半月城通信
No. 14

[ 半月城通信・総目次 ]


  1. 「従軍慰安婦」20、質疑応答1
  2. 「従軍慰安婦」21、質疑応答2
  3. 「従軍慰安婦」22、質疑応答3
  4. 松本氏の日本人北方起源説
  5. 朝鮮奨学会
  6. 半月城通信の反応
  7. 「従軍慰安婦」23、韓国政府の「個人補償」に対する考え
  8. 「従軍慰安婦」24、個人補償と外交保護権(2)


- FNETD MES( 7):情報集積 / 海外政策 00566/00566 PFG00017 半月城 「従軍慰安婦」20、質疑応答1 ( 7) 96/07/13 18:15 00550へのコメント    河原さん、どうも返事が遅れました。ご賢察のとおりです。このたびの 私の「従軍慰安婦」シリーズに対する反応や、これらを載せてオープンした私 のホームページ「半月城通信」に対する反響がかなり寄せられ、その対応にお おわらわの毎日です。さらに、仕事のほうでも来週からの海外出張のしわ寄せ が来るなどかなり忙しく、この会議室のフォローはつい後回しになりがちです のでご了承下さい。    さて、河原さんの質問(#550)ですが、疑問符のついているところ を文末に(注)としてピックアップしました。これらを総合すると河原さんの 意見は次の三点に集約されるように見受けられます。 1。「従軍慰安婦」の日本政府に対する個人補償や請求権はすでに存在しない。 2。その請求権は「日韓協定」や「日中共同宣言」などですでに解決された。 3。その認識に基づいて、韓国政府は「従軍慰安婦」に生活支援策を実施して  いるし、中国政府は「従軍慰安婦」などの発言を抑えている。したがって、  「従軍慰安婦」の個人補償請求はそれ自体無理がある。    このように整理すると、問題の焦点は日韓協定などで「従軍慰安婦」個 人の請求権は消えたかどうかに絞られると思います。そのためには日韓協定、 特に請求権協定をもう少しくわしくみる必要があります。    もともと日韓請求権協定はそのタイトルにあるように、  (1)財産および請求権  (2)経済協力 について「どんぶり勘定」で合意し、3億ドル相当の生産物・役務の無償供与 がなされ、あわせて2億ドルの有償借款がなされました。これについて、日本 政府は(2)の経済協力を強調し、他方の韓国政府は(1)の請求権を強調し ました。    日本、韓国政府共に、国民をだましたというと語弊がありますが、両国 政府は請求権協定に限らず、日韓併合条約など協定全般を自分に都合のいいよ うに一方的に解釈し、相手国民にはとうてい通用しないような独善的な説明を それぞれの国民にしてきました。外交交渉はお互いの妥協の上にまとまるので すから、それはそれでやむを得ない面があります。    さて、請求権協定に達するまでの韓国政府の立場ですが、財産および請 求権についてそれなりの根拠を示し一貫してそれを要求してきました。その要 求の成果として、3億ドル相当の無償供与を賠償ないし補償金として1965 年から受け取りました。    それまでの韓国政府の要求の根拠の中にはもちろん「従軍慰安婦」に対 する補償は含まれていませんでした。これについて、国連のクマラスワミ報告 書は次のように指摘しました。        ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー    日本政府は法的責任について、サンフランシスコ講和条約(一九五一年) や日韓協定(一九六五年)で解決済みとの立場を取っているが、報告書は、当 時は慰安婦問題は考慮されておらず、被害者が個人補償などを求める権利は国 際法で認められていると反論している(96.02/06 読売: 慰安婦問題で国連人 権委が報告書)。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私もこの報告書のように、少なくとも「従軍慰安婦」については請求権 協定の範囲外で韓国政府が補償する筋合いはないと思っています。    現在、韓国政府は「従軍慰安婦」に対し、河原さんが指摘されたように 「93年8月から生活支援策を実施」していますが、これはもちろん補償では なくあくまでも生活支援策です。彼女たちが負った「精神的」「肉体的」苦痛 は生活援助金ではとうてい償えるものではありません。 次に、「従軍慰安婦」以外の個人補償ですが、当時すでに問題視されて いた分については少なくとも韓国政府は請求権協定の中に個人補償も含まれる と当時解釈していたと思います。 