、日本政府から同委に対し、女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性
基金)の推進など、元慰安婦への支援策の説明が二度にわたって書簡で行われたため
、最新版で再び取り上げられたものと見られる。
昨年の報告に対し、日本政府は「意見は投書からの伝聞だけによる一方的なもの」
と反発していたが、新しい報告は昨年の経緯を説明する形で「慰安婦への虐待は条約
が絶対的に禁止する事項に当てはまると委員会は報告した」と述べ、昨年の見解が揺
るがないことを表明した。
そのうえで、慰安婦が戦時などの緊急時に「強制労働」の適用除外を設けたILO
条約二条に当たるかどうかを検討し、これまでのILOの見解を総合して「適用除外
には当たらない」との考えを明らかにした。また、強制労働を強いれば刑事的処罰の
対象になる点も指摘し、「日本では強要や強姦は罰則のある犯罪である」として、具
体的に日本の刑法百七十七条を挙げた。
(注3)条約および勧告の適用に関する専門家委員会報告書
特定国に関する一般的報告および意見
第29号強制労働条約(1930年)
日本(批准:1932年)
(前半省略)
委員会は、(OFSETにより)通報された虐待が『強制労働』条約に定
められた絶対的禁止事項に含まれることに留意した。さらに委員会は、かかる
受け入れがたい虐待は、適切な補償の原因とされねばならないと判断したが、
それは、条約の効力発生後の過渡的期間内に第1条(2)の下で容認され得る
強制的サービスの諸形態についてさえも、条約が、かかるサービスをさせられ
た者には、補償が支払わなければならず、かつ第14条、15条による障害年
金への権利があると定めているからである。
(途中省略)
委員会は、緊急概念は、条約が例示的に列記するように、突然の、予見し
がたい偶発的事件であって、即時的な対応措置を必要とするものに関わると指
摘してきた。条約に規定された例外の限界に関わるので、労働を強要できる権
限は、真に緊急な場合に限らねばならない。さらに、強制されるサービスの内
容・程度もそれが用いられる目的と共に、その状況により厳密に必要とされる
範囲内に制限されねばならない。
条約第2条(2a)により条約の適用が除外される「強制兵役法により強
制せらるる労務」の範囲を「純然たる軍事的性質の作業に対して」のみ限定し
ているのと同様であるが、緊急に関する第2条(2d)は、戦争または地震の
場合でありさえすればいかなる強制的サービスをも課することができるという
白紙許可ではないのであって、同条項は、住民に対する切迫した危険に対処す
るためにどうしても必要なサービスについてしか適用できないのである。
委員会は、本件は、条約の第2条(2d)および第2条(2a)により認
められた(緊急時)適用除外事由に該当しないのであり、したがって、日本に
よる「強制労働」条約違反が存在したものと結論する。
委員会は、条約第25条の下で、強制労働の不法なる強要は、刑事犯罪と
して処罰されなければならず、この条約のいずれの締盟国も、法令によって課
せられる処罰が真に適当でかつ厳格に実施されるよう確保する義務を負ってい
ることを想起する。委員会は、日本の刑法第176,177条の下で強制によ
るわいせつ行為および強姦は処罰可能な犯罪であることに留意する。
委員会は、1996年10月30日付報告書で(日本)政府が提出した、
「戦時慰安婦」に対する謝罪と反省を表現し、さらに元「慰安婦」への償い金
を支払うために設置された「女性のためのアジア平和国民基金」の全運営費を
支持し、かつこれに対するあらゆる可能な支援を与えるために取ってきた措置
ならびに政府資金を利用してなされる医療・福祉支援に関する詳細な情報に留
意してきた。
委員会は、(日本)政府が被害者の期待に応えるために必要な措置を取る
べき責務を果たし続けるであろうし、またそのさらなる措置に関する情報を提
供するであろうと期待している。
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http://www.han.org/a/half-moon/ (半月城通信)