一方、日本政府の国会での公式見解は#525に書いたように「個人の 請求権は条約により消滅していない。しかし国が個人に代わり外交保護権とし てそれを請求することはできない」というものです。 私も、「従軍慰安婦」のような悲惨な人権侵害は、財産権などお金で解 決がつく問題とは違って、「個人補償の権利を国家が条約で勝手に放棄するこ とはできない」という日本政府の主張に共感します。これについて、河原さん はどのようにお考えでしょうか? 次に、中国政府の対応ですが、日中共同宣言で個人補償を放棄したわけ でもないのに、北京女性会議などで元「従軍慰安婦」の発言を抑えているのは、 日本との友好関係を悪化させたくないためであるという見方を、確か朝日新聞 だったか採用していた記憶があります。    しかし、これは状況や政権担当者が変われば、中国政府は個人補償請求 を後押しする可能性があります。すでに銭其深・副首相兼外相の発言「賠償請 求放棄に個人の賠償請求は含まれない」にその兆候がみられます。    その時、日本はどのように対処すべきでしょうか? 731部隊の犠牲 者は「従軍慰安婦」にひけをとらない人権侵害といえますが、こうした人たち の訴えに対し、今日の世界的な人権意識の高揚に逆らって萩原さん(#562) のように  >どこの国でも 主権国家だというならば、自分達の同胞は自分達の手で救  >うことが基本です。それができない無能な政府は国家を解体したほうが良  >いでしょう  という見方を河原さんも採用されますか? 以上二点につき質問したい と思います。 (注)河原さんの疑問 1。韓国政府が自国の元従軍慰安婦にたいして93年8月から生活支援策を実  施しているのは何故でしょう?(これは韓国政府が日韓協定によって、みず  からの補償義務を果たしていることを示しているのではないのか) 2。(したがって)日本に「従軍慰安婦」の賠償を求めることは筋違いではな  いでしょうか。  日本政府が補償要求に応じなければならない理由は何なのでしょうか? 3。自国政府でさえ認めていない「請求権」に日本が応じなければならない理  由は何なのでしょうか? 4。半月城さんは「訴訟の壁」が、日本(政府)だけに存在するように考えて  おられるようですが、むしろそれは韓国や中国の政府にあるのではないでし  ょうか?  そしてそれは、「請求権」の存在自体に無理があるからではないでしょうか?


- FASIA MES(10):【アンニョンクラブ】    韓国・北朝鮮 02527/02527 PFG00017 半月城 「従軍慰安婦」21、質疑応答2 (10) 96/07/13 23:41 02467へのコメント    えーす寝台さんのいくつかの質問に答えたいと思います。まず、勘違い の件ですが、えーす寝台さん曰く、  >>クマラスワミ氏自身が『「家庭内暴力」については詳細に報告したが、慰 >>安婦報告書については「提出した。日本政府の批判に留意する」と述べた >>だけだった。」(共同 4/19)んですけど。半月城さんはなにか勘違いさ >>れていませんか?クマラスワミ氏は最終的には『慰安婦問題』に関して詳 >>細に報告していないんです。これに対して日本政府がどのように法律論争 >>を仕掛けられるのでしょう? 私は時々勘違いをします。しかし、NHKは勘違いをしていないと思い ます。日本政府がしかけた法律論争の経過は#2057に書きましたが、それ に加筆します。 96年2月、特別報告者、クマラスワミさんが報告書「女性に対する暴力の廃  絶に関する特別報告」を提出。 96年3月(?)、日本政府は、人権委員会に「『女性に対する暴力』特別報  告官(クマラスワミ氏)により提出された報告の第一付属文書(従軍慰安婦  関係) についての日本政府の見解」と題した40ページの反論書を提出。   その骨子は 1。クマラスワミ報告には事実誤認があり、信憑性・中立性に欠けるので人権  委員会はこれを拒否すべきである。 2。報告者の国際法の解釈には基本的な誤りがある。伝統的な国際法では過去  に遡って罪を裁くことはできない。 3。日本の法的責任はサンフランシスコ平和条約で解決済みである。 (NHK、ETV「従軍慰安婦」、96.5.20)    この主張に沿った文書を各国政府代表にも配布しました。その内容は、 報告書は「恣意的で根拠のない国際法の“解釈”に基づく政治的発言」あると 決めつけていました。そして、「このような議論を受け入れるならば、国際社 会の法の支配に対する重大な侵害となろう」と報告書を非難しました。    この文書を受け取ったアジアの政府高官の間では「国連が任命した報告 官を中傷するものだ」とか、「脅しともとれ、委員会の構成国に対する圧力だ」 との反発も広がったということでした(朝日新聞、ニュース速報,1996.5.8)。 96年3月末 日本政府は上記の反論書を撤回し新たな見解書を提出。上記の主張を大 幅に変更。新たな主張は、  1。(報告は)十分な根拠がなく、日本政府は重大な留保をする。  2。日本の歴代の首相が謝罪と後悔を表明してきた。  3。女性のためのアジア平和基金で償いをしようとしている。 というのが主な内容で、見解書では具体的な法律論争を撤回しました。    次に国際法違反の認識ですが、  >>『現在』の日本政府は国際法上の責任を認めてはいませんし、そのような >>コメントもしておりません。 『現在』の日本政府の立場はそのとおりであると思います。ただ私がい いたいのは、日本政府は<「従軍慰安婦」問題の法的責任はサンフランシスコ 条約などで解決済み>と主張しているので、現在は法的責任がないと考えてい ても、戦時中の「従軍慰安婦」制度自体は法的責任を負うべき性質のものであ ると認識しているのではないだろうかという点です。また、ここでいう法律は 国内法ではないので、国際法であると考えられます。 次はユスコーゲンスですが、  >> ユースコーゲンスが国際的に確立されたのは1969年の『条約に関するウ >>ィーン条約』によってです。学説のみで条約が無効になった事例がありま >>したらご紹介ください。    法律について私は素人でよくわかりません。満月上さん、ひまになった ら教えていただけませんか? 最後は、アメリカの日系人強制収容の問題です。  >> アメリカの日系人はアメリカ国籍で、現在名乗り出られている元「慰安 >>婦」のかたは外国人だということをお忘れなく。 これについて興味深い資料がありますので引用します。 ーーーーーーーーーーーーーーーー    そういえば、アメリカとカナダは大戦中の日系人強制収容問題について、 「謝罪と補償」を行ったが、両国は89年に日本にも係官を派遣し、その問い 合わせに応じたり、申請の受付を行った。「当時の収容者であれば、その後ど こに住み、どこの国籍を持つかによって影響は受けないのである。 (田中宏他著「戦争責任・戦後責任」朝日選書P46、1994)          ーーーーーーーーーーーーーーーー    以上で回答は終わりますが、えーす寝台さんの#2468、  >> しかし、しかしです。今現在、日本の戦後処理の拙さからたくさんのか >>たが苦しんでいる、そういう現実があるわけです。これに対して日本政府 >>は『重大な』道義的責任があるにもかかわらず消極的な対応しかしていな >>い。これについて私としては不満があるわけです。前にも書きましたが、 >>政府による国家補償はおそらくできないと思います。でも、政府が『財団 >>法人女性基金』に資金を拠出し、元「慰安婦」に『償う』ことは可能だと >>思うのです。私は日本政府にも不満がありますが、この『女性基金』を姑 >>息な手段で潰そうとする運動体にも疑念があります。 この文章を読んで始めて、えーす寝台さんの一連の主張が理解できるよ うになりました。これを最初のほうで書いてくださればよかったのですが。    アジア女性基金の理事会は、国庫金を実質的に補償額の上乗せとする方 向で動き出しました。7月11日の朝日ニュース速報は   「アジア女性基金(原文兵衛理事長)の作業部会は十日夜の理事会で、元 従軍慰安婦に対し、一人二百万円以上の「償い金」とは別に、国庫から今後十 年間で総額七億三千万円を医療・住宅費など「生活支援金」として支給するこ とを提案。外務省は大筋で同意し、実質的に補償額を上乗せする方向となった」 と報道していました。これは、ドイツのポーランドに対する和解基金を連想さ せます。    http://www.han.org/a/half-moon/    PFG00017                  半月城


- FASIA MES(10):【アンニョンクラブ】    韓国・北朝鮮 96/07/14 - 02531/02531 PFG00017 半月城 「従軍慰安婦」22、質疑応答3 (10) 96/07/14 10:08 02515へのコメント    個人の請求権を日韓条約で放棄したのは日本・韓国両国の憲法違反では ないのかという小野Kim貴史さんの疑問はもっともであると思います。    韓国憲法との関連については私はよく知りませんが、日本国憲法との関 係についてはこの会議室#2346に書きました。意表をつかれるかも知れま せんが、日本政府の見解は下記のように「国が放棄したのは、個人の請求権そ のものではなく外交保護権であった」としています。したがって憲法違反では ないと解釈しています。    「・・・いわゆる日韓請求権協定におきまして、両国間の請求権の問題 は最終かつ完全に解決したわけでございます。その意味するところでございま すが、日韓両国間に存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決 したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持ってお ります外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、 いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものでは ございません。日韓両国で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げ ることはできない、こういう意味でございます」 (1991.8.27 衆議院予算委員会会議録第3号10ページ)    また、こうした見解を持つに至った歴史的背景は#2458に書きまし たのでご参考にしてください。そこにも書きましたが、私もこの日本政府の考 え自体には賛成します。ただし、日本政府の戦争補償の二重基準には反対です。    終わりに個人的なことですが、来週から出張のため10日くらいパソコ ン通信を休みます。                          半月城


PCVAN JREK #3055/3056 日本史ボード ★タイトル (SPM07550) 96/ 6/30 19:51 ( 34) 【古代史】松本氏の日本人北方起源説>#2957  半月城 ★内容    カーターさん、埴原和郎氏が松本氏の北方起源説をどのようにみている かご存じですか? あるいはご存じかも知れませんが、カーターさんの書き込 みにはそのことがふれてなかったので念のためにその意見を紹介します。    (松本は)「・・・日本民族の起源は、シベリアに、さらにいうならば、 バイカル湖畔にあると結論する」といい切っている。    このように、松本氏の研究には種々の特異な点があるため、いくつかの 疑問が私どもの頭をか すめる。その一つは、他の多くの遺伝子と違って、なぜ ガンマグロブリンの遺伝子だけが広い地域にわたって均質な頻度を示すのか・ ・・という疑問。第二は他の遺伝子ではなく、とくにこの遺伝子だけが日本人 の起源にとって重要だと考えるのはなぜか・・・という疑問。第三は、「日本 人の起源がバイカル湖畔にある」という結論を、なぜこのように性急に出さな ければならないのか・・・という疑問である。    松本が調査し、日本人にもっとも近いとしたブリアート族は、モンゴル 語群(アルタイ語族)に属するモンゴル語族の一種だが、古く見積もっても1 2ー13世紀のモンゴル帝国時代に萌芽を持つ新しい部族である。またバイカ ル湖沿岸に人口の多くが集中したのはせいぜい17ー18世紀いらいで、多分 に政治的または経済的理由によるものである。がんらい、彼らは蒙古、東部シ ベリア、中国東北部に広く分布していた人々であり、<ブリアート族>という 名称も民族名(言語族)であって、人種名ではない。それにもかかわらず、松 本がバイカル湖沿岸という特定の地域を日本人の故郷と結論した理由は何か。 これは民族と人種の混同ではないのか。    尾本恵市(1993)は松本説を紹介した論文の中で、「・・・ただ一 つの多型で集団の起源を論ずるのは危険であり、今後より多数の遺伝子座をも とにこの問題を論ずる必要がある」といっている。私も同感だが、さらにつぎ の言葉をつけ加えたい。    人間の集団は、それが人種であれ民族であれ、ヒト・文化・自然の複雑 多岐にわたるからみあいの中で形成され、また絶えず変容していくものである。 このダイナミズムを無視して、人種や民族の形成史を語ることは不可能である。    いずれにせよ、松本のデーターをどのように理解すべきかということは、 正直のところよく わからない。そこで今は、このような遺伝子の存在が報告さ れているという事実を紹介するにとどめる。  (埴原和郎氏著、「日本人の成り立ち」P246人文書院、1995) 半月城


文書名:[zainichi:494]朝鮮奨学会 Message-Id: <199607222043.NAA13845@hopemoon.lanminds.com> Date: Mon Jul 22 13:43:29 1996    皆さんは朝鮮奨学会をご存知でしょうか? 在日韓国・朝鮮人学生に奨 学金を支給している財団法人です。戦前からあるこの団体は東京・新宿で貸し ビルを経営し、その利益で中立の立場から奨学事業を行っています。昔、私も ここにはお世話になったことがあります。その上、現在は息子がお世話になっ ています。この奨学会で最近ちょっとした異変が起き、それに関連して署名用 紙が回ってきましたので紹介します。 半月城       ーーーーー 署名用紙 ーーーーーーーーー     梁東準氏の朝鮮奨学会への復職を要請します。   本年の三月、朝鮮奨学会の評議員で梁東準氏が突然、理事を解任されたこ とを知り、大変驚いています。あまりに唐突な出来事でしたので、何がなにや ら、さっぱりわかりません。朝鮮奨学会に事のいきさつを問い合わせても、口 をにごすだけで、明快な説明が得られませんでした。   梁東準氏は、25年以上の長きにわたって朝鮮奨学会で働いてきました。 日本の学校に学ぶ在日同胞の子供たちを訪ねて全国各地の高校の門を叩き続け て来ました。門前払いに合っても、冷たくあしらわれても、めげることなく、 ねばり強く何回でも足を運んで行った氏の熱意と努力に、固く閉ざされていた 校門が開かれていったのです。その事によって、その内部で他人の目を気にし ながら、もんもんと苦しんでいた、たくさんの同胞の子供たちが、どれ程勇気 づけられたかわかりません。  「いじめ」や「教師による差別」事件を耳にすれば、どこへでも出かけて いきました。そして、虐げられている子供を守るために常に誠実に事に対処し てきました。子供達へ注ぐ氏の視線がどこまでも温かく純粋であればある程、 虐げるものへの攻撃には容赦しませんでした。”理不尽””不正義”に立ち向 かう氏の姿に、人はよく、あの柔和な面差しのどこにそんな激しさが潜んでい るのか不思議に思うと言います。「差別」や「いじめ」の側にある学校や教育 委員会を相手にした時の舌鋒の鋭さには定評があります。   あまたの「いじめ」や「差別」事件の解決に奔走するかたわら氏は日本人 教師への啓蒙活動も活発に行ってきました。学校単位で、あるいは学校を管轄 する地区の教育委員会での講演を通して「在日韓国・朝鮮人の教育問題」への 関心を促して来たのです。その講演回数は150回を越え、東京23区の教育 委員会は、一度、氏を招いて研修会を持ったと聞いております。   このように、梁東準氏氏の活動は朝鮮奨学会の奨学金給付に限定されたも のではなくもっと幅広く、在日同胞の教育全般にわたるものでした。   在日の社会も、一、二世の時代から三、四世の時代に移ろうとしています。 民族や母国を肌で実感できない三、四世の教育問題には深刻なものがあると民 団内部でも議論されています。価値観が多様化している今日、民族教育問題も ますます複雑になっています。それ故にこそ、梁東準氏が培って来た業績、豊 富な体験と、その専門的知識が必要なのだと思います。   今、梁東準氏を朝鮮奨学会から失うことは、在日同胞社会全体にとって大 きな痛手です。氏の活動に共鳴し、時に激励されながら支援してきた者として 梁東準氏の朝鮮奨学会理事への復職を心より要請いたします。   1996年6月 呼びかけ人 安 王錫 金 博夫 高 二三  朝鮮奨学会評議委員会貴中 ------------------------------------------------------------------- | 姓  名 |     住     所 (および学校名)  | 印 | |------------------------------------------------------------------- | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | ------------------------------------------------------------------- ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 連絡先  東京都千代田区飯田橋2ー13ー9 不二ビル                       新 幹 社 TEL 03-3221-9947


- FNETD MES( 7):情報集積 / 海外政策 00583/00584 PFG00017 半月城 半月城通信 ( 7) 96/07/23 22:01 00572へのコメント    個人的な都合によりちょっと間が空きましたが、#572および#56 7に対するコメントを遅ればせながら何回かに分けて述べたいと思います。 まずは書きやすいところから書き、サハリン残留韓国人の問題などは後回しに したいと思います。  >>なかなかお忙しいようですが、「半月城通信」などへの反響はどのような >>ものでしょう? >>賛否が半ばという状況でしょうか?    ホームページ「半月城通信」に対する反応はすべて好意的なものばかり です。こう書くと自画自賛に聞こえるかも知れませんが、これは当然といえば 当然かも知れません。というのは、戦後補償問題などを「くだらない」と思っ ている人はまず私のホームページにアクセスしないでしょうし、またたとえア クセスしても感想をわざわざメールでよこさないでしょうから。 コメントの主なものを紹介すると次のとおりです。 ・「従軍慰安婦」シリーズはよくまとまっているので、所属している協会の勉  強会のテキストに使いたい。 ・ナチスが虐殺したのはユダヤ人600万人にとどまらない。ロマ民族や彼ら  が社会的に無用と判断した人たち500万人が犠牲になった。また、ナチス  の強制収容所にも慰安施設があった。 ・日本が「従軍慰安婦」に個人補償したがらないのは、いったん補償を始める  と収拾がつかなくなるからである。それほど日本は過去にひどいことをした  が、そうした補償でつぶれるような日本なら、そもそも世界平和になど貢献  できるものではない。 ・在日問題あり、市民運動論あり、さらに、古代史や秀吉朝鮮侵略の論議あり。  これだけのディスカッションをこなしているとは、敬服しました。 ・民族教育についての書き込みを、所属する会の会報に転載したい。 おわりに、ご参考に私のホームページの「ごあいさつ」を記します。    私のモットーは「定住韓国人としてさわやかに生きる」というシンプル なものです。この立場から私はこれまでパソコン通信「ニフティサーブ」や 「PCVAN」にて、韓国・朝鮮に関する話題でかなり発言してきました。    ある時は、ふだん日本人には軽く見過ごされてしまうような何気ないこ とでも、私たち定住外国人にとっては時には重大な問題になり得るということ を書きました。またある時は、昔、日本は朝鮮半島と意外な関係にあったこと を興味本位で書きました。    そうした書き込みの山が、ホームページ [The HAN World] を主宰され ている金明秀さんの目に止まり、同氏の勧めと全面的なご協力により、同氏の [The HAN World] の中にホームページ「半月城通信」を開設しました。通信文 は本来対話形式であるのに、通信集の中では私の一方的な意見だけ載せている のでちょっと読みずらいかも知れませんがご了承下さい。    なお、このホームページについてご感想なりご意見がありましたら下記 へ遠慮なくメールをください。今後の参考にしたいと存じます。   http://www.han.org/a/half-moon/       半月城


- FNETD MES( 7):情報集積 / 海外政策 00584/00584 PFG00017 半月城 韓国政府の「個人補償」に対する考え ( 7) 96/07/23 22:02 00572へのコメント 「従軍慰安婦」23    河原さんの疑問、#562はもっともです。 >>これは私の指摘の前半です。私の質問の重点は、「金泳三・大統領が『物 >>質的補償を日本に求めない』『元従軍慰安婦の女性などへの補償は、来年 >>(度)から韓国政府予算でおこなう』」という指示を出した」のは、韓国 >>人には日本政府への個人補償請求権がないという証拠ではないのか、とい >>うものです。つまり「求めない」は「求められない」の意に解すべきもの >>だと思います。 >>もし半月城さんが主張されるように、韓国人の元従軍慰安婦に個人補償請 >>求権が今なおあると韓国政府が認めているのであれば、「物質的補償を日 >>本に求めない」などとは言わないはずです。 韓国政府が「従軍慰安婦」の個人補償をどう考えているのかについて少 しくわしく書きたいと思います。    韓国の金大統領は就任直後「未来志向の韓日関係」を提唱し、上記のよ うに「従軍慰安婦」問題についての見解を明らかにしました。この発言の背景 ですが、それを朝日新聞は次のように見ていました(93.3.14)。   「金大統領の今回の指示は、『日韓条約で戦後処理は解決ずみ。慰安婦へ の補償義務はない』とする日本政府の顔を立て、事実上の『貸し』をつくる形 となる。その一方で、貿易不均衡問題などの対日関係で韓国が有利な立場に立 つことを狙ったものとみられる」    このような政治的効果をねらって大統領の発言がなされた可能性は十分 考えられます。この見方が正しいとすれば「従軍慰安婦」の補償問題は外交取 引の材料に使われた感があります。    一方、韓国での反応ですが、この発言は韓国でも波紋を呼んだためか、 発言の4日後に韓国外務部アジア局長がわざわざ次のように補足説明をしまし た。   「(大統領が)『物質的補償を日本側に求めない』との方針を述べたこと について、『被害者への個人的補償まで含むものではない』と表明。韓国政府 として、元慰安婦が提訴などの形で日本政府に対して個人補償を求めるのは否 定しないとの立場を明らかにした」(93.3.18 朝日) こうした報道からわかるように、大統領発言は「従軍慰安婦」などは (たとえ日韓協定後に新たに露呈した問題であっても)未来志向の韓日関係を より重視し、韓国政府は日本政府に新たな物質的補償を求めないということを 公言したもので、個人補償の存在を否定したものではなかったのです。。    このように、韓国政府は国家として物質的補償の要求を完全に放棄した ので、その見返りとして韓国政府は「従軍慰安婦」に国家として何らかの補償 をする必要が生じました。同時に、老齢化し困窮状態にある「従軍慰安婦」に 社会福祉的な援助をする必要もありました。    その一環として、河原さんもふれているように、法律「日帝下日本軍慰 安婦に対する生活安定法」を制定し、元慰安婦(生存者)に対し、一人当たり 生活保護基本金約500万ウォンの一括支給をはじめ、毎月15万ウォンの生 活支援金、医療費の無料化、公営賃貸住宅への入居斡旋などを決定しました (93.5.20 統一日報)。こうした措置は、もちろん彼女たちが受けた人権侵害 への「補償」でないことはいうまでもありません。    こうした施策からわかるとおり、韓国政府は決して民間の個人補償訴訟 について「壁」を作って民間訴訟を抑えているわけではありません。それどこ ろか時には民間訴訟に協力するというリップサービスまでしました。その例と して、韓国外務部長官が韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)に書簡を送り、 「従軍慰安婦」の懸案問題について次のように述べました  1。日本政府の(強制性を認めた)第2次調査結果によって「従軍慰安婦」   問題の完全な真相解明がなされたとは見ておらず、今後も日本政府は真相   解明を続けなければならない。 2。韓国政府は今後、   (a)、日本政府の真相究明を注視する。   (b)、国連等、国際分野での真相究明を注視する。   (c)、民間による、日本政府に対する訴訟と真相究明活動に関心を払い、       これらに協力する。  3。韓国政府が賠償・補償を要求しないとしたのは、国民的・国家的誇りを   高揚させる一方、日本政府に徹底的真相究明を要求する趣旨である。 (山下英愛訳、韓国外務部長官の1993年8月28日付け挺対協に対する   回答書簡) このような個人補償に対する考え方は政治家だけでなく、韓国法務部高 官などの官僚も採用していたことが、次のように国連のクマラスワミ報告書か らわかります。   「司法省と検察庁の高官は・・・戦争集結に際して締結された二国間およ び国際諸条約が「慰安婦」問題をも処理済みとしているかどうかを定めるのは 大変困難であると述べた。しかし、補償を得る手段として、個人が日本国内の 民事裁判所に提訴した民事訴訟に関しては、何の異議もないことが表明された」 (戸塚悦朗他訳) 以上の説明で、韓国政府の個人補償に対する考え方を納得していただい たでしょうか?    ところで、上の韓国法務当局の見解の中で、法務当局者が日韓協定など で「従軍慰安婦」問題が処理済かどうか微妙であるとしているのは注目されま す。これはたぶん、下落合95さんが#567で書かれていたような「従軍慰 安婦」の貯金や軍票といった「財産請求権」の考え方ではおそらく処理ずみと する一方で、彼女たちへの人権侵害に対する法的・道義的責任は必ずしも解決 されたとみていないためではないかと想像されます。    http://www.han.org/a/half-moon/ PFG00017    半月城


- FNETD MES( 7):情報集積 / 海外政策 96/07/25 - 00586/00586 PFG00017 半月城 個人補償と外交保護権(2) ( 7) 96/07/24 23:31 00572へのコメント 「従軍慰安婦」24 #572(河原さん)  >>>「個人補償の権利を国家が条約で勝手に放棄するこ  >>>とはできない」という日本政府の主張に共感します。これについて、河原  >>>さんはどのようにお考えでしょうか?  >>  >>この「 」の中も、半月城さんの言葉ではないでしょうか? >>もし本当にこれが「日本政府の主張」であると言われるのであれば、いつ、 >>誰が、どのような状況の中で言ったのかお示し下さい。私の考えを述べる >>のはその後にさせていただきます。    この「    」の中を原文のまま書くと「個人の請求権まで放棄した ものとはいえない。仮にこれを含む趣旨であると解されるとしても、それは放 棄できないものを放棄したと記載しているにとどまり、国民の請求権はこれに よって消滅しない」となります。    このくだりは#525に書いたように、原爆被害者やGHQ被害者によ る提訴に対して政府の主張として次のようになされました。    「対日平和条約第19条にいう『日本国民の権利』は、国民自身の請求 権を基礎とする日本国の賠償請求権、すなわちいわゆる外交的保護権のみを指 すものと解すべきである。    ・・・イタリアほか5ヵ国との平和条約に規定されているような請求権 の消滅条項およびこれに対する補償条項は、対日平和条約には規定されていな いから、このような個人の請求権まで放棄したものとはいえない。仮にこれを 含む趣旨であると解されるとしても、それは放棄できないものを放棄したと記 載しているにとどまり、国民の請求権はこれによって消滅しない。したがって、 仮に原告等に請求権があるものとすれば、対日平和条約により放棄されたもの でないから、何ら原告等が権利を侵害されたことにはならない」  (1963年12月7日、東京地裁原爆訴訟判決の摘示。判例時報355号 P17)    次の河原さんの疑問 >>> 一方、日本政府の国会での公式見解は#525に書いたように「個人の >>>請求権は条約により消滅していない。しかし国が個人に代わり外交保護権 >>>としてそれを請求することはできない」というものです。 >> >>「     」の中の言葉は半月城さんの翻訳ではないですか? ですが、「    」のなかは#525に書いたように、シベリア抑留者の請 求権問題のときなされた下記の政府答弁を要約したものです。    「日ソ共同宣言第6項におきます請求権の放棄という点は、国家自身の 請求権および国家が自動的にもっておると考えられております外交保護権の放 棄ということでございます。したがいまして、ご指摘のように我が国国民から ソ連またはその国民に対する請求権までも放棄したものではないというふうに 考えております」  (1991年3月26日、参議院内閣委員会での外務省欧亜局審議官答弁)    この解釈について、下落合95さんは#532で >> 確かに個人の財産権にまで外交保護権の行使(放棄の誤り?)の結果消 >>滅するとは考えにくいですが、その後は国内政策の立法措置によって解決 >>する以外はないでしょう。 と述べていますが、この「立法措置」とは加害国側の政策を指すのでしょうか?    もしそうであるとすると、河原さんの発言#572にある  >>私はその後の日本政府の(民間基金でという)対応を見ていて、下落合  >>95さんの解釈を支持します。 という考えにちょうどつながるのかも知れません。この場合、国民基金は立法 措置ではないという違いはもちろんあります。それでも日本政府が「国民基金」 を作ってでも「従軍慰安婦」に償い金を出そうとするそもそもの発想が次の政 府の    「・・・日韓請求権協定におきまして・・・個人の請求権そのものを国 内法的な意味で消滅させたというものではございません」(#518) という答弁の延長上にあるとするとそれはそれなりにつじつまが合います。 どのような対応であれ、問題はそれが被害者の納得をある程度得られる ものであるかどうかという点です。これはその対応がどの程度誠実になされる かにもよります。かって台湾の元皇軍兵士やサハリン残留韓国人の場合は被害 者とうまく和解できましたが、「従軍慰安婦」に対する国民基金の場合は前途 多難なようです。    http://www.han.org/a/half-moon/       半月城


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